11.Uncle Long Legs
「オルちゃんから話は聞いてるっすよ! よろしくおにーさん!」
ウェズリの廃村から駆け戻り、やって来たぞ最初の村まで。ファストトラベルの登録を済ませたことで、やっとここが『エルストドルフ』と言う名前だと知った。
安直だな、とそんな感想を抱きつつ。
エルストドルフに来た目的は一つ。
オルメスたちに紹介を受けた、生産職志望のプレイヤーとの接触である。
いももち、というネームの彼女もまたオルメスらと同じサークルに所属しているのだとか。
良いのか、花の女子大生と会うなんて。
一抹の不安を抱きつつの開口一番が冒頭である。おじさん扱いされたら泣いてしまうかもしれないと身構えていたのが馬鹿みたいだった。
茶色い髪を肩口で揃えてあるいももちは、小柄で華奢な少女だ。細い手足はどう見ても非力でいかにも戦闘に不向き、生産職志望というのに納得してしまう荒事に不慣れな雰囲気が漂っている。
彼女の裏表の無さは、話をするとすぐに伝わってきた。若干警戒していた心が解される。
サービス開始から2日が経ち、プレイヤーたちが徐々に『CoH』へと慣れ始めてきた。
ウェズリの廃村にも精霊の姿が多く見られるようになり、周辺の探索のために村の整備が進められつつある。
そんな中で、いももちはまだまだ駆け出しの生産職であった。
生産職の道は長く険しい。
まずエルストドルフには師匠NPCがいない。
かの村には寂れた道具屋とボロの鍛冶屋、それから小さな薬屋がある。店舗はそれだけだ。
その内、道具屋はただの商店で小売りを営んでいる。鍛冶屋はレベルが低く道具の修理しか出来ないために生産設備が整っていない。薬屋はいくらか生産設備を揃えているが、NPCが偏屈で精霊であっても友好的でないのだ。
それ以外の職を目指すとしたら、エルストドルフからは旅立つ他無いのだが、近隣の村はどこも似たり寄ったりな状況なのだ。最寄りとなると、ウェズリの廃村とは反対方向のイルベットという少し大きめな町である。
それでも諦めずに生産系のスキルを取得したとして。
設備の用意が、さらには素材の収集が立ちはだかる。
結局、何も無いところから始めることは出来ないのだ。無から有は生まれない。それは『CoH』においても同じである。
そんな苦行を始める覚悟をして、しかし生産職志望たちに待ち受けるのは単身では手が足りないという現実である。
拠点の移動、素材集め、売買と他者との関わりが不可欠であるために最後に物を言うのは、いかに人脈を形成するかという点であった。
最も、これはどのゲームであっても重要である。他者と関わりたくないのであれば完全お一人様用のソロゲーに籠るしかないのだ。
閑話休題。
エルストドルフに残っている生産職は珍しいというほどではないが減少傾向にある。
その中の一人であったいももちは、イルベットではなくウェズリ方向への移動を画策していた。
オルメスが引き合わせたのにはその辺りの合致もあるのだ。
「じゃあまずはウェズリの廃村までお願いするっす!」
ウェズリの廃村で何をするのか。何が行われているのか。
それは、まち作りである。あるいは再開発とも言う。入植と言っても良い。
滅んでしまった村を精霊たちで再利用しようとしているのだ。実効支配、なんて表現をする者も居る。
まず、村や町などの居住可能エリアはファストトラベルモニュメントを基点にして形成されている。
ウェズリでは基点が無事なまま、住人だけが居なくなってしまった。土地と建物だけ残っているのである。
それで、建物の一つを探索していた精霊──フララだが、所有権を得るかコマンドを発生させ、拠点となるマイホームを入手した。
そこで、廃村を開拓するアイデアが生まれてゲーム内掲示板に共有される。これに賛同した者がウェズリに集まる。
そうして、現在ではエルストドルフに迫る人口密度となっていた。
いももちがウェズリに今から向かっても、新たな家は確保出来ない。
だが、一度他のプレイヤーを経由した家ならば?
