ホプキンズ
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ジャスティン・クロード・ホプキンズ(皆からはホプキンズさんや或いはちょっとした皮肉の意味を込めて“メガネさん”と呼ばれていた)は遅い朝食をとりにため、ベッドから這い出した。
先日、長年勤めた母校の大学の臨時講師の職を辞したばかりで、まだ四十代の半ばというのに何をするというでもなく、毎日ごろごろと怠惰な生活を送っていた。
腹が鳴る。昨晩、食料の買い置きも尽きたのを思い出した。仕方なく、一ブロック先にあるスーパーへと向かうために父親譲りの皮ジャンパーに袖を通して家のドアを開けた。
通りの外では向いのジンジャー家の息子が友人と数人で空気の抜けたバスケットボールを蹴ってはしゃぎながら奇妙なサッカーに興じていた。
「あ、ホプキンズさん」
声を掛けられホプキンズは小さく舌打ちをする。
ジンジャー家の二番目の息子はやんちゃでイタズラ好きで、何よりたちが悪かった。何が楽しいのか、ホプキンズと顔を合わす度にちょっかいを掛けてきて正直うんざりしていた。
無視して立ち去ろうとしたが、少年がこちらに走り寄って来たので逃げることが出来なかった。
「ホプキンズさん、こんにちは。お出かけですか」
オリバーは新しい玩具を見つけたかのように眼をキラキラ輝かせ、口元にいやらしいニヤニヤ笑いを浮かべて言った。
「まあ、ちょっとそこまでね」
今度は何を企んでいるのか、ホプキンズは少年の動きに注意を払いながら答えた。
オリバーは振り返り、手に持っていたバスケットボールを仲間目掛けて放ってから、再びニヤニヤと笑みを浮かべて話を続けた。
「お父さんが言ってたのですが、ホプキンズさんは天才バッターだったんですってね」
「小さい時だよ。少年野球のクラブ対抗戦の決勝でたまたまホームランを打っただけだ。天才バッターなんて言い過ぎだよ」
実際、十ニ歳くらいまでは運動神経も良かった。中学生にもなると太ってしまい、誰からも誘われなくなったが。
「ホームラン打つなんて凄いです!」
いつの間にかオリバーの仲間たちも集まってきて囃し立てた。
「やって見せてよ!ホプキンズさん!」
「見たい!」
「僕、ピッチャーやるから打って見せてよ!ホプキンズさん!」
子供の遊びに付き合っている暇は無いのだが、ここで無視すると後で何されるか分からない。仕方なく「じゃあ、少しだけ」と彼らに付き合う事にした。




