ホプキンズ
食事が済むとホプキンズはテーブルから立ち上がり、ガレージに向かった。何年もエンジンをかけていない年代物のシボレーは黒いボディカラーが埃で灰色になっている。その横に置いてあった虫かごを手に取り、ホプキンズは部屋へと戻っていった。
虫かごには少しの土の上にホプキンズが餌用にと育てたコオロギが数十匹、ガサガサと這い回っており、それを部屋に有る大きな水槽が乗ったテーブルの横に置いた。
「お待たせ。ごはんだよ」
ホプキンズはそう言って虫かごのコオロギを数匹、水槽の蓋を開けるとその中へと放る。
大きな水槽の中には七割程の赤茶けた土が入れられていて、ホプキンズがコオロギを入れてしばらくすると水槽の中の地面を這っていた小さな虫がわらわらと集まって来て、あっという間に数匹のコオロギを襲い始めた。
間もなくしてコオロギたちの死骸が巣に運び込まれるのを見てホプキンズは満足気に微笑み、それから水槽の中ほど、土の中に目を向ける。
水槽の殆どを占める赤茶けた土の中では蟻たちが生活する様子が見て取れた。硝子面に木の根状に枝分かれした幾つもの部屋と複雑な通路。その中で幾匹もの蟻たちが忙しなく働いている。先ほど狩った獲物のコオロギも巣の入り口付近で何匹もの蟻たちによって細切れにされ、器用に狭い巣の中に運び入れていた。
蟻の生態を観察するのは面白い。
彼らは女王をトップにした完全な社会合理主義的生活を送っており、個の犠牲より全体の存続を最優先する。女王が数年生きるのに対し、その他の働き蟻は二か月から半年も生きられない。彼らの絶対奉仕の姿勢は人間世界では見ることが出来ない。
かつてカール・マルクスが提唱した社会主義、共産国家。その完成形は蟻の世界でしか体現できていないのだ。




