異世界恋愛伯爵様、なろうキーワードUFOキャッチャーをどうしてもやらされる
コメディとしての心情のみのBL要素があります。
その晴れた日の午後────
ハベルルブ伯爵ロマロ・マロ・ベーには恐ろしいことが起こっていた。
ふと外出した先のセーベル広場で、家同士の約束で許嫁だったアマランド伯爵令嬢メリル・アン・シャーマルに、何故か婚約破棄をノリノリで宣言してしまった。
あの時は本当に 昔から知っているメリルとの結婚がつまらなく、色褪せて見えて仕方なかったのだ。
そして今 何故か、何故か何故か何故か──
その広場の噴水前にいる──背の高い初老の執事がメチャクチャカッコ良く見えてならない!!!
品のある髭、凛とした眼差し、緩くウェブのかかった灰色の髪、しなやかな所作……そんな彼が大股で自分に歩みよってきてたので、ロマロはついオドオドして 心臓がバクバクと高鳴った。
「どうか冷静にハベルルブ伯爵。私達はただ、ナロウキーワードUFOキャッチャーに運命を弄ばれているのです」
彼が誰なのかはすぐ分かった。婚約破棄したアマランド伯爵家の別邸執事 ダインだ。
「ナロウキーワードUFOキャッチャー……だって……?」
事態の把握が出来ないまま、ロマロはダインに導かれてそのガラス張りの四角い箱のようなもののところに行った。
ガラス越しに見てみると、中には丸くてプニョプニョしたゼリーのようなもの達が沢山あった。その一つ一つの中にはプレートが入っている。プレートには──
『ざまぁ』『悪役令嬢』『転生』『チート』『スローライフ』『魔法』『白い結婚』『身分差』『悲恋』『ハッピーエンド』『ほのぼの』『ラブコメ』『冒険』『超能力』『R15』『現代』『バトル』『パラレルワールド』……
などの さまざまな言葉が書かれている。
「こ、これは……?」
尋ねるロマロの耳元でダインが囁いた。
「申し訳ありません、伯爵。私が“ボーイズラブ”の運命スライムを取ってしまったのです。そこにあなたが運命的に現れてしまった」
「ぼっ、ボ、"ボーイズラブ"だと!!!???」
ロマロが振り返ると、すぐそばにダインの顔があった。
(あ! ち、近い……!)
ドキン と胸が 高まる♡
「ですから今あなたが私に感じているものは、全てこのUFOキャッチャーのせいなのです。ハベルルブ伯爵 あなたは、私のような身分の低い初老の男などに人生を崩されてはいけない。さあ、やるのです!!──運命改稿を!!」
そう叫び振り上げたダインの指には金貨が挟まれていた。
「運命改稿!?」
驚いて聞き返しながら、ロマロはダインが金貨を投げ入れる姿がカッコイイと思った。思っちゃった♡
(だが間違うな!! この気持ちは……この気持ちはホンモノじゃないんだ……っっ)
彼は必死に運命に あがらった。
チャ〜ラララッチャ チャ〜ララ ララララ♩
ナロウキーワードUFOキャッチャーは軽快な音楽を奏でだした♩
「アレです。あのあたりの運命スライムを狙うのです」
ダインがロマロに指差した プルプルの透明なスライムの中には『悲恋』──そして『死別』の文字があった!
「あなたはお若い。この運命から逃れられれば、また今までの自分と生活に戻られるでしょう」
ダインはそうして瞳を細めた。目尻には皺が優しく刻まれる。彼を見つめ返すロマロの藍色の瞳には、潤んで煌めきが宿った。
「そんな……! だってそんなことをしたら、あなたは……」
「ム! これはイカン! 時間切れになります!!!」
ダインはスルリとした体躯を素早く前に出し、丸いポッチのついたレバーを握って動かした。
その素早さにロマロは──
(俊・敏…………!)
