第二話 能力確認
「えーっと・・・レイさん、そろそろ話してくれないかな?」
詳細なスキルを確認後、体を動かし身体能力の把握を終えた俺は、未だ怒りのオーラを撒き散らすレイに話し掛けることにした。
俺の声に反応を示し振り返ったレイは、その整った顔に笑みを浮かべたかと思うと――
消えた。
「次、そんな話し方したらアタシの新必殺技・メタメタ切りをお見舞いするからね?」
「ちょっ!?なんでキレてんだよ!?
大体お前のエモノは拳じゃなかったのか!?」
目上の人に礼儀を尽くした筈がキレられた。
コレだから女ってやつは・・・
ソレにしても今の動きは凄かったな。
レイが消えたかと思えば首筋にナイフが突き付けられていた。
とても同じ人間の動きとは思えない。
ってコイツはエルフだったか。
「その調子よ。
今まで通りに仲良くしましょ?」
「仲良くしたい相手の首筋に武器を突き付けるのはどうかと思うぞ」
「堅いこと言わない!男の子でしょ。
あ、質問に答えておくわね。モンスターに直接触れるのが嫌だからダガーにしたのよね」
「相変わらず勝手な奴だな。
で?どうしてお前がここにいるんだ?」
「サイガを捜しに来たからにきまってるじゃない?
あんたのスタート地点は聞いてたし、あんたなら絶対コッチに来ると思ってたし」
「前言撤回。正直助かったわ。
今の俺のステータスじゃ多分この森を抜けられないからな」
「そんなことないでしょ?
森を抜けられるくらいのステータスはあるはずよ」
「無理無理。だって俺の片手剣、5しかないんだぜ?
さっきのお前の動きもさっぱりわからなかったし今のままだと戦えねーよ」
この世界が『体験版』の法則に準じたモノだと仮定した場合、俺の現時点での戦闘力は最低以下だ。
『体験版』でのスタート時片手剣スキルのみ30と一際高かった。
これはキャラメイクで選択した武器の影響によるものだろう。
武器を振るって闘える最低ラインが恐らく30。
30に満たない俺は新米ハンターですらないと言って過言ではない。
「うそっ?
あんたのスキルどうなってんのよ?」
「ん?剣術、棒術…」
「そんなのはどうだっていいのよ!
問題は特性と熟練度よ」
「いや、だから熟練度は剣の5が最高で他は軒並み1とか2だな。
特性が無い代わりに、獲得経験値アップの祝福があるぞ」
【英雄の素質】と口にするのが妙に恥ずかしかったので、能力の説明に留めておく。
「はぁ~…。
あんたあっちの世界でなにやってたのよ?
もしかして生粋の引きこもり?」
「失礼な。
引きこもったのはこの一年だけだし、これでも幼い頃は神童と呼ばれてたんだぞ」
コレについては嘘ではない。
自慢じゃないが覚える事が少なくて済む幼少時代は、持ち前の高スペックで両親にも期待されるデキだったのだ。
「おかしいわね。
アタシの見立てだと、あっちの世界の能力や経験が、この世界のステータスに色濃く反映されているはずなんだけど…」
「どこ情報だよ?」
「アタシ調べ。
サンプルが少ないと言われたらそれまでだけど、変に符合するのよね・・・これ見てよ」
そう呟いたレイはカードの様な物を取り出し、両手で挟み拝むようなポーズを取るとカードを差し出してきた。
「なんだこれ?」
「ギルドカードよ。
『メニュー』が開けるアタシ達には必要ないけど身分証代わりにもなるし、持ってて損は無いわ。
あ、『メニュー』は開けるのよね?」
「おぅ。メニューは余裕だ」
言いながら渡されたカードに目を移す。
名前 麗
種族 ハイエルフ
性別 女
職業 料理人
称号 なし
渡されたカードはキャッシュカードより大きく、葉書よりは小さい。
材質や原理はよくわからないが、上記の様な文字を読み取る事が出来た。
「ハイエルフになってるじゃねーか?」
「多分、祝福の影響ね。
そんなことより見せたいのは裏面よ」
「永遠の美貌でも願ったのか?」
「茶化さないで!」
怒られた。
【剣術 C+】
片手剣 045+3
大剣 033
刀 052
短剣 064+23
【棒術 D+】
槍 000
両手槍 000
棍 000
【打撃術 C】
ハンマー000
斧 000
メイス 000
【弓術 B+】
弓 078+3
射撃 026
投擲 039+1
【体術 B-】
格闘 017
盾 000
楯 000
ガード 008
回避 026+1
受流し 012+2
【魔法 D-】
水 000
風 000
光 000
【生産 B 】
料理 151
裁縫 057
木工 018
鍛治 000
彫金 000
錬金 007
「おぉ…すげぇ」
感嘆の声が漏れる。
総じて俺より高いが、中でも一際高い料理と弓、それに剣術があっちの世界の影響とゆうことか?
