アステリ
オリンピア会場。聖女王の玉座の横に用意された席に座るコリアは緊張している様に見えた。その隣には末妹の席もあり、緊張気味のコリアに比べ、彼女はどこか気楽そうに笑みを浮かべ会場で繰り広げられる様々な催しものを嬉々として眺めていた。
オリンピアは三日三晩行われる。初日は選ばれた一般兵士による集団の模擬戦や個人競技で終わり、翌二日目からが候補者たちの闘いになる。
オリンピアが始まってから、俺は少し気が楽になったと同時に良い知れぬ不安も感じていた。
初日最後の催し物が終わると出場者たちが退出するのと同時に広場に檻が運び込まれた。
隣に立つ兵士の胸ほどの高さしかない小さな檻の中には窮屈そうに体を丸めて捕らえられている異型の雄がいた。
我らが父、ジャーヴィスの傀儡王。
この国の今代生まれのアステリ全ての父でもあるジャーヴィスは、かつて持っていたであろう牙は完全に抜かれ、諦めと怯えが大きな複眼に見えていた。
「聖女王、万歳!」
会場中が叫ぶ。
聖女王が玉座から立ち上がり、歓声の中、檻の元へと降りていく。
聖女王が檻の闘技場の中央まで来ると、兵士が鍵を開け、檻の格子戸を開け放った。兵士が慌てて駆け出し、退場する。
会場が静まりかえった。
暫く開いた扉を見つめていたジャーヴィスの王は、やがてのっそりと檻の中から這い出してきた。
観客席にいた俺には聖女王が囚われたジャーヴィスの王に向かって何か言ったように見えた。その直後、王は弱りきった体とは思えないほどの素早さで聖女王に跳び掛かっていった。
闘技場の観客が息を飲む。
痩せ細っているとはいえ、その長い手脚から繰り出される攻撃は脅威に思えた。腕が一本欠けていたが、残りの三本を剣肢に変えて聖女王に襲い掛かる。
……当たる!
そう思った瞬間、聖女王の身体が沈み、ジャーヴィス王の胴に彼女の腕が絡んだ。王の剣肢が空を切るのと同時に彼女はその背に素早く移動し、戦斧に変えた手でその首を背後から斬り落とした。
聖女王は自らの手で処刑した王の亡骸に喰らいつき、我々が見守る中でジャーヴィスの王を食べ尽くした。
聖女王が斬り落としたジャーヴィス王の首を拾い上げ、聴衆に向かって捧げた。
「アステリに栄光を!」
「聖女王、万歳!」
手脚を打ち鳴らす音、轟く歓声。観客席は興奮に満ちていた。
それを満足気に見ていた聖女王がやがて闘技場から退出した。
俺は王族席の方を覗う。コリアは相変わらず緊張した面持ちで、闘技場に出来た血溜まりを見つめていた。




