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プロローグ2 回想と感想


【エクアドルの世界を楽しく過ごせましたか?】


 ⇒

  YES

  NO



 ・・・βテスト終了に合わせたアンケート調査だろうか?


 こう問われればYESなのは間違いない。

 導入部分こそ最悪であったが、それを補って余りある展開は直ぐに訪れた。


 一年前のゲーム開始直後、森の中に放り込まれた俺は、半透明のメニューを開き情報の確認を行った。

 

 名前 サイガ

 種族 人間

 性別 男

 職業 ゲスト

 

 所持品 鉄の剣

      革の鎧

      革の丸盾

      ズボン

      革のブーツ

 所持金 1000R


 他にも各種スキルやアビリティが幾つか有ったのだが割愛、と言うより覚えていないのでこの辺は省略させてもらうが、確認した限りいわゆる初期装備の状態で戦闘フィールドに放り込まれたのだ。

 当ても無く森の中を彷徨う事30分。

 この時点で投げ出しておかしくない状況だったが、止めること無く歩き続けられたのは無駄に広いフィールドと臨場感のお陰だろう。

 グラフィックは他社の最新ゲームと比較すればやや劣る程度のデキなのだが、光や影、風に揺れる木の枝、時折姿を見せる野生動物などが非常にリアルに感じられキャラを歩かせ、風景を眺めるだけでも楽しかったのだ。


