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12.A Courageous Clan


 さて、橋のたもとでのボス戦を終えてウェズリの廃村までもう少し。

 雑談をしながら道を歩く。


「しかし、ディングレイじゃなかったな」

「ディングレイ? 初めて聞くっすね」

「ああ、あそこで戦ったのはそいつだったんだが。掲示板でもどこでも『トロットート』って名前でなあ」

「特殊な個体だった、とか?」


 答えは出ない。

 ただ、意味もなく名前が変わるとは思えなかった。いや、毎回異なる名前になるならば理解できる。それならそれでそういう演出なのだと納得も出来る。

 だが、トロットートは常に出現する。ノイツェとビェンテも何度でも出会える。

 ディングレイだけだ。奴だけが姿を消した。他の誰も出会えていない。


「不思議な話っすね」

「まったくだ」

「ってか、名前カッコいいっすね。どんなモンスターだったんすか?」

「レッサーパンダ」

「え?」

「でかいレッサーパンダ」

「ええ……」



 ウェズリの廃村が遠目に見えてきた。

 ここまでムルテを数匹と、シシクという鱗のある猫を5体ばかり倒している。いずれも大した敵ではない。

 この周辺、いやそれよりも奥でレベリングをしていたのだから適正値を越えているのだ。いももちを庇いながらでも余裕があった。


 そうして歩いていると、ガソゴソと草むらから音がした。

 何も言わずともいももちは警戒して1歩下がり、彼女を庇うように前へと進み出る。

 音の感じからするにムルテではない。シシクとも違う。

 新たな敵か。しかしこの辺りで他に出会いそうな奴を聞いたことは無いが……。そう思考を巡らせていると、一つの影が飛び出してきた。


 そいつは布を被っていた。背丈は70から80センチくらいか。驚いたことに2本足で立っている。まるで小人だ。


「なんだこいつ……?」


 思わず呟く。

 飛び出してきた影は、魔物たちとどこか異なる雰囲気を漂わせていた。

 互いに見つめ合うような形で動きが止まる。

 出方を窺う。探り合いを行う。

 それらが成立した時点で、こいつには知性や理性がある。そう分かった。


「もし……」

「しゃ、しゃべったっすよ!?」

「喋ったなあ」


 驚いた。

 小さな影から放たれた問いかけるような言葉。鳴き声ではない。それは紛れもなく言葉であり、意志疎通を図る呼び掛けだった。


 魔物にそんな高度な真似が出来るのか。いももちはそこに驚きを覚えたのだろう。


 しかし私は知っている。


 魔物にも言葉を介するものは存在することを。エンゼリカ、ロザリンド、ウラタリ。三例も出会っていれば十分だろう。高度な知性を持つ魔物は確かに存在しているのだ。

 そして、驚きを覚えたのはそこではない。

 ネームがポップしないのである。

 接近し、見つめ合い、言葉を交わせるほどの距離であると言うのに未だモンスターとしての表示が無い。

 それは即ち、この小さな影がモンスターではなくNPCであるということを指し示す。

 驚きだ。こんなところで人間以外の住民と遭遇できるとは。


「……もし、そこな勇士殿」


 張りのある、少年のような声だ。それも変声期前の。古くさい言葉遣いとはまるで逆。瑞々しさすら感じさせてそいつは言った。


「ディングレイという名に覚えがあろう?」

「それって……」

「まあ、そうだな。覚えがあるどころではないが」


 小さな影が頷く。

 求めていた答えを得た。そんな反応だ。

 それからそいつは、着いて参れと言った。


「おい、待て!」

「ちょっ、追うっすよ!」

「良いのか、村はそこだぞ!」

「そんなの後!」


 駆け出した小さな影を二人で追う。

 草むらに入ったそいつは森の方へ向かっていく。ウェズリの廃村からは西へと進む形だ。

 時折こちらを確認するように立ち止まる影に導かれて森へと入る。


「どこへ行くんだ?」


 問いかけても答えはない。

 ただ、こちらが追って来るのを待つように立ち止まるだけだ。

 木々の中を縫うように、あちらへ行ったりこちらへ戻ったり。意図して迷うように進んでいく影。方向感覚は既に滅茶苦茶となり、ウェズリの廃村がどちらにあったかも分からない。


