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アステリ
議場へ向かうには遠回りだ。俺がそれを注意をしようと口を開きかけた時、目の前に後宮が見えてきた。
雄社会のアステリの中で唯一、雌の遺伝子を持つ王族。聖女王候補が暮らす場所。
議場への道が間違っていたと思っていたのだが、老ユリイカは俺の為にわざと遠回りしてくれたのだ。
口を開きかけた私を制し、ユリイカは歩を進めて行く。俺は黙って彼の後について行く事にした。
後宮は基本、誰でも自由に出入り出来る。しかしそれは前庭のみであり、建物内に入れるのはそこで働く者のみだ。また後宮に暮らす者は滅多に人前に出ることはなく、一般人はほとんどここを訪れる事はなかった。たまに窓から顔を覗かせる王姫の姿を見ることが出来る、そんな奇跡があるとしてもだ。
前庭を警護していた兵にユリイカが声を掛けた。何やら他愛も無い話をしている。俺は後ろに控えながら、それとなく後宮の方へと目を向けた。
結構長い間、いや、時間にしたら数分の事かも知れないが、俺たちは前庭に留まり、衛兵らと言葉を交わした。その後、議場へと向かうためにその場を去った。
道中、老ユリイカは俺の顔を見て、無言で笑みを浮かべた。
俺は努めて冷静さを装っていたのだが、彼には見透かされていたのかも知れない。
その日、次期女王候補を一目見ることは叶わなかった。




