10.Treasure scavenger
ロザリンドが姿を消した。
すぐに居なくなると言っていたし、本来この辺りを縄張りにしているようではなかったため居なくなること自体に不思議はないが、目を離した瞬間にふっと消えたのは驚きだった。
挨拶くらいはしたかったのだが。
瓦礫の山となった大部屋を漁り、それからやたら広いだけの廃墟となった家を探索した後に外へ出る。
収穫はあった。
いくつかのアイテムと素材、それから金銭を入手し、ホクホク顔で廃村の中心へ向かう。
手に入ったものはいくつかある。
[番狼の腕甲ウビキ&サガミ]。
これはノイツェとビェンテを倒した時のドロップ品である。腕甲のセットで、右手がウビキで左手がサガミだ。
手の甲から肘までを覆えるようになっており、表面は狼の毛皮だろうか。簡単には刃を通しそうにない。
[???鋼の剣鉈]。
こちらはウラタリの家を探索して発見したもの。
何かしらでアンロックされていないようで、素材であろう『???鋼』の正体は掴めない。鑑定系のスキルを持っていれば分かったのかもしれないが、今後も取得する気はないため関係のない話だ。
肉厚でギラギラした刃を持ち、刃渡りは40センチほど。片刃であるから取り回しが変わるが、初期装備の片手剣を遥かに上回る存在感を放っている。
[飲み薬]。
こちらもウラタリの家を探索して発見したもの。ポーション。
小瓶に入った液体で、透き通った緑色をしている。全部で5本あった。
調べず飲むのはさすがに怖いため、鑑定してもらえる人を探さなければならない。
[古びた杖ロジェーディヅェン]。
こちらもウラタリの家で発見した。
魔法使いが扱いそうな杖で、指揮棒くらいの大きさ。持ち手のところに色の薄いルビーが嵌め込まれている。
売却予定。
[宝剣???]。
ウラタリの家で発見したもの。今回得た戦利品の目玉。
白地に金で装飾された鞘にはいくつもの宝石があしらわれ、剣身を抜き放つと水晶の刃が光で煌めく。聖剣、というよりは名前の通り宝剣だろう。
銘は読めない。やはり鑑定系のスキルか……。
換金アイテムかとも思ったが、それにしては妙な威圧感を受けるためしばらく保管するつもりだ。
他にも素材をいくらか得ているが、それらは活かせる相手に出会えるまでは死蔵することになるだろう。
『???鋼』のインゴットを数本手に入れたので、出来れば鍛冶師と渡りをつけたいものだ。
廃村の広場には聖霊を讃えるモニュメントが置かれていた。破損もしていない。
少し調べてみる。
腰の高さ程まである石碑だ。
彫り込まれている文字は読めない。『CoH』内専用のオリジナルだろう。内容を調べるにはそれ用のスキルを取るしかないが……。まあ、おいおいだ。考えてはおこう。
石碑に手を置くと、ポーンとアナウンスが流れた。頭の中に響く感じだ。
『ファストトラベルがアクティベートされました』
メニュー画面を開いて確認すれば、周辺ミニマップとファストトラベル、それからリスポーンポイントの設定が開放されて選択できるようになっている。
恐らく、最初の村で開放できた要素だが、この廃村まで来てようやく利用可能になったのだ。
早速リスポーンポイントを廃村へと指定する。ちなみに『ウェズリの廃村』というのが名前であった。
ミニマップはてんで使い物にならなかった。ウェズリの廃村を中心に明るい円が表示されるものの、その外の様子はさっぱり分からないのだ。歩いてきた道筋に沿って光の線が伸びているが、始点がマップ外にあるようでどこまでの長さかも分からない。
分からないことばかりが増えるためにさっさと閉じてしまう。無くてもなんとかなるだろう。これまでは無かったものであるし。
もそもそと携帯食料の乾パンを頬張る。
あまり美味しくない。いや、乾パンに味を求めるのは間違っているが廃村の広場で食すには些か以上に味気無いのだ。
「でもこれ以外にないしな……」
そもそも廃村で食べて美味しいものなどあるのだろうか。何を食べたところで満足出来ないのでは。
辺りを見回せば、血溜まりと廃屋ばかりが目に入る。どう見ても惨劇の後、と言うか実際に惨劇が起きているのだから現実なら心霊スポットもかくやの絶叫ポイントであろう。
益体もないことを考えつつ、乾パンを食べ終える。すると腹の底に活力が戻ったように感じた。
『CoH』に空腹ゲージは存在しないが似たようなものならある。食事をしないとステータスにマイナス補正がかかるのだ。
具体的には身体が重く感じる。
餓死が無いため全く食べずにいることも可能だ。だが、そうすると絶えず怠さに悩まされることになる。