そう、私だ。
仮の拠点として確保した一軒を譲渡する約束をした。
持ち出しが多く見えるものの、元手は0なのだ。加えて、今後の装備制作やメンテナンスの代金を無料にしてくれるとあれば、期間にもよるがこちらの取り分が大きくなる。
「それじゃ、よろしくっすね」
「おう、任せな」
小柄ないももちと並んでウェズリの廃村へと向かう。何もない道を歩き、川へと差し掛かるまでにムルテを6匹始末する。足止めにもならない。石を蹴るように吹っ飛ばし、出現からノータイムで片付けた。
いももちの経験値とするにも割に合わない。
ムルテを倒したところで、ろくに経験など積めないからだ。誇るべき成果でないからだろうな。このゲーム、弱い相手からよりも強い相手の方が経験値が増加するのである。
「この先の橋でボスと戦う。そこでは魔法を使ってくれ」
「う、うっす……! やってやらぁ!」
「威勢だけはいいのな」
声は小さかった。
小さく拳を握ったいももちに視線をやって、そこで気付く。
「武器はどうした?」
「はい? 武器っすか?」
彼女は何も持っていないのだ。まさか徒手空拳で戦うわけであるまい。開始時点で選択し忘れた? そんなまさか。
とすると、いくつか予想が浮かぶが……。
「もしかしてだが……、武器を加工しようとしたか?」
「いや、その、手っ取り早く戦力強化出来るかなって……。たはは……」
「あー、そんでもって熟練度だか設備だかが足りずに失敗したと」
「そもそも初期装備って強化出来ないんすよ」
ならシステムロックかけろよ。そうぶつくさ文句を垂れながらいももちは続けて言った。
「おかげで杖無し、金無し、素材無しっす」
「お前……」
「パトロンになってくれてもいいんすよ」
「拠点用意して、移動手伝って、素材くれてやって、仕事まで回す。パトロン以外の何者でもないが」
「たしかに。感謝しないと」
改めて己れのやっていることを列挙するとヤバイな。
初対面の相手にすることじゃない。
ついでに言うならその相手が女子大生な辺り、まじでただの姫プとしか表現できない。成り行きとは言え、どうなんだ。
「どうしたんすか、黙り込んで」
「……なんでもない」
下から覗き込まれ、苦し紛れにそう返すのが精一杯だった。
たかだか数時間の付き合いで絆されている。そう自覚しつつも、暖かな思いを止められなかった。何より、否定したくなかったのだ。
◇
歩いている内に橋の近くまでやって来た。
何組かのパーティーを見かけたが、声をかけることもかけられることもなく。──不用意な接触はトラブルの元であるから基本的に避けられるのだ。
実に順調な足取りで、中継ポイントに到着したのであった。
「あの橋でボス戦っすか……」
感慨深そうに呟くいももち。
チュートリアルみたいなものだが、とツッコむと面白くなさそうな視線が返ってきた。
「ほぼほぼ初心者なんすよ、ウチ」
「知ってる。だがレベル1でも突破できたぞ、ここ」
「うむむ……。ウチ、ただの生産職なんすけど」
唇を尖らせるいももちに曖昧な笑みを返し、順番待ちの列に加わる。
橋の手前にはボス戦へと挑むパーティが並んでいるのだ。最後尾につけ、だらだらと話ながら自分たちの番を待つ。
「どこも上限いっぱいっすね」
いももちの言う通り、どのパーティも編成上限人数である5人組だ。
それも当然だろう。やはり人数が多いと安定性が増す。1人ではワンミスが命取りになりかねないが、仲間と一緒ならカバーし合える。
そのため、即席の野良プレイヤー同士のパーティだってあるのだ。
と、そこであるものを渡し忘れていたことに気付く。
インベントリから譲渡先を選び、申請を飛ばす。
「ん? メッセ?」
「ああ、何も持っていないとなると不安だろうからな」
「ふーん、おにーさんからっすか。どれどれ……。って、これ!」
騒ぎ出す前にいももちを宥める。
譲渡しようとしているのは先の邪精霊ウラタリから得た[古びた杖ロジェーディヅェン]だ。
私の使わない指揮棒タイプの魔法触媒だが、いももちに譲るなら丁度良い。
一気に戦力の強化を図れるし、在庫の処分にもなる。何より恩義に感じてくれるなら無茶な頼みごともしやすいと言うもの。
打算を滲ませつつ、口先で丸め込み申請を了承させる。
「いいんすかね……」
「何が悪い。何故悪い」
「いやだって、ズルくないっすか?」
「くはは。パトロンにキャリーされるお姫様が言うことか」
「うーむむ……」
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