生BL(特等席)のためなら側室にだってなりますが、なぜか皇帝陛下に溺愛されて宮廷の覇者になりそうです
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「――望みを言え。大革命の危機からこの国と我らを救った、希代の才女よ。お前の望むものなら、富でも領地でも、何でも与えよう」
大理石の敷き詰められた、厳かな謁見の間。高い天井から降り注ぐ光を浴びて、玉座に君臨する皇帝、ルードヴィヒ陛下が低く甘い声でそう告げた。
輝く黄金の髪に、すべてを見透かすような冷徹な碧の瞳。彼は、私が前世で死ぬほどプレイした乙女ゲーム『王宮の輪舞曲』において、不動の人気ランキング一位を誇る圧倒的カリスマ皇帝だった。
そしてその傍らには、私の実の兄であり、同ゲームの人気ランキング二位の腹黒妖艶宰相――ギルベルトお兄様が控えている。お兄様は、眼鏡の奥の切れ長な瞳をスッと細め、鉄面皮な微笑みを浮かべながら口を開いた。
「陛下、妹は無欲な身にございます。過分な褒美など恐れ多いこと。どうか、静かに暮らせるだけの小さな領地と、慎ましき爵位を頂ければ十分かと」
さすが有能かつ過保護なお兄様、私がこれ以上面倒な宮廷闘争に巻き込まれないよう、完璧な先手を打とうとしてくれている。普通の妹ならここで感動の涙を流すところだろう。
(……いやいや、お兄様待って! 私の目的はそこじゃないの!)
私は心の中で全力のツッコミを入れていた。何を隠そう、私は前世でこのゲームの重度な限界オタクだった。性別に関係なく神の奇跡によって子供が生まれるという、この都合の良すぎるファンタジー世界に転生したと気づいた瞬間、私の脳裏をよぎった欲望はただ一つだったのだ。
『この世界なら、公式人気一位と二位の“生BL”を周囲の目とか気にせずにリアルに拝めるのでは……!?』
そのためだけに、私は現代の知識をフル稼働させ、国が滅ぶはずだった大革命のバッドエンドフラグを力技でへし折ったのだ。すべては、推しカプが並んで生きる尊い世界を守るため。そして、彼らの絡みを一番近くで拝むため!
私は深く一礼し、満を持して顔を上げた。これ以上ないほど真剣な、悲壮感すら漂う表情を作って。
「恐れながら、陛下。私が望むのは、富でも、領地でも、名誉の爵位でもございません」
「ほう? では何だ」
「……陛下の、側室にしていただきたく存じます。生涯、そのお側でお仕えさせてください!」
「「っ!?」」
その瞬間、謁見の間が物理的に凍りついた。お兄様はいつも崩さない完璧な笑顔をピキリとひび割れさせ、信じられないものを見る目で私を凝視した。一方の皇帝陛下は、驚きに美しく目を見開いた後――ふっと、酷薄で、どこか妖艶な笑みを唇に刻んだ。
「……なるほど。命を賭して国を救った褒美が、ただ私の側にいたいということか。物好きな娘だ。だが、それほどまでに私を欲するというのなら、拒む理由もない。お前を私の側室として迎えよう」
(いや陛下、違うんです! 欲しいのは貴方単体じゃなくて、貴方とお兄様が並んだときの最高のディスタンス(距離感)なんです!!)
心の叫びは誰にも届かない。ルードヴィヒ陛下の瞳には、「そこまで私を深く慕っているのか」という特大の勘違いの光が灯っていた。こうして私は、邪悪なオタク心を「健気な純愛」と勘違いされたまま、最高峰の特等席(側室)へと上り詰めることになったのである。
◆ ◆ ◆
側室として宮廷に迎え入れられてから一週間。私の主な仕事は、皇帝陛下の執務室でお茶を淹れ、お側のソファーで大人しく刺繍をすることだった。
「ルードヴィヒ、この予算案ですが、これ以上の削減は国家の根幹に関わります。いい加減にお考え直しを」
「却下だ、ギルベルト。お前は少し頭が固すぎる。これからは軍備よりも内政、特に大革命で荒廃した領地の復興に予算を割くべきだ。お前なら私の意図を汲めると思っていたが?」
目の前で繰り広げられる、国を揺るがすトップ会談。しかし、私の脳内オタクフィルターを通すと、それは全く別の黄金空間に変換される。
(きゃあああ! お兄様が書類をトントンしながら陛下に詰め寄ってる! 距離が近い、ディスタンスがゼロ距離に近付いているわ……っ! 陛下が今、お兄様の顎をクイってしそうな勢いで睨み返した! 尊い、尊すぎて息ができない……っ!)
カリスマ皇帝とお兄様。二人がお互いの有能さを認め合い、時に火花を散らしながら机を挟んで至近距離で議論する姿。これこそが、私が前世で画面に課金し続けた至高の光景だった。しかも今は、生ボイス、生ビジュアル、完全なリアルタイムである。
「……はぁ」
尊さのあまり、つい物理的に胸が苦しくなって深い溜息が漏れてしまった。すると、緊迫していたはずの二人の議論がピタリと止まり、美しい視線が一斉にこちらを向いた。
「どうした、我が愛しの側室よ。退屈させてしまったか?」
ルードヴィヒ陛下が、普段の冷徹さからは想像もつかないほど優しい、とろけるような甘い笑みを私に向ける。私は慌てて居住まいを正した。
「いいえ、陛下! 滅相もございません! お二人の素晴らしいご議論を拝見できて、私は……私は、あまりの素晴らしさに胸がいっぱいでございます!」
(嘘じゃない。尊すぎて物理的に心不全を起こしそうなだけ!)