肉体と精神は互いに干渉し合っている。肉体が重さや動かしにくさを感じれば、精神はそれを怠さとして認識するわけだ。生理的な反応は再現が出来る。その再現と最も近似した感覚の名前を引っ張り出してくる感じか。
それで、この空腹による怠さを少し前から感じていたため、乾パンを食した訳であるのだが……。もっと美味しい物を食べたくなってしまった。
他プレイヤーとの交流を図る理由が増えてしまったな。
石碑の前で座って考える。次はどうするべきか。
廃村にファストトラベル出来るようになった以上、一旦最初の村まで戻るのは大いにアリだ。
それとは逆に、進むのも良い。村どころではない規模感の──例えば街とかそれこそ王都みたいなのを探すのも面白いだろう。見つけられればなおのこと。
そうして思案していると、やがて足音が耳に届いてきた。
その時点で方針が定まる。ある意味天の配剤か。
そうか、そうだな、そうしよう。
「ウソ!?」
「マジかよ、俺ら一番乗りじゃねーの!?」
足音と声の主の方を見やれば、村の入り口側からやって来た4人組の男女の姿が。
まだまだ初期装備で身を固めた彼ら彼女らは間違いなく同輩だろう。
「やあ、どうも」
軽く手を上げて挨拶をする。
4人組はそれぞれが何らかのアクションを返す。
ファーストコンタクトは上々。
近寄ってきた彼らに石碑のアクティベートを促し、それから互いに自己紹介を済ませる。
◇◇
「え、キリィクさんはソロなんですか!」
「マジすか!?」
こちらが一人であることに驚きの声を上げたのはフララという少女だ。
一緒に驚く少年がエンリケ。
まだ警戒を解かない青年が水芭蕉。
オーバーオールを興味深げに観察しているのがオルメスで、そうは見えないがパーティのリーダーだ。
大学のゲームサークルで一緒の仲良し4人組なのだとか。微笑ましい。
ほんの数年前だがえらく昔に感じる学生時代を思い出す。格ゲーでひたすらボコされていた記憶が蘇るよ……。
ろくでもない思い出を封印しつつ、4人組との話を続ける。
彼ら彼女らはディングレイを真っ先に討伐した後、そのまま真っ直ぐにウェズリの廃村までやって来たのだと言う。
オルメスたちの他にプレイヤーを見ていないことから、一番乗りだと考えていたら村の中央に座るプレイヤーを見つけて驚いたと笑っていた。
「でもどうやって来たんです?」
フララは興味深げに質問してきた。
「どうやって、とは?」
「いやだってウチらより先にボス抜けたにしても早すぎますもん!」
言われてみると確かにそうだ。
ディングレイを突破して、ノイツェとビェンテと相討ちになって、ウラタリに出会って。
イベントが盛り沢山だった。これらを切り抜けた上で、フララたちを待ち受けるように廃村の広場に居たのだ。
フララたちに全部を明かしたわけではないが、それでも時間的に早いと言われるのは理解できる。
「フララ、この人多分村に寄ってないよ」
「え!?」
オルメスの呟きにフララとエンリケが目を丸くする。
「……ログインポイントは村だったが」
「ならその村の名前を教えてください」
「むむ……」
苦し紛れの言い訳をオルメスに封殺される。
「称号が初期のまま。《無の精霊》は村で属性を獲得すると消えてしまうから、属性を選択しない縛りプレイ以外あり得ない」
「そういうことか。スピード重視で段階すっ飛ばしたな」
水芭蕉が頷く。
知らなかったことを狙ったことのように言われるとむず痒いものだが、ここは黙っておく。
「すごいっすね! それでソロ最速突破とかめっちゃ強いじゃないすか!」
キラキラと目を輝かせるエンリケから視線を逸らす。止めてくれ、それが一番効くんだ。
装備の更新について話題を変える。
「……一人だとね、装備の伝手が無いんだ。生産職に顔が利く訳でもないし、誰かいい人を知らないかい?」
4人はそれぞれ顔を見合わせる。
「いやその、ウチらも初期装備なんで」
「これから職人探すんすよ」
フララとエンリケが微妙な表情を浮かべる。
頼られたけれど力になれないことを申し訳なく感じているようであった。むしろ申し訳ない。始まったばかりのゲームなのだ。そういった繋がりはこれから出来ていくものなのに、急かすような真似をしてしまった。
自力で地道に探す他あるまい。
そう決めて、最初の村へ戻ると告げようとするとそれより前にオルメスが口を開く。
「これからサークルのメンバーがログインするみたいで、一緒に会いに行ってみますか?」
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