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3. Service launch


『Congratulation!』


 海岸に戻された私の前に浮かぶウインドウ。

 チュートリアルステージ突破を祝うメッセージに、拳を叩きつける。スルリと突き抜けてメッセージは消失してしまうが構わない。

 この状況では煽りとしか思えなかった。


「あんなん、どうすりゃ勝てるんだ……?」


 今の時点で考えることではないと分かっている。

 [《赫激竜》エンゼリカ]。

 あれはどう見てもエンドコンテンツだ。この先のチラ見せ。頂点の匂わせだ。

 始めたての雛鳥が勝負できると考えることすら烏滸がましい。


 それでも。それでも腹立たしい。


 いずれは届くという"未来"を教えられれば、"今"の敗戦が受け入れられると思うてか。

 いやはや受け入れられるはずがなかろうて。

 でなければ、仮想と言えど身一つで戦おうなど思いはしない。

 挑み、越える。

 そこに楽しみを見出だし、全霊を傾けてこそとするが故に。



 すうはあと深呼吸して、気持ちを落ち着ける。

 始めたての雛鳥では相手にならないと言うのであれば、お望み通り"未来"では鴻鵠となって相対してやろうではないか。


「やってやろうじゃないか」


 さて、チュートリアル戦闘が終了したことでいよいよゲーム開始となる。

 本サービスに飛び込むにあたり、最後に求められたのが自身のプレイヤーネーム。

 アバター作成時点で設定するのが主流であるだろうに、没入感を高めるためだとか何だで最後に世界へ名乗りを上げて旅立つのである。



『精霊よ。貴方を貴方たらしめる名前を世界へと告げてください』



 問われ、名を告げる。


「キリィク」


 それは本名のもじりで。普段から使っているゲーム内でのネームだ。



『どうか正しき形に辿り着きますように。我らは皆、聖霊の子。新たな同胞の旅路に幸あれ』






 征暦2081年。

 世に満ちる娯楽は体験、あるいは実感を重要視するようになっていた。

 それはゲームも例外でなく、いやゲームこそが強く追い求めるようになっていたと言うべきか。

 仮想の世界に没入し、まるで本当かのような冒険を繰り広げる……。技術の進歩がそれを可能としたのはほんの10年ほど昔の話。

 と言っても、電脳空間に意識を飛ばす。それが限界ではあった。


 ただ、それからの10年がとてつもなく大きかった。

 荒いテクスチャも無味乾燥な世界も、浮いてるだけの移動も虚空に放り出されるロード画面も。それらは恐ろしいくらいの速度で改善されていき、今や現実と大差ないと称されるほどになった。

 仮想現実は真に第二の現実となったのである。


 そんな世の中には、数多のゲームタイトルが産み落とされては消えていった。

 長足の進歩に振り落とされたもの。

 技術の先を行き過ぎたもの。

 古い形に固執したもの。

 新しさを求める余り、まとまらなかったもの。

 それから単純につまらなかったもの。


 まさに群雄割拠。

 仮想現実のぶつかり合い。

 顧客の奪い合いである。


 その仮想現実戦国時代にあって、新たに名乗りを上げたのが『Children of the Holy』である。

 第6世代感覚再現エンジン。最新式の物理演算。高度なAIを搭載したNPC。

 無数のセールスポイントは、しかし現代のゲームでは多くに標準搭載されたもので。

 つまり、それなりに話題にはなってもそこまでで留まってしまう。メジャーとマイナーの中間、でもちょっとマイナー寄りなタイトルだった。


 また、『Children of the Holy』という名前もあまりよろしくなかった。何か宗教染みたものを連想させ、遠ざけられることも少なくなかったのだ。ベータテストでは規定数の応募に届いたものの、運営の予測を下回る具合であった。

 だが逆に怖いもの見たさに近い思いを抱いたユーザーを引き寄せられた面もあり、コアな人気を得ている。そこは功罪分け難しであった。


 その『CoH』がいよいよ本サービスを開始したのが征暦2081年も終わり。12月10日のことである。3年に渡る開発期間を終え、満を持してリリースされたそれは運営の自信に見合ったクオリティを誇っているのだが……。

 果たしてプレイヤーの旅路がどのようなものになるのか。予測は立てられども、その通りに行くとは限らないもので。正しく神のみぞ知るところであろう。


 キリィクはそんな『CoH』のベータテスト参加組である。つまり、物好きの中でもコアな部類だ。

 牧歌的なPVに見え隠れする不穏な気配に惹かれた彼は、迷うことなくベータテストに参加した。そして、本サービスにも。


 『CoH』ではプレイヤーは不滅の存在である"精霊"としてゲーム世界に顕現する。そこに暮らすNPCである"人間"は"精霊"を崇めており、協力を得ながら《聖霊》に迫るのが目的だ。


 ベータテストでは一つの村が拠点として設定され、スタート地点・リスポーン地点・ログイン地点となっていた。人間と交易をしながら精霊たちは自身を強めていったわけである。

 そのベータテストと本サービスとでは随分と仕様が変わったようで。

 海も草原もネームドエネミーも、全て新たに登場した要素である。もしかすれば存在していたのかもしれないが、ベータテストではチュートリアルが行われたのは村の中であった。別個の専用空間が用意されている時点で大きな変化である。

 キリィクにも戸惑いはあったが、全く経験がないわけではない。本サービス開始に合わせて改めて力を入れてくるゲームはそれなりに多い。

 そう考えると、『CoH』の変化は微笑ましさすら覚えるだろう。





◇◇◇


Name:キリィク

Level:01

Title:《無の精霊》

Skill:『汎用剣術Lv.1』

   【スラッシュ】【ストライク】

   『汎用盾術Lv.1』

   【ガード】

   『身軽Lv.1』

   『踏ん張りLv.1』

   『直感Lv.1』



ご覧いただきありがとうございます。

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