沢渡昴について
沢渡昴の父親は外資系企業のサラリーマンで、国内に限られてはいたが、とにかく転勤が多かった。短ければ3ヶ月、長く住んでも1年で他の土地に引っ越す生活が続いた。そんな環境だったので、昴は直ぐに周りに慣れるように人当たりが良い性格に育ったのだ。それでも嫌がらせを受けたりイジメられることもあったが、引っ越しのたびに変わる環境に適応する術と共に、人間関係の問題を解消させるスキルも獲得していった。そして小学6年のとき、Y市に移住するのを期に高校受験の勉学の妨げにならないように、しばらく定住することになる。現在はA中学校2年B組に在席し、クラスのムードメーカーだ。ダークブラウンの波打った髪と整った顔立ちはアメリカ人の父親譲り。175cmと中二男子としては高身長でバスケ部所属、さらに勉学も優秀で英会話も日常レベルなら問題ないレベルのバイリンガル。友人も多く、特に女子の人気が高い、いわゆる「否の打ちどころがない陽キャのリア充」である。
だが、昴は単なる「陽キャのリア充」として気侭に暮らしているワケではなかった。それは過去の自分が受けたツラい出来事に起因しており、誰かが嫌がらせを受けたり誰かをイジメようとする流れが好きではなく、それを阻害する立ち回りをしてしまうのだ。だから意外と敵対する人物関係もできてしまうのだが、今はそれすらも解消するスキルを身につけつつある。その結果、2年B組の雰囲気は穏やかで過ごしやすい教室となっていた。
その2年B組の今のホットな話題は動画配信者だ。今日も教室の後方で集まっては「誰々が面白い」だとか「昨日のライブ配信は良かった」といった会話が交わされる。その中で、1人の女子生徒が新しい配信者を見つけたと動画が流されているスマホを周囲に見せた。
「『オカキン』っていう人でね、心霊スポットの実況中継とかを配信してるの。しかもなんか見てて凄く面白い人〜。」
「へえー!」
周りの生徒が一斉に『オカキン』なる動画配信者をチェックし始める。その『オカキン』とは某トップレベル配信者を捩って付けられたハンドルネームで、かつては炎上系配信者として細々と活動していた。しかし最近、心霊スポット探索の生配信がバズってからオカルト系の話題を数多く配信するようになり、人気に火がついた。今はチャンネル登録者数が50万人を超え、まだまだ伸びる勢いだ。
「最近はY市の付近に来てるって!」
「え、このオカキンが?」
「会えたらオカルト話、聞けるかな?」
「ちょっとみんなで探してみようか?」
話題が超常現象関係になったことで、昴は少し気になってた話を振った。
「それに誘いたいヤツがいるんだけどさ。オカルト話だったら、山口が詳しいんじゃね?」
今は6月。クラス替えがあって2ヶ月が経っていたが、昴はクラスを見回していて悠太だけが友人と呼べる者を持っていないように見受けられた。そしてたびたび、オカルト雑誌を読み耽っているのはクラスメイトの誰もが知っていて、質の悪いイジりもあったが昴がさり気なく止めさせていたのだ。ただ皆でオカルト話をするのならば健全と言えよう。この機会にクラスみんなが互いに打ち解けてくれれば、より良い教室になるに違いない。昴は、そう考えた。
「――は?」
窓際の前の席から不機嫌な声と視線。山口悠太のものだ。ピンッと張り詰めた空気。
「ほら、あの人怖いって…」
「それにキモい…」
ヒソヒソと女子が囁く。
「そ、そんな事は無いと思うんだけどなあ?」
同じように小さな声で昴がフォローを入れた。かつての悠太は、そこまでコミュニケーションに難が無かったように昴は思う――。




