新風を背中に
お風呂に連行されるまでのお話。
あの後、美女二人は部屋にいたであろう男性陣を追い出しつつ私の体を拭き、簡素な服を着せた。
そのころには視力は大分戻っていたので改めて周りの状況を見た。
どうやら私たちがいるこの部屋?は、段差で分けられ、半分は普通に椅子と机がある石畳の場所と、私が生まれた(認めたくないけど!)大きな木が生えてる野ざらしの場所との混合のようだ。
まるで絵本に出てくるような部屋みたい。
人も二人に追い出される前には5、6人いた気がする。
…男ばかりだったけど。
「さ、一旦着たし!もう大丈夫よ。ケビンちょっと来て運んでくれる?この子ちゃんと洗わないといけないから浴槽まで運んで頂戴。」
白金の美女の言葉を聞いてケビンと呼ばれた髪がない、がっしりした体格の黒人の男性が扉の向こうから入って来た。
うわぉでかっ!180以上あるよこの人!
「…持ち上げるからリラックスしとけ。わけわかんないかもしれんが体が落ち着いたら、ちゃんと現状を話してやる。体の自由はそう長く手間取らないと思うしな。生まれたては皆、赤ん坊みたいな状態だ。形はデカイがな。かくゆう俺も、生まれたばかりはプルップルに震えて為すがままだったしな!」
笑いながらそう言ってお姫様だっこされた。
…もうなにされても驚きませんよ。これからお風呂に連れて行かれることを考えたらね。
なんたって、この人の言う通り、為すがままな状態だから。
運ばれながら通路を観察していると、この建物は石作りの大きな建物のようだ。
柱一本とっても精緻な彫刻がしてあり、窓も上に長く大きくとってある。
廊下には等間隔で見るからに高そうなインテリアが置いてあって…まるでどこかの城…。
まさかね。さっきまで日本の道路と仲良くしてた私がこんな中世ヨーロッパ風な城だなんて、と笑い飛ばせない自分が憎い。
最初に、窓から見えた外の景色にはギョッとした。周りを囲む城壁の向こうはどこかの国の街並みだ。
なんとなく無意識に察してる自分がいる…。
ここ、日本じゃない。っていうか木から人が出た時点で地球じゃない。
そして重要なのが、私、一度死んでる。
「そういやこの子、顔の作り的に要や龍に似てへんか?もしかして一緒なんかもしれへんね?」
「あ、ほんとね。…あ、要はあなたに最初に突っかかってきた焦げ茶色の髪の男の子よ。龍はあの場には居なかったけど後で会えるわ。こっちも黒髪の男性よ。仲間の中では古株だから分かりやすいわよ。」
そんな心の葛藤中に、ケビンの後ろを付いてきていたイザベラさんとマリアさん(たしかそんな名前だった)が横歩きになって話してきた。
「い…しよぅ?」
凄く…舌足らずです。
ホントに赤ん坊ってか。
いや体は17歳のままだから正確には違うけど、羊水吐いたり視力が最初悪かったりと赤ちゃんの特徴が備わってる。考えたくないけど。
「あ、『一緒』?うん。まぁ、私たちには前の記憶がないから詳しいことが分かんないけど似てるわよ。何代かに1人か2人うっすら前の記憶があるらしいんだけど今代は誰もないのよね。」
「たしか最後は3、40年前におったってイザベラゆうとったね。そういう人達曰くうちらは別の世界から生まれ直したんやっけ?」
「そう言われてるわ。だからあなたも…そういえば名前聞いてないわね。私はイザベラ。この子はマリア。今あなたを運んでいるのがケビンよ。迫力ある体してるけどこう見えて世話焼きだし優しいわよ。」
そう言ってイザベラは指を指しながらインディアン系の女性と運んでくれている男性の紹介をした。
「わ、ぁしのなーまぇはこぃばゆいでぅ。」
「え?こしょばい?」
ちがっ!?小柴結です!!『こしょばい』とか散々からかわれて気にしてる単語なのに!
「こしばぁゆい!!でう!」
「こしば ゆい?」
あらん限りの力で頷いた。
その様子を見ながらくっくっくっと笑いながらケビンは、
「…名字かそれは?珍しいな。ほとんどのやつが記憶がないから自分の名前しか言えないのにな。…ほら着いたぞ。」
そう言って重厚な木の扉の前で下ろされ…その後は割愛する。
簡単に言うと女性二人に丸洗いされた。
もうね、わー綺麗で大きな浴槽、浴室~なんて感傷に浸るまでもなく服を脱がされ、あんなとこからそんなとこまで洗われ私は精神保護のため、この記憶を封印しようと心に決めた。
洗われてる途中で軽くマッサージもされたせいか浴槽から出るころには大分体が動くようになっていた。
心の底から長かったと思う。
次回は落ち着いて話す…?