表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理を灯す少年 〜祈り万能世界で、AIを宿す俺だけが“理論魔法”を使えた件〜  作者: いい加減工房


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/38

第5話 外縁への散歩

この作品を開いてくださって、ありがとうございます。

作者のいい加減工房と申します。

「いい加減」は“雑”ではなく、ちょうどいい塩梅の方の意味です。


――この物語の舞台は、「ことわり」とマナが満ちた世界です。


世界の裏側には、目には見えない「理層ことわりのそう」と呼ばれる層があり、

そこには「世界をどう動かすか」の設計図のようなものが書き込まれています。


人々が暮らす村や町の外側には、

魔物や“濁り”が増えてくる「外縁がいえん」と呼ばれる帯があり、

そこが“安全圏のふち”=境界線になっています。


主人公のセイは、その理層に少しだけ触れることができる青年です。

本気を出せばかなりのことができますが、

目立ちすぎるとまずい立場にいるので、


・どれくらい危ないかを自分なりに確認して、

・「ここまでは守る」「ここから先は踏み込まない」と線引きをして、

・工夫と準備で、なるべく目立たない形で相手を倒していく


そんなやり方を選んでいます。


派手な英雄ではなく、

「実は強いのに、ひたむきにそれを隠しながら、

 村と仲間を守ろうとする裏方気味の主人公」の物語です。


世界の細かい仕組みや用語は、

本編やあとがきで少しずつ触れていきますので、

まずは肩の力を抜いて、物語そのものを楽しんでいただけたら嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。


 午後の日差しは、思ったよりも強かった。

 ギルドの裏庭で、俺は借り物の装備と格闘していた。

 昼前にガランさんから、《リュミエルの灯》の外縁見回りへの同行を言い渡された

 そのため今はミナが装備の装着を手伝ってくれている。

「……紐、多くない?」

「落としたら困るもの順に結んであるんだよ」

 膝に手をついて笑っているのはミナだ。

 彼女の手によって、俺の貧相な体は、簡素な革鎧と肩当て、膝当てで固められている。

 胸の前には、エルディアギルド印の小さな木札。

 そこから、細い光の線が一本、ギルドの建物に向かって伸びていた。

(これが、ギルド登録の線か)

『はい。身元情報と、最低限の保護祈念が紐づいていますね』

 リラが、いつもの落ち着いた声で説明してくれる。

「よし、こんなもんかな」

 ミナが最後に腰のベルトをきゅっと締める。

「セイさん、細いからサイズを合わせるの大変でしたよ。もうちょっと食べて大きくなりましょうね」

「努力はします」

 中身四十七歳としては複雑な気分だが、言い返せない。

 少し離れたところでは、アヤが剣の刃を確かめ、コルトが弓弦の張り具合を調整していた。そのどれもが、動きに無駄がない。

「準備はどう?」

 アヤが顔を上げる。

「うん。セイ君、軽く動いてみて。走ったり、しゃがんだり」

「分かりました」

 俺は裏庭の真ん中に立ち、まずその場で肩と首を回す。

 膝を曲げて伸ばし、足首を一つずつ回す。

 鎧がきしむ感覚はあるが、痛いところはない。

 庭をぐるりと一周してみる。

 小走りに進んで、急に止まる。

 前に一歩踏み込み、すぐに後ろへ一歩下がる。

 革鎧は思ったより軽い。

 走っても、視界を邪魔する部分はほとんどない。

(この世界の素材、案外優秀だな)

『軽量マナ繊維が部分的に織り込まれています。前の世界のスポーツ用素材に近いですね』

(それは頼もしい)

 しゃがんで地面に手をつき、すぐに立ち上がる。

 左右に一歩ずつ移動して、足場の感覚を確かめる。

「動きにくいところ、当たって痛いところは?」

「今のところは、特にないです」

 アヤが満足そうに頷いた。

「じゃあ、ほんの少しだけ、動きの癖も見せてもらおうかな。危険なことはしなくていいからね」

「了解です」

 俺はひとつ息を整える。

(派手なことは、控えめに、だな)

『はい。今日は“ちゃんと動ける見習い”くらいで十分です』

(了解)