 操作を確認しながら歩く事更に30分。

 実にゲーム開始から1時間にして初のアクティブモンスターとの遭遇。

 狼の様な個体が3体。

 その上には赤い文字で???とマーカーされていたので直ぐに気付けた。

 チュートリアルを受ける事無く行われる戦闘であったが、焦る事は無かった。

 操作確認の結果、戦闘はアクションで行われると予想が付いていたのだ。

 Ⅰボタンで剣を構え、構えた状態でⅠボタンを再度押すと武器を振い、Ⅰボタンを連続で押せば武器を連続で振うると言った感じのよくある仕様だ。

 因みに、Ⅱボタンは盾を構え、Ⅲボタンは回避動作、左右ボタンを2度押しでステップとなっているが細かい事は割愛させてもらおう。


 耳に残る呻き声を発しながら狼達が近付いてきた。

 狼は3匹で連携を取りながら背後から襲い掛かろうと周囲を旋回して俺の隙を伺っている。

 雑魚モンスターだと思っていたが意外に侮れない。

 しかし、ゲーム的視点を持つ俺には関係が無かった。

 意図的に動きを止め、狼が後方から飛掛るのを確認するとステップで交わし、宙に浮く狼を切りつけるも、一撃では倒せなく吹っ飛んだ狼は素早く立ち上がる。

 狼Aが起き上がった後、狼達は獲物の攻撃力が低いとみたのか一斉に襲いかかってきた。


 盾を構え、剣を振るって狼達の数を活かした力押しに応戦するも、攻撃を思うように避けられず、剣を当てる事も難しい。

 おまけに当たった所で狼達は倒れない。

 気付くと体力を示すであろう画面下の青いメーターが半分を切っていた。


「まじかよっ!?この糞ゲーがっ!!」


 思わず画面に向かって呟いたのを今でも覚えている。

 体力が半分を切った辺りから明らかにキャラの動きが鈍くなったのだ。

 現実世界なら確かにこの通りだがゲームでこんな仕様にするとは正気の沙汰とは思えなかった。

 コントローラーを投げ捨てようとしたその時、


「ファイアアロー!」


 遠くの方から魔法発動のキーとなる呪文が聞こえ、火の矢と木の矢が画面内に飛んできて二匹の狼打ち抜いた。

 残った一匹に連続攻撃を仕掛け、なんとかピンチを脱したのであった。


「悪かったな?獲物盗っちまったか?」


 大きな斧を背に背負い、弓を片手に大柄な男が話しかけてきた。


「は?」


「おいおい?助けてやったのに黙ってないで何とか言ったらどうなんだ?」


「も~。いきなりお兄ちゃんみたいのに話しかけられたら、誰でもビックリするよ!落ち着くまで待ってあげようよ」


 自分視点に切替え大男に視点を合わせる。

 並び立つ小柄な女性キャラが「お兄ちゃん」と呼んでいたが、体格的にこの二人が兄妹とか有り得ないだろ。


「この人達もプレイヤー・・・か?」


 このゲームはいわゆるMMOと呼ばれる仕様を採用しているのだろう。

 だとしたら随分マニアックなプレイの仕方をしているものだ。

 こう考えた俺は、再び画面に向かって呟いた。 


「黙ってないでって言われてもなぁ・・・あ!ボイチャか!?」


 ボイスチャット。略してボイチャ。

 文字では無く音声にてコミュニケーションを計るツールの事だ。

 慌てて用意し画面に向かって話し始めた。


「あ、すいません。助けて頂いて有難うございました。なにぶん始めたばかりで何も判らず、ボイチャ用意してなかったんですよね」


「はぁ?何言ってんだオメェ?」


「え?貴方方はプレイヤーではないのですか?」


「プレイヤーってチームでもあんのか?俺達はそこの村を拠点に活動するハンターだ。チーム名はファスト兄妹だぜ」


「ではNPCなのですか・・・?」


 滑稽な事にNPCに向かって思わず敬語で話しかけてしまったが、この時は仕方なかったんだ。


「えぬぴーしー?ファスト兄妹だって言ってんだろ?」


「ねぇねぇお兄ちゃん・・・」


 食って掛からんとする勢いの兄の服を掴んだ妹が、遠慮がちに兄を連れて俺から距離を取る。


「なんだよリンダ?」


「あの人なんか変だよぉ」


「変って何がだ? 自分の実力も判ってない単なる勘違い野郎だろうが?」


「それはそうなんだけどぉ。なんてゆうかぁ動きとか変じゃない?」 


 ヒソヒソ話のつもりだろうが、プレイヤー視点を持つ俺には丸聞こえだ。

 「優男」だの「無謀」だの明らかに悪口にしか聞こえない会話を聞きながら待つ事数分。

 妹の方が何か閃いたようだった。


「あ、もしかすると、あの人ってゲストなんじゃない?」


「あぁ?オメェ何言ってんだ? そんなもん御伽噺だろーが」


「でもでも、最近村に来た「レイ」って人もゲストって話だよ?」


招待者ゲストなぁ・・・だったらアイツには親切にしてやらねぇとな?」


「うん!違っても弱そうだし私達なら大丈夫だよ。

 だから私達が気付いてるってバレナイ様に気を付けてね?」


 酷い言われようだが、何となく設定は掴めた。

 プレイヤーでありゲストである俺は、NPC達にとって特殊な存在であるが普通の人として接する・・・NPCにはこういうルールが与えられているのだろう。

 RPG本来の意味には、役割を演じるといったモノが有ったはずだし俺もソレに付き合おうじゃないか。


「おぅ。待たしちまって、すまねぇな?

 おめぇ怪我してるみてぇだし俺達の村に案内してやろうか?」


 ベタな親切行為だが、悪くない。


「いえ。助かりました。

 この地に来たのは今日が初めてなので村への案内よろしくお願いします」


「やっぱり・・」


 妹の呟きが聞こえたが気にしない。

 「ごっこ遊び」なら真剣にやった方が面白い。

 プレイヤーに与えられた役割は森に迷い込んだゲストかつ新米ハンターなのだろう。

 だったらソレを演じて楽しむのがこのゲームの正しい遊び方に違いない。


 こう考えた俺は、ファスト兄ことゴンタに連れられ村へと案内されたのだった。


 

 この時、このゲームのNPC達が有り得ない程の独立した自律思考を備えていると知らなかったが、結果的にこの時の対応は間違っていなかった。

 いや、話し掛けられた時点で俺の望む世界がココにある・・・そう気づいていたのだろう。


 画面の向こうの仮想現実。

 しかし、自律したNPCと剣と魔法にモンスター。

 この世界なら英雄に成れるのだ。


 こうして俺は、『エクアドル』の世界にのめり込んでいったのだった。


 他人ひとから見れば馬鹿にしか見えないだろうが、楽しかったのだ。 


【エクアドルの世界を楽しく過ごせましたか?】


 ⇒YES

  NO


 俺は無言のまま、YESに合わせたカーソルを押した。




 

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