舞台はA中学校
Y市A中学校は長い歴史を持ち、創立は戦前に遡る。故に怪談話や七不思議などの噂話に事欠かない学校だが、平成からの少子化の折、付近の小学校と合併し、旧校舎を撤去して内装も一新され、話を継ぐ者も少なくなり、そのようなオカルト話は廃れて久しい。
そのA中学校に通う2年生の山口悠太は今、ストレスを抱えていた。男子中学生にしては華奢で小柄、ルックスも辛うじて普通の範疇でパッとせず、冴えない。成績も下の下、学年テストの順位は最下位から数えた方が早いほどの落ちこぼれだ。悠太の席は最前列の窓際。その後方から聞こえてくる賑やかな会話を苦々しく思い、小さく呟く。
「陽キャのリア充なんて死滅してしまえば良いのに。」
常日頃から思い、たびたび溢す言葉を聞き咎める者はいない。つまり悠太は陰キャのボッチだ。窓際の最後方では数人の男女がお喋りし、スマホを覗き込み、休憩時間を大いに楽しんでいる。そのような光景を見るたびに、視界に入らなくとも声が聞こえてくるだけで腹立たしくストレスだ。
悠太はストレスの捌け口としてスマホをタップしてスワイプしていく。A中学校は学生が起こすインターネット上での問題について、逆に積極的に使用を推奨していく方針だ。そして教諭もインターネット上で生徒を監督し、問題があれば指導して「ネット社会への慣れ」を推進しているのだ。そんな教育環境なので他校に比べて人間関係の風通しは比較的良好で、悠太のような人物でもイジメに遭うことも少なく、悠太自身もネットを見るのにコソコソする必要もない。
悠太は最もお気に入りのページを開く。オカルト雑誌『月刊ミュー』の通販コーナーだ。そこには様々なオカルトグッズの画像が魅惑的な紹介文と共に掲載されている。その中の1つ、『爆運!成績がグングン上がる、知の神オーディンの秘石スーパールーン!!』を見て悠太は憧れのため息をついた。透明な水晶に悠太が知らない文字が無数に刻まれているペンダントだ。価格は5万円。成績が壊滅状態の悠太にとって、喉から手が出るほど欲しいアイテムの1つである。勉強は嫌いだが高校受験は間もなく。悠太は楽して成績を上げて高校に入学したい。太宰府の道真公は学業を頑張った者にしか御加護を与えてくれない。つまり強力なオカルトパワーで何とかしたいワケだ。そういったアイテムはごく稀に手に入ることを悠太は知っている。今も隠し持っている『万年アイテム』もその1つで、イジメ対策として手に入れた純金でできていると言われる品物だ。悪縁を切るとしてエジプトで出土し、闇オークションを経てフリマサイトに登場したのを悠太がお年玉の1万円で競り落とした思い入れのあるアクセサリー。実際に悠太は中学校に入学してから1度もイジメに遭っていないので確実に強力オカルトパワーを持ってると認定し、大切に扱っている。
スマホを見ながら、今年のお年玉で『スーパールーン』を買えるだろうかと想いを馳せていると、不意に自分の名前が呼ばれた。
「オカルト話だったら、山口が詳しいんじゃね?」
リア充陽キャ集団の男子生徒の1人がそう言ったのだ。
「は?」
間髪入れず悠太は振り返って不機嫌な声で応えた。しばしの沈黙が流れる。
「ほら、あの人怖いって…」
「それにキモい…」
女子生徒が小さな声で囁くのが聞こえたが、悠太は無視して再びスマホに目を落とした。ほどなく授業開始のチャイムが鳴り、教室は学び舎としての役目を勤めることになる。