 右足を半歩前に出し、腰を少し落とす。

 両手を軽く握り、胸の前に構える。

 空手の基本の形を、かなり薄めたものだ。

 前足で地面を押し出すように一歩。

 右の拳を、胸の高さまですっと突き出す。

 次の一歩で、左の拳。

 呼吸に合わせて、重心を前へ送っては戻す。

 腕を振り切らないように、わざと小さめの動きに抑える。

 ぱん、ぱん、と空気を叩くような音が、庭に小さく響いた。

「……へえ」

 ミナが目を丸くする。

「見た目は細いのに、ちゃんと芯がある動きだね」

「ちょっとだけ習ってただけです」

 型を一区切りさせてから、俺は軽く走り出す。

 庭の端まで走って、急に止まる。そこで向きを変え、横へ二、三歩。

 今度は斜め前に短くダッシュして、すぐに膝を曲げて減速する。

 跳んだり回ったりは、あえてしない。

 あくまで「駆け足」と「急停止」と「方向転換」だけだ。

 それでも、少年の体は驚くほど素直に反応してくれる。

 足の裏で地面をつかむ感覚が、前の世界よりもずっとクリアだ。

『身体能力、前世界より相当上ですね。バランスも優秀です』

(そこは声に出して言わないでいい)

「いいね」

 コルトが淡々と評した。

「その体格で、そこまで崩れないのは助かる。後ろに置いておいても、勝手に転がっていかない」

「失礼な言い方だけど、褒めてるからね?」

 ミナがくすくす笑う。

「了解しました。努力して“後ろで役に立つ”ことにします」

 そう返すと、リアンがほっとしたように頷いた。

「セイさん、無理はなさらないでくださいね。今日は、本当に“道と灯籠を見るだけ”ですから」

「はい。ガランさんにも、そう言われましたし」

 前に出たい衝動が、少しだけ落ち着く。

「じゃあ――改めて」

 アヤが剣を軽く担ぎ上げた。

「《リュミエルの灯》、出発。セイ君今日は“見習いの仮F”。前に出るのはまだまだ先。私たちの後ろで、道と灯籠の顔を覚える係ね」

「了解です」

 俺たちは、村の門へ向かって歩き出した。

 ◇

 村を抜けて北側へ向かうと、やがて畑が途切れ、草の背が高くなっていく。

 外縁へ続く道は、土が踏み固められた一本の筋だ。

 その両脇に、一定の間隔でマナ灯籠が立っている。

 昼間でも、灯籠の青白い光は消えない。

 そこから伸びる光の筋が、村の方へと戻っていくのが見えた。

(しかし……)

 歩きながら、俺はこっそりリラに問いかける。

(この辺の調査って、普段はどうやってるんだ?)

『基本は、「人が歩いて目と感覚で確認し、紙の地図に印をつける」です。灯籠の状態や“危険そうな場所”も、文字や記号で記録しているようですね』

(アナログだな……いや、この世界だとそれが普通か)

『ただ、セイの視界には、すでに“線情報”が乗っています』

 リラの声が、少しだけ誇らしげになる。

『ギルドのマナ水晶ネットから、この周辺の“荒い地図データ”を少しだけお借りできます。道と灯籠の位置、それから過去の報告で危険印が付いた場所の情報です。それを、セイの足元の線情報と重ねて、ミニマップとして整理しましょう』

(地図データを丸ごと抜くんじゃなくて、「今いるあたりの道と灯籠ライン」と「公開されてる危険地点」だけ、参考にする感じか)

『はい。外側にデータを漏らすことはありませんし、取得も必要最低限。あくまで、セイの頭の中のメモ用です』

(それなら、やってみよう。どうせ歩くなら、歩いた分だけ自分たちの地図が賢くなった方がいい)

『了解。ではミニマップと簡易マーカー機能を起動しますね』

 リラの声と同時に、視界の隅に小さな半透明の枠がふわりと浮かんだ。

 村から外縁へ伸びる道と灯籠の点だけが描かれた、ざっくりした線図だ。

 ところどころに、淡い黄色の丸印が見える。過去の報告で「注意」とされている地点らしい。

(おお……ゲームのミニマップだ)

『セイの歩幅と、線の感覚でだんだん精度が上がります。“危険寄り”と判断した場所には、赤い印も付けられますよ』

(了解。表向きはみんなの“目と足”。裏では、リラと一緒に“危険ログ”を集める感じだな)

『いい役割分担です』

 俺は前を歩くアヤたちの背中を見ながら、足元の感覚に意識を集中させた。

 ◇

「ここから先が、外縁だね」

 アヤが足を止める。

 見上げれば、森の影が道を覆い始めていた。

 枝葉の隙間から差し込む光はまだ明るいはずなのに、どこか色が濁って見える。

(……ノイズが多い)

『はい。マナのゆらぎが大きいです。灯籠の結界ラインと、外から来る濁りがぶつかっている状態ですね』

 俺の視界には、灯籠から伸びる光の線と、森から溢れる黒っぽいもやの線が、網目のようにぶつかり合っていた。

 ところどころ、光の線が細く削られている場所がある。

(あそこ、薄いな)

『座標マークしました』

 リラの返事と同時に、視界の片隅に小さな印が浮かぶ。

 ミニマップの上にも、赤い点がひとつ灯った。

(……本当に、歩くたびに“塗り絵”してるみたいだ)

『地図の完成度は、セイの歩幅しだいということです』

(上手いこと言ったつもり?)