因み幾つかの+数字は職業の影響だ。
剣士なら 片手剣に+30、受流しに+20のボーナスが付く。
メインに据えた場合はこの数字がそのまま+値となり、メインでなければ10分の1が+される仕組みだ。
『体験版』の時はセカンドジョブやサードジョブと言ったシステムは採用されておらず、職業の数だけ+が加算されていく仕組みであり、10分の1でも積み重なれば馬鹿に成らない数字になる。
「解ったかしら?
こっちに来てから上がったモノは殆ど無いから、コレが初期値と言えるわ。
料理が高いのは料理をしていたから。
弓術が高いのは高校で弓道部に、剣術が高いのは中学で剣道部に入っていたからだと思うの」
「他の微妙に高いヤツは何なんだ?投擲とかさ」
「それが問題なのよね。
あっちの日常生活で少しでも触れた行動は、こっちのスキルとして反映されてると考えていたのよ。
投擲はボール投げ。射撃は海外での銃射撃。工作は図画工作。裁縫はそのままね。
錬金は科学の実験じゃないかしら?」
「それなら俺だって…」
レイの推測が正しいなら俺のスキルが低すぎるのは納得いかない。
俺は高スペックの筈。
もっと特性が有ったっておかしくないだろ?
「そうなのよねぇ。
アタシの見立てが正しいならサイガのスキルが1ばかりに成るのはおかしいのよね…
だけど、魔法が0なのはあっちの世界に無かったからだと思うし、こっちも符合するのよね」
言いながら俺の手からギルドカードを取ったレイは、カードを手に再び拝んだ。
「さっきからそのポーズは何なんだ?」
「ギルドカードの更新よ。
カードが読み取っているのか、アタシが書き込んでいるのかは解らないわ。
はい、コレを見て」
特性
【医術の心得】
回復量UP
状態異常耐性
職業
料理人
狩人
剣士
「ズルくね?」
コレがゲームなら不公平感が半端ない。
俺の立場から糞ゲーコールが巻き起こるに違いない。
「ズルくないわよ!
コレはあっちの世界でアタシが頑張った証みたいなモノよ」
「医者だったのか?」
「ううん。若い頃に看護師をしていた事が有るの。
多分その影響ね。医者だったら職業に医者が追加されたんじゃないかしら?」
「ふーん。
こんな事に成るのなら俺もあっちで頑張ってりゃ良かったな」
「そうね。ってゆーかあんたホントにあっちで何してたの?
幾らなんでも低すぎるし、これからどうすんのよ!?」
何故かキレ気味なレイ。
コイツってこんな奴だったのか。
面と向かって話さないと判らない事だな。
「どうするって言われてもな。
地道に鍛えていくしかないんじゃね?」
「あんたねぇ・・・
『体験版』と違ってコッチの世界じゃそう簡単にスキルは上がらないの!
さっき「殆んど上がってない」って言ったでしょ!?
呑気に構えてたら、あんた・・・死ぬわよ?」
「そんな事ねーだろ?
さっき素振りしただけで片手剣が1から5に上がったぞ?」
「嘘!?
・・・それって祝福のお陰かしら?
それともスキルランクがA以上だったりするの?」
「いや。ランクは最低だな」
「じゃぁやっぱり祝福のお陰かしら? 何を願ったのよ?」
「んー? 強くなりたい、的な?
そうゆうレイこそ何を願ったらハイエルフになんだよ?」
「え?あたし?
長生きしたい、みたいな?」
・・・お互い無言で顔を見合わせる事、数秒。
「祝福に関してはお互い詮索しないでおこーぜ」
「そうね。内面に深く関わる事だし、言いたくなったらで良いわね」
「取り敢えず、村に連れて行ってくれよ?」
こんな所で何時までもグダグダ話しても仕方ない。
それに、ここは森のど真ん中。
モンスターに襲われたらレイは兎も角、俺はひとたまりも無い。
「良いわよ。元々そのつもりで迎えに来たんだし。
それに、あんた弱いし暫く一緒に行動してあげるわ」
「はぁ?ナニイッテンダ?」
「嫌なの?」
「じゃなくって暫くどころかずっと一緒で良くね?」
「そ、そうね。あんたもしかしてそれって・・?」
「同じ境遇なんだし、力を合わせて生きてこうぜ!」
「そ、そうよね。
生活が安定するまでは協力しましょ」
こんな言葉が出る辺り、レイは安定志向なのだろう。
『体験版』の時とは違うと言うことか。
ま、俺は英雄なる為に旅立つんだけどな。
その時に、一緒に来るかどうかはレイが判断すれば良いだけだ。
こうして俺達は拠点となる村へと帰っていくのであった。
本日の教訓。
後悔先に立たず。