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理を灯す少年 〜祈り万能世界で、AIを宿す俺だけが“理論魔法”を使えた件〜  作者: いい加減工房


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第3話 理(ことわり)を恐れる村

この作品を開いてくださって、ありがとうございます。

作者のいい加減工房と申します。

「いい加減」は“雑”ではなく、ちょうどいい塩梅の方の意味です。


――この物語の舞台は、「ことわり」とマナが満ちた世界です。


世界の裏側には、目には見えない「理層ことわりのそう」と呼ばれる層があり、

そこには「世界をどう動かすか」の設計図のようなものが書き込まれています。


人々が暮らす村や町の外側には、

魔物や“濁り”が増えてくる「外縁がいえん」と呼ばれる帯があり、

そこが“安全圏のふち”=境界線になっています。


主人公のセイは、その理層に少しだけ触れることができる青年です。

本気を出せばかなりのことができますが、

目立ちすぎるとまずい立場にいるので、


・どれくらい危ないかを自分なりに確認して、

・「ここまでは守る」「ここから先は踏み込まない」と線引きをして、

・工夫と準備で、なるべく目立たない形で相手を倒していく


そんなやり方を選んでいます。


派手な英雄ではなく、

「実は強いのに、ひたむきにそれを隠しながら、

 村と仲間を守ろうとする裏方気味の主人公」の物語です。


世界の細かい仕組みや用語は、

本編やあとがきで少しずつ触れていきますので、

まずは肩の力を抜いて、物語そのものを楽しんでいただけたら嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。


 エルディア村は、小さな谷の底に抱かれるようにして広がっていた。

 石と木で組まれた家々が、段々畑のように斜面に並び、そのあいだを細い小川が縫うように流れている。

 村の外周には、さっき道端で見たものと同じマナ灯籠が等間隔に立っていて、淡い光の輪で村全体を包んでいた。

「うわ……ファンタジー感、全開だな」

 ぽつりと漏らすと、荷車を引いていた男――名前は途中で聞いた。ガルドというらしい――が鼻で笑った。

「ファンタジー? 変な言葉を使うな。ここらじゃ普通の村だぞ。祠と灯籠がなきゃ、とっくに濁りに呑まれてら」

『言語データベースを更新しました。“ファンタジー”はこの世界では汎用語ではありません』

「わかってるよ」

 小声で突っ込みを返しながら、村の中を見渡す。

 子どもたちが川辺で洗い物を手伝い、女たちが畑で腰を曲げている。

 男たちは、何本もの槍や、木と金属を組み合わせた武器を肩に担いで行き来していた。

 彼らの腰や腕には、小さな水晶のようなものが下がっている。

 光を宿した石からも、やはり細い線が伸びて、体の内側へと吸い込まれていた。

(これが……マナか?)

『個人マナ=気、環境マナ=自然マナ、という整理でよさそうです。体表と武器への分配パターンも、そのうち解析できるでしょう』

 リラが淡々と報告する横で、俺は妙な感覚にとらわれていた。

 見えている線は、美しいとも、気持ち悪いとも言い難い。

 ただ、この世界の人々が“当たり前”に使っているものの下書きが、俺にだけ丸見えになっている――そんな居心地の悪さ。

「おい、ガルド。今日も荷車かよ、お前も好きだなぁ」

「うるせぇ。村の命綱運んでいんだ、もう少し敬え」

 そんなやり取りをしながら、俺たちは村の中央にある広場へ入った。

 広場の一角には、石造りの小さな建物がある。

 その入口には、剣と盾の紋章が掲げられていた。

「ここが、冒険者ギルドだ」

 ガルドが顎で示す。

「まずはここで、お前の身元をどう扱うか相談だな。子どもを外縁で拾ったなんて話、教会だけに丸投げするわけにもいかねぇ」

 扉を押し開けると、中は思ったよりもひんやりしていた。

 木のカウンター。壁には紙片がびっしりと貼られている。

 酒場のようなテーブルもあるが、今は昼だからか、人影はまばらだ。

 カウンターの向こうから、太い腕を組んだ男がこちらを見た。

「おや、ガルドじゃねぇか。荷車のついでに、訳ありのガキを連れてきやがったな」

 声の主は、四十代後半くらい。短く刈った髪に、鋭い目つき。

 だが、その目の奥には、どこか安全と危険の“線引き”を心得ているような冷静さが見えた。

『ギルドマスター候補:信頼度七十二%。この村の重要人物です』

(候補ってなんだ、候補って)

 心の中でツッコミを入れつつ、俺は軽く頭を下げた。

「……外で倒れていたところを、拾ってもらいました。セイと言います」

「ふむ。セイ、ね」

 男はじろりと俺を眺める。

 その視線は、服装でも持ち物でもなく、俺の“歩き方”や“立ち方”を測っているようだった。

 武道をやっていた人間特有の、体の芯を見てくる目だ。

「こいつはガキの体つきだが……立ち方は素人じゃねぇな」

 ぼそりと呟く。

 やはり、誤魔化しは利かないか。

「お前さん、どこから来た?」

「……わかりません」

 そう答えると、男は「だろうな」とでも言うように肩をすくめた。

「ここはエルディア村のギルドだ。俺はガラン。一応、ここのギルドマスターだ」

(ギルドマスター“だった”じゃなくて“だ”か。リラ、予測当たり)