「……ん?」

「どうしたんすか?」


 ミニマップで状況を把握しようとした。だと言うのに表示されない。

 いや、ウィンドウは出現するのだ。しかし、そこには『Current location unknown』としか表示されないのである。現在地が不明となっているのだ。

 マップがありながら迷子となってしまった。


「おいおい」

「……おにーさん、あれ見て」


 戸惑いを隠せない。戻る道が分からないことに焦る。

 さすがに怪しい影に着いていくのは危機感が足りなかった。しかし後悔先に立たずである。

 どうにもならない。

 と、そこでいももちが何かに気付いた。

 彼女が指差す方を見ると、そこには洞窟が。


 小さな影はその洞窟の入り口に居た。


「さあ、勇士殿。長がお待ちであるぞ」


 近付いてみるとそのように言われ、この洞窟の先に何かが待っていることが分かる。


「……待ってくれ。彼女を村まで送り届けたい」

「ん? ならば何故着いて参った?」

「あなたが走り出したものだからつい、な」

「ふむ……。それは此方の話の後では遅いものなのか?」


 痛いところを突かれる。

 まさか10分近くも走るとは思わなかったのだ。加えて、途中で放棄してイベントのフラグが折れるのは避けたかったのもある。それから、一度追いかけ始めたら止め時を見失ってしまったところもある。

 しかしそれらは全てただの言い訳に過ぎない。

 いくらいももちに追おうと提案されたからと言っても、さすがに請け負っていたことを投げ出すのは良くなかったと反省する他ない。


「ああ、そうか。我らを怪しむのも当然か」


 小さな影はここなら良かろうと言うや否や、その身体を包む布を取り去った。

 そうして姿が露になる。


「……レッサーパンダ?」

「……っすね」


 直立する茶色い獣。どこから見ても恥ずかしくないレッサーパンダであった。

 サイズ的にも普通のレッサーパンダにしか見えない。いやしかし、レッサーパンダなら二足で駆け回ることは出来ないはずだ。

 それに何よりも、瞳に宿る叡知の光。


「我が名はヅェレイ! ヅェレイ・ドレッドノート! 誇り高きドレッドノートが戦士にして、偉大なる父にして慈悲深き母なる聖霊を探す命を帯びたペレバータの1人である!」


 レッサーパンダが高らかに名乗る。

 ヅェレイと言うらしいレッサーパンダは、衣服を纏い道具を携え、確かに何らかの組織に属していると見えた。

 その辺りを質問してみれば、彼──オスであるとのこと──は快く答えてくれた。


「ドレッドノートとは我が一族のことである。誇り高き戦士と知恵深き職人からなる一族でな。我は戦士の1人であるのだ」


 なお、レッサーパンダとは別物らしく。決して混同してくれるなと念を押された。


「うむ、あやつ等は我らとよく似た風貌をしておるがな。しかし似ているからと精霊を人と混同する者はおるまい? ましてや猿などと。であれば、間違えてくれるなという我らの思いを理解してもらえるはずであろう」


 ヅェレイ曰く、聖霊探索は一族挙げての悲願である、と。

 精霊であるプレイヤーの目的と近しいところである。頷いていると、彼はさらに続けて言った。

 勇士殿をお呼びしたのは他でもない聖霊探索のためだ、と。


「あー、……その勇士殿ってのは何だ? 呼ばれる度にむず痒くてな」

「むう? 勇気ある戦士は勇士であろう。むず痒いも何も照れることあるまいて。ディングレイを討った戦い、拝見致した。真に天晴れ。あれぞ勇士と我ら一族惚れ惚れした故」

「おお……」

「……べた褒めっすね」


 あまりにも真っ直ぐな瞳で見つめられ、ヅェレイから目を逸らす。黒真珠のような瞳に偽りは一切なく、だからこそ照れてしまう。


「長が勇士殿を招くと決めたのはディングレイを討ったがためである。あの者はドレッドノートにありながら魔道に堕ちた一族の面汚し。されども我らのみでは力足りず。苦慮していたところを救っていただいたのだ」


 そう言うと、ヅェレイは後ろの洞窟を指し示す。

 この奥で長が待っている。彼はそう言った。


 怪しくないわけではない。

 だが、ここは話に乗ることにした。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず、あるいは危ない橋も一度は渡れ。ゲームだからこそ取れる選択肢もある。

 ここはリスクを承知で前へと進むべき時だ。

 巻き込む形になるいももちには悪いが、ここまである程度は承知の上だろう。あとは誠心誠意謝るしかない。


「ささ、職人殿も参られよ。戦士と職人とが手を取り合うは、我らドレッドノートと同じ形。共に歩んでこそ高みへ手が届くと言うもの」


 ヅェレイに続いて洞窟へと踏み込む。




 ◇



Name:キリィク

Level:12

Title:《無の精霊》《禁忌との遭遇》

Skill:『汎用剣術Lv.11』

   【スラッシュ】【ストライク】

   『汎用盾術Lv.8』

   【ガード】【バッシュ】

   『身軽Lv.7』

   『踏ん張りLv.10』

   『直感Lv.9』

   『踏み込みLv.7』

   『蓄力Lv.4』

ご覧いただきありがとうございます。

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