3 連行
孤児院の副院長室で、ソラはジンと向かい合って座り、孤児院の生活ぶりを一通り語った。
「と、まあこんな暮らしです」
ソラがそう締めくくると、ジンは興味深そうに応える。
「なるほど面白いのお。7歳ですでに浮きこぼれか」
――浮きこぼれって何だろう?
ソラの疑問を見透かしたようにジンは続ける。
「浮きこぼれというのは、優秀すぎて授業が合わず、回りから浮くことじゃ。本人にとっても周りにとっても不幸な事態だの」
ジンがそこまで言ったところで、孤児院の庭に馬車が入ってくる音が聞こえた。
「おっと、どうやら連中がきたようじゃな。浮きこぼれの話はあとまわしにして、先にコイツの件を片付けるかのお」
ジンはそう言うと、副院長室のドアを開けて、こっちだ、と合図する。
男女二人が副院長室に入ってきた。女性の方は院長だが、男性の方は初めて見る。男性の身長は170cm。日焼けした精悍な顔立ちで制服を着ている。かっこいいとソラは思った。
二人はジンの前で膝を折った。
「局長様、仰せにより、ただいままかり越しました」
二人が声を揃えて言うと、ジンは面倒だという表情を浮かべ、追い返すように手を振った。
「先月で局長は引退したから、そんなにかしこまらなくていいぞ。ジンと呼んでくれ」
「では、ジン様と呼ばせていただきます。私はこの村の衛兵のマモルと申します」
「マモルか、よろしく頼む。院長の方は久しぶりだの」
「お久しぶりです、ジン様」
挨拶が終わったところで、ジンは副院長室で起こったことを二人に説明した。
ジンの説明が終わると、マモルが口を開く。
「状況は把握いたしました。副院長は連行して取り調べます」
「よろしく頼む」
ジンがそう応じた直後、窓の外から子供の話し声が聞こえてくる。
「なんか、庭の方に馬車と何かが停まっているぞ。お客様でも来たんじゃないか」
「見に行ってみようぜ」
ジンは一瞬、目を閉じる。次の瞬間、ジンの姿が急にぼやけて、見知らぬ男に変わっていた。
こんな変身もできるんだ。ソラは感心した。
「ワシがここにいるのをあまり知られたくないのでな。ワシと乗ってきた車の両方に軽い認識阻害を掛けた。念のため、離れたところに車を移動してくる。連行は任せたぞ」
さっきまでジンだった見知らぬ男は、そう言って副院長室を出ていった。
院長とマモルはあっけにとられ、しばらく顔を見合わせていた。先に口を開いたのは院長だった。
「じゃあ二人で運びますか」
院長の申し出にマモルは答える。
「ありがとうございます。では私は頭を持ちますので、院長は足を持っていただけますか。坊やはそこのドアを開けてくれないか」
院長は、出かける準備として、机の上の金貨の山に布を掛け、窓のカーテンを閉めた。
マモルの指示に従って、ソラはドアを開ける。二人は副院長を持ちあげると、そのままドアを通った。ソラは二人の前を歩き、運搬の邪魔になりそうな傘立てなどの小物を脇にどけていく。
ちょうど庭に出た時である。オヤマとコビィがこちらに駆け寄ってきた。面倒なヤツらに見つかったと、ソラは思った。
二人に向かって院長が話しかける
「副院長が急に暴れだしたので、気を失わせて運んでいるの。ちょっと事情を聞いてもらうわ。はっきりしたらみんなに説明するから、先に部屋に戻って」
オヤマは憤然として、ソラに向かって大声で言う。
「ソラ、お前が、なんか悪さをして副院長を怒らせたのだろう!」
「そうだ、そうだ。あの優しい副院長が急に暴れるなんてよっぽどのことだ」
コビィはオヤマに同調して言った。
理不尽な言いがかりだ。そう思っても、ソラは何も言い返せなかった。言い淀むソラの様子を見て、オヤマとコビィは自分たちが正しいと確信した。
オヤマはソラに近づくと、いきなり腹にパンチを打ち込む。
その瞬間、ソラは腹に強い衝撃を感じた。ものすごく痛い。おまけに呼吸ができない。うずくまり、うめき声をあげた。
「副院長に悪さをした報いだ。この程度のパンチに耐えられないようじゃ、お前なんか魔獣の餌だ」
オヤマは得意そうに言った。院長は顔色を変えた。
「いきなり何をするの、オヤマ! ソラが副院長を怒らせたにしても、いきなり殴るのはどうかしているわ」
「院長、ソラをえこひいきするのはどうかと思いますよ。こんな役立たずはおとなしくみんなの言うことを聞いていればいいんです」
それまで沈黙していたマモルが口を開く。
「坊や、それくらいにしておけ。これ以上、邪魔するようなら牢屋に入ってもらうぞ」
オヤマは悔しそうにしながらも、コビィと一緒にこの場を離れ、建物に向かって歩いて行った。
「ソラ、大丈夫?」
院長は心配そうにソラに話しかけた。ソラはなんとか立ち上がることができた。
「だいぶ痛みは引きました。もう大丈夫です」
マモルと院長は馬車の近くまで行くと、いったん副院長を地面に置いた。
「あとは担いで乗せていきますので、お二人は戻られて構いません」
マモルはそう告げると、馬車の扉を開けた。
院長は分かったわ、と答えると、建物に向かって歩き出した。ソラは院長の後を追いかけた。