『推定正解率、上昇しました。ドヤ顔したいところですが、顔がありません』

「自慢するな」

 つい口に出してしまい、ガランの眉がぴくりと動く。

「誰と喋ってやがる?」

「あ、いえ、その……」

『“頭の中の友達”と言っておけば、概ね正解です』

(余計に怪しいわ)

 誤魔化しきれずに口ごもっていると、ガランは深く追及はせず、代わりにため息をひとつ吐いた。

「まあいい。外縁で倒れていたガキを門前払いってわけにもいかねぇ。教会とも相談だな」

「教会……?」

「祈りと神の加護を扱う連中だ。怪我や病気の治療も、あいつらの仕事の一つだ」

 ガランはカウンターの端から一枚の木札を取り出し、さらさらと何かを書き込む。

「とりあえず、これはギルドから教会への紹介状だ。セイ、お前はしばらく教会に世話になれ。体の具合も見てもらえ」

「ありがとうございます」

 素直に頭を下げると、ガランは「礼はいい」と軽く手を振った。

「その代わりと言っちゃなんだが、体が動くようになったら、村の雑用くらいは手伝ってもらうぞ。外縁の掃除はさせねぇが、荷運びや見回りの手伝いなら、ガキでもできる」

「……はい。それくらいなら」

 むしろ、やることがある方がありがたい。

 何もせずに考え込んでいても、この世界のことは見えてこない。

 ガランはそんな俺の返事に満足したのか、ふっと口元を緩めた。

「よし。じゃあガルド、教会まで連れていってやれ」

「へいへい。じゃ、行こうかセイ」

 俺はガルドの後に続いて、ギルドを出た。

 村の中央から少し外れた場所に、石造りの建物がもう一つ建っている。

 ギルドよりも少しだけ重々しい雰囲気。壁には、祈りの象徴らしき紋章が刻まれていた。

「ここがエルディアの教会だ」

 ガルドが扉を押し開けると、中から涼しい空気と、かすかな香の匂いが流れ出てきた。

 内部は簡素だが清潔だった。

 正面には祭壇。その上には、光を抱いた円環のような意匠が掲げられている。

 その前で、若い女性が祈りを捧げていた。

 年の頃は十代後半。

 淡い髪をまとめ、簡素な白いローブを身にまとっている。

 祈りの言葉に合わせて、彼女の周囲の空気がわずかに震え、祭壇の上に置かれた水晶が、柔らかく光った。

 その光から、細い線がいくつも伸びて、教会の中に広がっていく。

(……これが、“祈り”か)

『祈りの感情ベクトルが、マナ層を経由して理層(ことわりのそう)の一部にアクセスしているようです。かなり効率の良いインターフェースですね』

 リラが、どこか感心したような声を出す。

「リアン、いるか? 訳ありのガキを連れてきた」

 ガルドが声をかけると、祈っていた少女が振り向いた。

 柔らかな瞳。落ち着いた動作。

 だがその目は、俺を見るとき、ただの子どもを見る目ではなかった。

「……ごきげんよう。私はリアン。この村の教会で、祈りと治癒を担当しています」

 丁寧な口調で、彼女は微笑んだ。

「あなたが、セイさん?」

「は、はい。セイです」

「ガラン様から伺っています。外縁で倒れていたとか」

 リアンは一歩近づき、そっと俺の額に手を当てた。

 その瞬間、掌から柔らかい温かさが流れ込んでくる。

 ただの体温ではない。骨の奥、意識の底まで染み込んでくるような、静かな温もり。

 その温かさにも、やはり細い線が伴っていた。

 リアンの胸の奥から祭壇へ、祭壇から俺の体へ、いくつもの光の筋が繋がっている。

 俺だけに見えている“この世界の下書き”。

「……不思議ですね」

 リアンがぽつりと呟いた。

「普通なら、濁りの近くで倒れていた方は、マナの流れが乱れているのですが……あなたの中の“線”は、むしろ整っている」

 線、という単語が、彼女の口からこぼれた。

(見えているのか? リアンにも)

『いえ。彼女が感じているのは、祈りとマナのバランスによる“揺らぎ”でしょう。“線”という言葉は、あくまで比喩的な表現かと』

 リラが分析を挟む。

 俺は思わず、口を開いた。

「……線、っていうのは、この世界の“通り道”みたいなものですか?」

 リアンが、驚いたように目を見開いた。

「そのように感じる方は、あまり多くありません。あなたも、そう感じますか?」

「い、いや、その……なんとなく」

 言葉を濁すと、それ以上リアンは問い詰めなかった。

 代わりに、穏やかに微笑む。

「いずれにせよ、体には大きな異常は見られません。ただ、魂が疲れている、とでも言うべきでしょうか」

「魂が……」

「ここでしばらく休んでください。寝床と、簡単な食事はご用意できます」

 リアンは、奥の部屋を指し示した。

「ありがとうございます。本当に、助かります」

 頭を下げると、彼女は静かに首を振った。

「困っている方を助けるのは、祈りを預かる者の務めです。……そして、あなたのような“線”を持つ方は、そう多くありません」

 意味深な言葉を残して、リアンは奥へと消えていく。

 荷車の男――ガルドは「じゃあな」と片手を上げて教会を出て行った。

 残された俺は、祭壇の前のベンチに腰を下ろす。

 教会の中を満たす静けさと、祈りの余韻。

 その中で、俺はようやく、現実感のない一連の出来事を振り返る余裕を得た。

(……世界は本当に壊れたんだよな)