『少しだけ』

 思わず、アヤに声をかける。

「あの、ちょっといいですか」

「ん?」

「灯籠の……結界みたいなものって、強いところと弱いところがありますよね?」

「まあ、多少はね。濁りの流れ方次第では、歪みも出るし」

「もし、その“歪み”の場所が、ある程度わかるとしたら……役に立ちます?」

 アヤが、目を丸くした。リアンも興味深そうにこちらを見る。

「セイさんには、見えるのですか? 結界の強さが」

「見える、というか……線の太さが違うように感じるので」

 俺は、道の脇の灯籠を指さした。

「例えば、今立ってるこの灯籠の先、五つほど向こう。

 あそこだけ、線が少し細いです」

 アヤたちは顔を見合わせた。

「コルト?」

「……確かに、あのあたりだけ濁りの気配が強い」

 コルトは目を細めて、森をじっと見た。

「ミナ、とりあえず瓶を一つだけ。遠投」

「了解、一本だけね」

 ミナが腰のポーチから小瓶を取り出し、慣れた動きで森の手前へ投げる。

 瓶が地面に当たって割れ、ぱっと光が広がった。

 爆音というほどではないが、空気が一瞬震える。

 光の中心で、黒いもやが、わずかに後ずさるように揺れた。

『……なるほど。爆裂瓶の中身、あとで分解してみたいですね』

(やめとこうな、ここで口に出すのは)

 俺は小声で咳払いをしてごまかす。

「今の一発で“はっきり減った”感じは、あんまりないね」

 ミナが肩をすくめた。

「うん。“少し薄くなったけど、押し返せてはいない”くらい」

「つまり、“普通より危険寄り”ってことだな」

 アヤが短くまとめる。

「この先、森の中まで突っ込めば、たぶん本番の範囲になる。

 でも今日は、そこまで行かない」

 アヤは、道の上に剣先で小さく印をつけた。

「ここを、今日の“危険ライン・基準点”にしよう。

 この先は、“危険寄り”って印をつけて戻る。

 それが今日の仕事」

「了解です」

(リラ、この地点を危険地点Aにしておいてくれ)

『承知しました。“危険ライン・危険地点A”として記録します』

 ミニマップの上で、さっきの赤い点の輪郭が、少し太くなる。

「ここより手前で、灯籠の線が細くなっている場所も、いくつか見つけたいね」

 アヤがみんなを見渡した。

「セイ君は、“線が細い灯籠”を見つけたら教えて。

 私たちはそれに合わせて、マナの流れと濁りの気配を確認する」

「はい」

 それからしばらく、俺たちはゆっくりと外縁沿いを歩き、道と灯籠を見て回った。

 俺は線が薄い場所をいくつか見つけては、アヤに小声で知らせる。

 アヤとコルトが目と感覚で確かめ、ミナが必要に応じてごく弱い瓶を投げ、リアンが祈りで灯籠を少しだけ補強する。

 そのたびに、俺の視界のミニマップには小さな印が増えていった。

 黄色い丸印。赤い点。

「ここは問題なし」「ここは要注意」「ここは危険寄り」。

(……こういう地道な仕事が、“帰るための線”を太くしてるんだよな)

『はい。セイの役割に、とても合っています』

 ◇

 日が傾きかけた頃、俺たちはさっきの危険ライン・危険地点Aまで戻ってきた。

 森の奥では、黒いもやが、さっきよりも少しだけ濃く見える。

 けれど、いまはまだ“線を削っているだけ”だ。こちらまで直接は伸びてこない。

「……今日は、ここまで」

 アヤが、はっきりと言った。

「この先は“危険寄り”って印をつけて、村へ戻る。

 ここで無理をしても、得るものより失う危険のほうが大きい」

「了解」

 ミナとコルトが同時に頷く。リアンも、杖を胸の前で握りしめた。

 俺は最後にもう一度だけ、黒いもやと灯籠の線を見比べる。

 ミニマップの上で、危険ライン・基準点Aがゆっくりと明滅していた。

(……次に来る時は、もっと動くことになるかもしれないな)

『その時も、“戻る線”を優先しましょう』

(もちろん)