思わず見惚れていた。見惚れちゃった♡♡──が、その時 一つの運命スライムがアームに吊り上げられ、落とされた。
「あ! 取れたんだ!!」
UFOキャッチャーに手をついてロマロはそれを注視した。こんな状況でも 取れると喜びが湧き上がってしまう。取れた運命スライムは下の景品口からにょろん……⭐︎と出てきていて、ダインは跪き触れる──すると運命スライムはパッと弾けて消えた。
後には文字のプレートが輝きだしたが、ダインは動じなかった。
「取れたのは『白い結婚』です。私や私達にはさほど縁のないワードですよ。……さあ、次こそはあなたが運命スライムを取るのです!!」
そう告げてダインが手首を回した時、やはりそこには輝く金貨があり、彼はそれを投げ入れる。だが──ロマロには金貨よりもダインが輝いて見えた。見えちゃった❤︎
ダインにうながされ再び流れ出した音楽♩の中、ロマロはレバーを握る。
(どうする? 僕は本当はどうしたい? 取っていいのか?『悲恋』や『死別』を……)
その手が震えた。
(取るべきだろう? 取るべきなんだ! 僕はベー家の53代目当主ハベルルブ伯爵だ。家名はアレでも、良家の子女と結婚することが宿命であり義務!──そこに愛があろうと無かろうと)
「……お手伝いしましょう」
「え?」
視線を動かす間もなく、横から長い指の手が伸びて来てロマロの震える手を包み込む。
ドキン と心臓が跳ねる❤︎❤︎
──しかし同時に気づいた。ダインの手の力はクレーンを『悲恋』『死別』に向けている。
ズキン と胸が痛んだ。
(あぁ……彼は! 僕のために選ぼうとしているのだ!
なんで? 何でなんだ!? どうしてそんなことが出来る?
もし『死別』になってしまったら、本当にすぐにも死んでしまうかもしれないのに……!!)
クレーンは『死別』の真上に到着した。アームがゆらゆらと揺れる。
ダインはそれをこの上なく慎重に確認している。
ロマロは彼の真剣な横顔を見て、これまでの人生に無い感情に襲われた。
(僕は……かつてこんなに……誰かに想われたことがあっただろうか。
母は僕や父よりも若い音楽家と宝石が好きだった。父は妹や弟を可愛がり、跡継ぎだからと僕には厳しくばかりした。
これが、これこそがっ……………
愛なのか────!!!!!!!!!!)
UFOキャッチャーのメロディが高らかに響く♫
(そして僕は? 僕は、僕は僕は僕は僕は)
レバーを握る手に力を込める。肩までも小刻みに震え 膝は内股になった。
UFOキャッチャーのメロディが、アームを降ろす際に変わるその直前に──
「だめだぁ─────────!!!」
ロマロは絶叫してレバーを動かした。ダインの手は外れ、彼は驚きの声を上げた。
「あ!!」
やがて曲調は変わり、移動したクレーンからアームが下げられていく。アームは一つの運命スライムをすくい上げた。
2人からはその文字がハッキリと見えた。
クレーンが景品口まで進むうちに、ロマロは隣りにいたダインに向かって話し出した。
「僕は……どこに行こうとも、あなたを忘れない。どんな世界であっても、どんなに似ていても、僕に命を懸けようとしてくれたのは、今 目の前にいるあなただから」
運命スライムは景品口に落とされる時、他のスライムにはあたったものの、やはり────景品口に落ちた。
にゅるん……⭐︎とその姿はすでにはみ出て見える。
「ハベルルブ伯爵……」
「名前で呼んでくれないか、ダイン? ……最後に」
ロマロの瞳から一雫涙が溢れ落ちる。それが頬を伝い顎から落ち、足元で弾けた時に──運命スライムもパッと散った。
"パラレルワールド" の文字が輝き出す。
そして、ロマロの足元には円状の異空間が出来ていく。
吸い込まれる力を感じながら、ロマロは声を振り絞った。
「僕が愛しているのは あなただ!! ダイ────ン!!」
ロマロを飲み込んでいく空間にダインも叫んだ。
「ロマロぉお───────────!!」
そして そのまま崩れ落ちる……。
ダインは しばし──立ち上がることが出来なかった。
やがてダインがようやく立ち上がろうと膝に手をかけたその時だった。
彼にとってその日3度目である──地面に広がる円状の空間が出現したのだ。
「こ、これは…………!?」
「久しぶりね、ダイン! 最も、私にとっては1年9ヶ月ぶりだけれど、こちらは私が転移したあの日のままなのね!」
そこにいたのは、かつてナロウキーワードUFOキャッチャーをして"婚約破棄"と"勇者"、“転移”そして“ハッピーエンド”を吊り上げたダインの仕える伯爵家の令嬢 メリルの姿だった。
さらに彼女は1人ではなく、背の高い茶色の長髪と金の瞳の若い男と────それから 瞳を輝かせたロマロと一緒だった!
