イヴ
“大いなる意思”(マザー)は宇宙空間を管理制御する為に一つの星系を管理するミクロコンシューマを、数十のミクロコンシューマを管理するマクロコンシューマを作り出し、そして自らはそれらを観察した。
観察することで事象が変化することは何世紀も前に発見されていた。だから“大いなる意思”(マザー)は幾つかの外宇宙にある未熟な星系をあえて観察せず、放置していた。ある科学者の思考実験から生まれた“マクスウェルの悪魔”はこうして実在する存在となったのだ。
地球という惑星に誕生した人類から今に至るまで、その他の星系にある、生命が誕生し得る惑星から人類に代わる、或いはそれに近しい知的生命体の誕生/発見はされていない。ある生物学者は言った。人類は特異点なのだと。
千年という時間はヒトを諦めさせるには十分過ぎる時間だったが、“大いなる意思”(マザー)は違った。
イヴの存在は過去、様々な人種の神話にあるパターンに類似していた。ハイヌウェレ型神話や古代ギリシャ神話、古事記など。多くが神の死後、その体から穀物や山河、又は新たなる神の誕生などを物語っている。
つまりはそれらを物語る古くから人類はイヴの様な存在を認知していたと言うことになる。イヴの細胞の一つ一つに次元の違う一つの宇宙が存在すると言うことは、我々が存在する宇宙も大きな存在の一部かも知れないと言うことだ。
地球人類は今や全宇宙に散らばり、ステーションと呼ばれる電脳空間で交流を持つのが主流となっていた。宇宙の膨張により、確率としては僅かだがワープホールでの事故が避けられなかったからだ。
凡そ4000年前、増えすぎた人類を抑制/管理する為、“大いなる意思”(マザー)は遺伝子を操作し、肉体による快楽を除去した。その結果、それ以前に痛みを克服していた人類は、自己の精神的快楽を追い求めるようになり、他人の肉体的/精神的苦痛に無断着となっていった。
夫婦という形は社会的立場を表す形骸的なものになったり、精神的快楽に共通点を持つ、一種のパートナー的存在となる。
また人類は事故や自死といった不幸から、急速に数を減らし、現在の数は20億未満となっていた。その為、“大いなる意思”は自死を認めることなく、都度、ヒトの遺伝子操作を繰り返した。
こうして人類は進化した。
進化とは、環境による“変化”に過ぎない。