 俺たちは、来た道を引き返し始めた。

 ◇

 夕暮れが近づくころ、村の灯籠にひとつ、またひとつ、光が灯り始めた。

 門をくぐると、石畳の上に柔らかな青い輪が重なっていくのが見える。

「今日は“散歩”ってことで、報酬はほとんど出ないけどさ」

 ギルドへ向かう途中、ミナが肩をすくめた。

「でも、こういう情報の積み重ねが、あとあと効いてくるんだよね」

「ですね。危険な地点が分かっているだけで、守れる命が増えます」

 リアンが静かにうなずく。

(……報酬、ほとんど出ないのか)

 ちょっとだけ胸が痛んだ。

 宿代、食費、武具代。この世界で生きるには、どうしてもお金がいる。

『今日は実質、“お試し参加”ですからね。本格的な依頼は、もう少しあとになるはずです』

(分かってるけど、居候させてもらってる身としては、早めに何か稼ぎたいんだよなあ)

 そんなことを考えているうちに、ギルドの扉の前に着いていた。

 ◇

 ギルドの中は、夕方の報告で少し賑やかだった。

 受付のカウンターの前には、何組かの冒険者が並んでいる。

「私たちは、奥の報告室を使います」

 アヤが受付に一声かけ、簡単に手続きを済ませる。

 俺たちは、そのまま小さな報告用の部屋に通された。

 長机を挟んで、アヤたちが簡潔に今日の内容を話していく。

「北側の外縁ライン、灯籠十本分くらいを確認。

 線が細くなっている灯籠が三本。

 そのうち一本の先に、“濁りの集まり”がありました」

 机の上には、ギルド側で用意した紙の地図が広げられている。

 アヤが灯籠の位置を指でなぞり、危険寄りの地点に印をつけていく。

「ここを、“危険ライン・危険地点A”とします。

 森の中までは入っていません。今日はここで引き返しました」

「分かった」

 ギルド側の担当者がうなずき、記録に書き込んでいく。

「追加調査は、ギルド側で日程を調整します。その際は、また《リュミエルの灯》に声をかけることになると思います」

「了解しました」

 報告は、拍子抜けするほどあっさりと終わった。

 俺はほとんどしゃべらず、横で聞いているだけだったが、それが今の立場にはちょうどいい。

 ◇

 ギルドを出る頃には、空はすっかり赤く染まっていた。

 灯籠の光が少しずつ強くなり、村全体に淡い輪を広げている。

「今日はここまでね。セイ君は、このあと教会?」

「はい。しばらくはお世話になる予定です」

「教会も忙しいところだから、遠慮しすぎて倒れない程度にね」

 アヤが冗談めかして笑う。

「明日からは、村の中の軽い依頼にちょこちょこ混ざってもらうつもり。外縁の追加調査は、ギルドから日程が降りてきてから、改めてね」

「分かりました」

 アヤたちと別れ、俺はリアンと一緒に教会へ向かった。

 ◇

 教会の簡素な部屋。

 硬いベッドと、小さな机と、窓から入る灯籠の光。

 ひとりになったところで、俺はベッドに腰を下ろし、大きく息を吐いた。

(……ふう。今日は、“ただ歩いただけ”って言えばそれまでだけど)

『いい“ただ歩いただけ”でしたよ。危険ラインの基準点も取れましたし、ミニマップの精度もかなり上がりました』

(そうだな)

 俺は靴を脱ぎ、床にそっと置く。

 革鎧を外しながら、ふと自分の服の汚れに目がいった。

 土埃(つちぼこり)と汗。

 この世界の洗濯事情を考えると、あまり頻繁に汚すのは申し訳ない気がする。

(リラ。……その、体と服をまとめてきれいにする、軽い理術って、いけそうか?)

『可能です。水と風のマナを薄くまとわせて、表面の汚れだけを剥がすイメージですね。ただし、強くやりすぎると“異常な清潔さ”になりますので、ほどほどに』

(それはそれで怖いな……いや、危険か)

 苦笑しながら、俺は立ち上がる。

「えーと……」

 手のひらを胸の前に出し、軽く息を整える。

 体の表面に、薄い水の膜を張るイメージ。

 その水が、埃や汗をからめ取って、ふわりと風で剥がれていくイメージ。

『強度、これくらいで調整しておきますね』

 リラがささやいた瞬間、肌にひやりとした感覚が走った。

 頭からつま先まで、ほんの一瞬、細かい霧に包まれたような感覚。

 次の瞬間には、それも消えていた。

(……おお)