「ダイン!!」
「ロマロ!!」
2人は駆け寄った。ダインはロマロの姿がまだ信じられない。
「これは一体どのようにして……こんな奇跡が……」
この問いにはメリルが答えた。
「私の転移先が平行世界で、そこで私達は再会したのよ。
その世界では登場人物は同じだけれど、半数くらいは魔物や妖精が人の姿に化けているの。
私だけは伯爵令嬢ではもうなくて、別世界からきた勇者だったわ。
盗賊に襲われる貴族令嬢を助けたり、町を襲う魔族を追い払ったり、悪行を重ねる聖職者を暴いたりしたわ。
やがて弱小スライムを拾ったり、エルフや、私に片想いする3枚目キャラを2人 仲間にもしたの」
ダインは黙って話を聞きながら思っていた。
(ファンタジーあるあるだ……。ラスボスとの闘いではスライムはやたら強くなって……)
「あっちの世界では、国王は頭が3つのドラゴンタイプの魔王だった。
私はめっちゃ強くなったスライムと、エルフと、説明セリフばかりで たいしてスキルアップしなかった3枚目キャラ達と共に戦ったわ。
最後は技の名前を叫びながら伝説の剣で倒しました」
「王道の戦いをご苦労様でした。お嬢様」
執事のダインは、筋肉が付き鎧と剣の重さも ものともしなくなったメリルにお辞儀をした。
「ロマロにあなた方のことを聞きました。──そこでダイン、提案があるの! "ハッピーエンド"の運命改稿を宿すレベル99999の私がいれば全ては解決よ!!」
そうしてメリルは、彼女に寄り添うように無言で立っていた長身でローブを羽織った金の瞳の男性を見た。
「彼は魔王に騙されて契約を結ばされていた鷹族の王なの──ウィフォードよ。ずっと、こっそり私に情報を流して勇気づけてくれていたの♡これからは私に仕えてくれるんですって♡一生涯♡」
メリルは彼に寄りかかっている。鷹族の王はローブから長い両手を出してメリルを抱きしめたが、その左手の方は美しく羽根の並んだ翼だった。
「当然のことだメル。あなたが我を救ったのだ。命ある限りあなたの飼い鳥だ❤︎」
2人の激甘ぶりに当てられながら、ロマロはなんとか口を挟んだ。
「だが それが何故、全て解決の"ハッピーエンド"になる?」
フカフカ羽毛の中でメリルは答えた。
「戻ってきたけれど、こちらの世界はカチコチの西洋貴族ルール設定でしょう? 同性愛も人外の生き物との結婚も、認められることも理解もきっとされないわ」
ダインとロマロは険しい顔をしたが、繋いだ手を放さなかった。
「だからこうしましょう!
私とロマロは仲直りして、見せかけだけの所謂"白い結婚"をするの。私付きの使用人としてダインを連れて嫁ぐわ。日常生活では、ロマロとダインはパートナー♡私は私の飼い鳥と幸せに過ごすわ❤︎」
お────! と男性方から感嘆の声があがる。
「素晴らしいよ、メル! いつもあなたは素晴らしい!」
「揉めずにおさめる、現実的な方法かもしれない」
「お嬢様、あなたは真の救世主です」
オホホホホと高らかに笑い、立ちポーズを決めようとメリルは伝説の大剣を地面に突き立てた。
レベル99999の力は その場を揺らした。
────ガコン!
その音の方向に、全員が振り返る。
4人の視線の先にはUFOキャッチャーの景品口からにょろん……⭐︎とはみ出て艶光りする運命スライムがあった……!
「なんということだ!!」
「そういえば"パラレルワールド"の運命スライムは、落ちるとき他のヤツに当たっていた。それがプルプルと はみ出てきてはいたんだ」
ウィフォードとロマロだ。
4人とも走り出した中、メリルが聞く。
「チッ 全てが"ハッピーエンド"だったのに! 一体なんの運命なのよ!?」
「分かりません! つい"パラレルワールド"にばかり気を取られておりました!」
4人はすでにスライムが失われ、光出したその まばゆいキーワードを覗き込んだ。
「「「「………………!」」」」
その文字を読むと誰もがソワソワとし、目が合わせられなかった。
しかし 間違いなく幸せそうだった──
"R18"˚❤︎✧₊⁺˳✧༚
運命改稿……
運命改稿……
運命改稿……♡
ですので、続きは書けなくなってしまいました♡ʕ〃ᴥ〃ʔ
本作は『異世界恋愛ご令嬢、なろうキーワードUFOキャッチャーをやってしまう 』短編の完結編とも言える続編ですが、いや〜わざわざ戻らなくても今作で大体大丈夫かと。(^◇^;)コメディはゆるゆるで、楽しんで頂けましたら幸いです。
キーワードについては、なんとか寛容な定義でとらえて頂けることを願います。
いつも温かく見守って頂き大変ありがとうございます。
好きなようにやらせてもらい、読んでもらっていることに更なる感謝を伝えさせて下さい。
またいろいろなものを書き出していけるように精進して参ります。<(_ _)>
シロクマシロウ子