私の熱い眼差し(※推しカプを拝む目)を受け、陛下は少し耳の裏を赤く染め、ふっと満足そうに、どこか愛おしそうに微笑んだ。
「……健気な奴だ。お前がそんな潤んだ目で見つめてくれるなら、この激務も悪くないな」
「陛下。私の妹をそんな不埒な目で見つめないでいただけますか。仕事の邪魔です(ピキピキ)」
お兄様が引きつった笑顔で書類を握りつぶしそうな勢いで牽制する。その様子を見た私は、さらに脳内が大爆発した。
(ひぇぇ! お兄様が陛下に嫉妬……!? 構図としては完全に「俺の獲物に手を出すな」的なアレに見えるわ!! 尊さの過剰摂取で死んじゃう!)
私の顔が興奮で真っ赤になり、ハァハァと息を荒くしているのを見て、陛下はさらに特大の勘違いを深めたようだった。椅子から立ち上がり、なんと私の座るソファーへと歩み寄ってくるではないか。
「ギルベルト。お前の妹は、私を愛して側室になってくれたのだ。お前がどれほど過保護になろうと、私は彼女を離すつもりはないぞ」
そう言って、陛下は私の手を取り、その甲にそっと唇を落とした。至近距離で見る皇帝陛下の美貌は破壊力抜群だが、それ以上に私の頭はパニックに陥っていた。
(あ、あれ……? おかしいわね。二人の絡みを見たくてここにいるのに、なぜか陛下からの矢印が私にバチバチに向いてる気がするんだけど……?)
◆ ◆ ◆
それからの宮廷は、私の意図とは全く違う方向へ加速していった。
私がお二人の絡みを見やすくするために、執務室の模様替え(現代の機能的なオフィスレイアウト)を提案すれば、
「陛下の体を労る、内助の功に優れた奇跡の側室」
と称賛された。
お兄様と陛下がもっと仲良くなるようにと、前世の知識で作った絶品スイーツを「お二人でどうぞ」と差し入れれば、
「確執のあった皇帝と宰相の絆を繋ぎ止めた、国の女神」
と宮廷中で噂された。違う、そうじゃない。二人で一つのフォークを使って「あーん」して欲しかっただけなのに!
そしてついに、決定的な瞬間が訪れた。
ある夜、陛下に呼ばれて寝所に赴いた私は、当然のように「お兄様との尊い思い出話」を引き出そうと画策していた。しかし、部屋に入るなり、私は背後から強い力で抱きしめられた。心地よい、気高い香水の香りが鼻腔をくすぐる。
「っ、陛下……?」
「……もう我慢ならん」
ルードヴィヒ陛下の低い声が、私の耳元で鼓膜を震わせる。その声は、いつもの余裕たっぷりなものではなく、どこか焦れたような、情熱的な響きを帯びていた。
「お前はいつも、私を見ているようで……同時に、ギルベルトばかりを見ている。実の兄とはいえ、私の前でお前が他の男に熱い視線を送るのが、どれほど私の心を掻き乱すか分かっているのか?」
(えっ。それ、お兄様への嫉妬じゃなくて、私への嫉妬なの!?)
驚愕で固まる私を、陛下はゆっくりと正面から組み伏せるように抱きすくめ、その碧の瞳で私を真っ直ぐに見つめた。そこにあるのは、紛れもない、一人の男としての深い情愛――本気の溺愛の目だった。
「大革命から私を救い、側室になることだけを望んだお前だ。お前の愛の深さは知っている。だが、私は強欲なのだ。お前のその熱い眼差しも、その心も、すべて私だけのものにしたい。もう、ギルベルトばかりを見るな。私だけを見ろ」
「ひゃ、ひゃいっ……!?」
あまりの直球ストレートな告白に、私のオタク脳は完全にフリーズした。
ちょっと待って欲しい。私はただ、公式人気一位と二位の尊いディスタンスを特等席(側室)で眺めて、心の中で「尊い……!」と拝み倒すだけの静かなオタクライフを送るつもりだったのだ。それなのに、なぜか人気一位のカリスマ皇帝陛下にガチ恋され、超絶怒涛の溺愛ルートが強制固定されてしまっている。
翌朝、私の腰が抜けて部屋から出てこられないことを知ったお兄様が、
「陛下ぁぁぁ! よくも私の可愛い妹をぉぉぉ!」
と、普段の冷静さを微塵もなくして剣を抜きかけ、陛下が
「ふん、彼女は名実ともに私のものになった。羨むか、ギルベルト」
と勝ち誇った笑みを浮かべるという、最大級の修羅場(※オタク的には最高のご馳走)が発生したのだが――。
「えっ、でもこれ、私がこれ以上陛下に愛されたら、推しカプの公式ディスタンスが私によって物理的に破壊されちゃうんじゃないの……!?」
特等席を求めた結果、なぜか宮廷の覇者(皇帝の正妃最有力候補)へと成り上がりつつある限界オタクの明日は、一体どっちだ――!?
ご視聴いただきありがとうございました。