 袖口や襟元をつまんでみる。

 泥汚れのざらつきがすっと減って、汗のにおいもかなり薄くなっていた。

(完全に新品、ってほどじゃないけど、“人前に出て気にならない”くらいにはなってるな)

『それくらいが自然です。教会や村の人に、「この子だけいつもピカピカだ」と思われたくはありませんから』

(確かに)

 ベッドに寝転がり、天井を見上げる。

(なあ、リラ)

『はい』

(このまま教会に泊まり続けて、大丈夫かな。俺、今のところ“仮Fの見習い”で、ろくに稼いでもいないし)

『リアンさんも教会も、「しばらくは大丈夫」と判断しているからこその受け入れです。ただ、セイが“できる範囲で自立したい”と思うのは、とても大事な感覚です』

(宿屋に移るにしても、宿代がいるし。武具だって、そのうち自前のものが必要になる。今日みたいな“散歩”だと、報酬はほぼ出ないしな)

『明日からの村内依頼で、少しずつ実績と収入を積みましょう。それと……』

(それと?)

『今夜、さっそく“今日の反省会”をしましょう。ミニマップのログと、危険ライン・基準点A周辺の線の流れ。あとは、ミナさんの爆裂瓶の挙動。セイの視界に残っている情報だけでも、かなり解析できます』

(……働き者だな、お前は)

『セイと一緒に、生き延びたいだけですよ』

 視界の隅に、昼間歩いた道が半透明で浮かび上がる。

 村から外縁へ伸びる一本の筋。

 その先に、小さく赤い輪で囲まれた危険ライン・危険地点A。

 その向こうの森の奥には、まだ「見えていないもの」がたくさんある。

 濁りの塊。崩れかけの地面。この世界の理の歪み。

(……まずは、“帰る線”を太くするところからだな)

『はい。今日の分だけでも、確かに太くなりましたよ』

 リラの声を聞きながら、俺はゆっくりと目を閉じた。

 灯籠の光から伸びる細い線が、村全体をゆっくりと包んでいくのを感じながら。

 こうして俺の、“外縁への最初の散歩”は終わった。

 この日見つけた赤い印が、後の大きな戦いの入口になることを、このときの俺はまだ知らない。


読んでくださってありがとうございます。

本編でちょくちょく出てきた 難しめの単語たち を、ここでざっくりまとめておきます。

ふんわり覚えておくくらいで大丈夫です。


ことわり


この世界を動かしている「ルール」「決まりごと」です。

「火は熱い」「物は落ちる」

「こういう条件なら、こういう現象が起きる」

みたいな 世界の仕様書 のことを、まとめて「理」と呼んでいます。


理層ことわりのそう


その「理(世界のルール)」が書き込まれている、見えない層です。

目に見える世界:人・森・川・建物

その裏を流れる力:マナ

さらに奥にある設計図の層:理層

という感じの三層構造になっていて、

セイとリラだけが、この「理層」にちょっとだけ触ることができます。


■ マナ


この世界を流れている「エネルギー兼、情報」です。

電気

ガソリン

Wi-Fiの電波

を全部混ぜて、

「目には見えないけれど、あちこちで使われている力」 にしたもの、くらいのイメージです。

祈りや魔法は、このマナを燃料にして動いています。


外縁がいえん


人が暮らす「わりと安全な場所」と、

濁りや危険な魔物が増えてくる「危ない場所」の 境目の帯 です。

村の外側に引かれた、

「ここから先は、見張りなしだとキツいよ」ライン


くらいのものだと思っていただければOKです。

セイたちは、この“ふち”を少しずつ外側に押し広げようとしています。


■ 線引き


セイがよくやっている、

「ここから先には踏み込まない」

「ここまでは守る」

「ここまでは自分、それ以降は他の人の仕事」


といった 境界を決める行為そのもの のことです。


仕事で言う「ここまでは自分でやるけど、この先は専門家に回す」の、

命がかかった世界版だと思ってください。


■ 線


上の「線引き」で決めた 結果としての“線そのもの” です。

作中ではいろんな種類の線が出てきます。

村の防衛ラインとしての線

祈りが届く範囲としての線

「ここまで来たら撤退する」撤退ライン

セイ自身の「ここから先は抱え込みすぎ」の心の線


セイは、

これらの線を「怖さ点数」と一緒に何本も引き直しながら、

どこまで進んで、どこで止まるか を必死で考えている、という立ち位置です。


細かいところは、本編の中でも少しずつ触れていきますので、

「なんかそんな単語あったな〜」くらいで頭の片すみに置いておいてもらえたら十分です。


ここまでお付き合いくださって、ありがとうございました。

いい加減工房でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