始まりは仲間からでもいいじゃない
「はぁー」
「隊長ー溜息ばっかついてると幸せが逃げちゃいますよー」
「いやーめんどくてめんどくて」
そう部下に言い丘の先を見る、そこにはかなりの上位武具を装備した男女が悲鳴を上げながらここら辺で一番弱いオオカミ型の魔物「ウルフ」から逃げまわっていた。
「無様な……」
最近自分を転生者と名乗る人間が増えてきた、彼らは突如現れ見たこともない強力な武具を持つが実戦にはほとんどなれていなく、無様に逃げ回っている姿は見ていて不快である。
「どーしますー隊長?見殺します?助けます?」
「少なくとも助けるつもりだよ」
あの程度の魔物に自分の剣を使う気にもならないので部下の剣を抜き取る。
「お前らは人間たちの保護を頼む」
そう命令してウルフに駆けていく、ウルフの一匹が女性に今にもかみつこうとしているのを後ろから一閃し、その命を刈り取る。
「え――」
口をパクパクしたままウルフの死体越しに目を合わせる、がすぐに目を逸らし他の障害物に目を向ける。
襲ってくるウルフたちを全て切り捨てていく、やがて状況の不利を悟った相手は踵を返して逃げていく。
後ろを振り向くと部下たちが数人の人間たちを介抱していた。
私が近づくとさっき助けた女性がこちらを見て質問攻めにしてくる。
「あ、貴方達はいったいなんなの!?私たちを一体どうするつもりなの!?ここは、ここはアルガルドのゲームの中じゃないの!?」
あー贅肉が、その贅肉を切り取ってやろうか?
「そういうことは国のギルドで質問してください、私たちは貴方達の保護をするだけですから、連れて行け」
「はっ!」
けが人は担架に乗せて、怪我をしていない人たちは一先ず重たい武装を解いてもらった後に連れて行く、まだ腰が抜けているくせに喚いている女性が部下に連れいて行かれる。
やがて全員いなくなり少し血生臭くなった草原に静けさが戻る。
「全く、人間という種族は脆弱で困る」
繁殖力とプライドだけは異常に高いあんな種族を神はどうして創ったのだろうか?
風が吹き、頭の上についている獣人族の象徴である耳がパタパタと動く。
「まったく、獣王様も何を考えているのだか……」
一番最初の転生者が見つかったのは5年前、彼らは一様に自分はアズガルドというゲームからこの世界に来たと言う、確かに彼らの武具と知識はこの世界になかった物であった。
種族が人間ということもあり、人間の国に送ったことでその件は一先ず終わったかのように見えた、がそのあと続々と似通った発言をする人間たちが竜族、獣人族、人族、エルフ族が治める領地に点々と現れるようになった。
彼らは今も続々と数を増やしており、人間の技術とやらの発展は目覚ましい。
この頃不穏な気配がするのもそのせいなのだが……
そこまでで考えることをやめた、私は国に使える兵士だ、兵士は国を守るだけでいい、それ以外は考える必要がないのだ。
私は踵を返しそこを後にした、すぐに城に戻りまた仕事をしなくては、獣王様にも報告をせねばならん。
Side部下
「隊長ー僕の武器勝手に使わないでーってもう聞こえないかー」
文句を言ってまた説教をされたくないので黙って言われた通りに人間たちを保護していく、遠くでは隊長がピンクの短い髪を揺らしながら敵を葬っていく。
「立てるか?」
「あ、ありがとうございます」
さっき隊長に助けられた女性に近寄って手を差し伸べる、その姿は軟弱で獣王様がこの生き物を重要視する意味が甚だ分からない。
彼らが現れた後その周囲の魔力が乱れ魔物が大量に現れるからまったくもって邪魔にしかならない存在だ。
未だに彼らが現れる原因が掴めていない、さっさと原因が分かって帰ってほしいものだ。
Side女性
「いやああああ!!」
目の前でゲームの中でフレンド契約をしていた人がリアルのように血を吹いて死んだ。
「な、なんだよこれ!?」
私の周りにいた人たちも驚きそして恐怖で顔が青ざめたり引き攣ったりしている。
「ガルルル」
ゲームでおなじみのウルフと言うモンスターが、ゲームの中では目の光もなく躍動感もなくただAIの行動にしたがって動いていた精巧なだけの人形が人形ではなくなっていた。
本物のように躍動し、生臭い息を吐き出し牙をむいて人にかみつき殺す。
どうして?死んだら消えるだけじゃないの?さっきまで楽しみながら狩っていた狩り仲間が無残に死んでいる。
「あ、ぅあぅ……」
ピチャリ、後ろに数歩下がるとゆで卵を踏んだような感覚と共に頬に血が飛び散る。
踏んだものを見るとそれは殆ど原形をとどめていなく余りわからないが確かに人の目であった。
薄暗く足元がよく見えない中少し目を凝らすと首から勢いよく血を出して片方の目がないリアルのほうで友達だったキャラが冷たい躯となっていた。
「い、いやあああああああ!!」
私はあるはずがない死んでしまうという感覚に恐怖し、逃げ出した、ただひたすらこの薄暗い森の中を泥と血にまみれながら逃げ出した。
それに触発されて他にもいたプレイヤーも逃げ出した、押しのけ見捨てて、縋り付くものは蹴ってでも、私は死にたくなかった。
以外とすぐに森は抜けられて安心したのもつかの間後方から悲鳴が上がり見るとウルフが群れを成して私たちを追ってきていた。
すぐに逃げようと周りを見回すと左に湖、右に高い丘があった。
私はとっさに右の丘に逃げることに決めた、数人は湖に逃げ、数人は丘に逃げた。
ウルフたちは湖に逃げた人たちではなく私たち、つまり丘に逃げた人たちを追ってきた。
来ている装備が重く、体がうまく動かない。
「きゃっ!」
現実での鈍い私のように私は転んでしまった、ゲームの中だったらこんな失敗しないのに。
そんな的外れな考えと共に死が口を開けて迫ってきた。
あ―――死んだな。
そう思った瞬間ウルフの首が跳ね飛ばされた。
「え―――」
言葉が出なかった、私の胸ほどの背丈しかないピンク色の髪を持つ女の子が私たちを殺そうとしていたウルフを簡単に殺してしまったのだ。
呆然として彼女を見ると獣の耳が頭についている、周りを見回せば彼女と同じような人たちがちらほらと仲間を助けてくれている。
「立てるか?」
栗色の髪の毛を持った青年が私に手を差し伸ばしてきた。
「あ、ありがとうございます」
もっと他にも言うことがあるだろう、私!と思ったが口がうまく開けなくて、体がガタガタ震えて彼の補助なしでは立ち上がれなかった。
いつの間にかあの化け物たちは去っていき、彼女がこちらに近づいてくる。
私の質問は軽く無視されて連れて行かれる。
彼女は背を向けてその表情よく見えない、ただ私はお礼をすることを忘れていて、後でお礼をしに行こうと決めた。