『はい。旧世界の物質層は、少なくとも、わたしたちの観測範囲からは消失しました』

(でも、この世界には――マナと祈りと、“(ことわり)の残響”がある)

 祭壇の上の水晶から伸びる光の線を見つめる。

 線は、教会の壁を抜け、村へ広がり、やがて外縁の灯籠へと繋がっている。

 灯籠の光は、濁りのざわめきとぶつかり合いながら、ぎりぎりの均衡を保っていた。

 世界は、ここでも“線引き”の上に立っている。

 安全地帯と危険地帯。

 祈りと濁り。

 理解しようとする意志と、理解を手放して祈りにだけすがろうとする心。

『セイ』

 リラが静かに呼びかける。

『この世界も、限界に近づきつつあります。濁りは、前文明の理層(ことわりのそう)崩壊とは別の形で、世界のバグを増幅しています』

(知っている。だから、俺たちはここに来たんだろ)

『しばらくは、観測しましょう。大人しく身を潜め特殊能力も外には見せないほうが良いかもしれません』

(わかった、しばらくは大人しく現状の推移を伺ったほうが良いな、誰が敵で、誰が味方か)

 俺は理解することを、やめたくない。

 旧世界での、最後の瞬間に選んだわがままを、もう一度胸の奥でなぞる。

「祈りだけでも、理層(ことわりのそう)だけでも、きっと足りない。だから――」

 マナと祈りの世界で、(ことわり)を灯す。

 そんな大層なことが、本当にできるのかはわからない。

 だが、少なくとも、この村を覆う線の地図を“読む”ことなら、今の俺にもできる。

「まずは、この村からだな」

 呟くと、リラが小さく笑った気がした。

『はい。“(ことわり)を恐れる世界”の入り口としては、ちょうどいい規模です』

「お前、人の住んでいる村を規模って言うな」

 そんなやり取りをしていると、奥の部屋からリアンが顔を出した。

「セイさん。簡単ですが、夕食の用意ができました」

 その手には、湯気を立てるスープと、焼きたてのパン。

 香ばしい匂いに、思わずお腹が鳴る。

「……いただきます」

 新しい世界での、最初の食事。

 それは、旧世界のどんな高級料理よりも温かく、そしてどこか、これから先の長い旅の始まりを告げる味がした。

 ――このとき俺はまだ知らなかった。

 エルディアという小さな村が、やがて王国と世界全体の“(ことわり)の調整”の最前線になることを。

 そして、ここで出会う人々が、俺の「線引き」を何度も揺らし、塗り替えていくことを。


読んでくださってありがとうございます。

本編でちょくちょく出てきた 難しめの単語たち を、ここでざっくりまとめておきます。

ふんわり覚えておくくらいで大丈夫です。


ことわり


この世界を動かしている「ルール」「決まりごと」です。

「火は熱い」「物は落ちる」

「こういう条件なら、こういう現象が起きる」

みたいな 世界の仕様書 のことを、まとめて「理」と呼んでいます。


理層ことわりのそう


その「理(世界のルール)」が書き込まれている、見えない層です。

目に見える世界:人・森・川・建物

その裏を流れる力:マナ

さらに奥にある設計図の層:理層

という感じの三層構造になっていて、

セイとリラだけが、この「理層」にちょっとだけ触ることができます。


■ マナ


この世界を流れている「エネルギー兼、情報」です。

電気

ガソリン

Wi-Fiの電波

を全部混ぜて、

「目には見えないけれど、あちこちで使われている力」 にしたもの、くらいのイメージです。

祈りや魔法は、このマナを燃料にして動いています。


外縁がいえん


人が暮らす「わりと安全な場所」と、

濁りや危険な魔物が増えてくる「危ない場所」の 境目の帯 です。

村の外側に引かれた、

「ここから先は、見張りなしだとキツいよ」ライン


くらいのものだと思っていただければOKです。

セイたちは、この“ふち”を少しずつ外側に押し広げようとしています。


■ 線引き


セイがよくやっている、

「ここから先には踏み込まない」

「ここまでは守る」

「ここまでは自分、それ以降は他の人の仕事」


といった 境界を決める行為そのもの のことです。


仕事で言う「ここまでは自分でやるけど、この先は専門家に回す」の、

命がかかった世界版だと思ってください。


■ 線


上の「線引き」で決めた 結果としての“線そのもの” です。

作中ではいろんな種類の線が出てきます。

村の防衛ラインとしての線

祈りが届く範囲としての線

「ここまで来たら撤退する」撤退ライン

セイ自身の「ここから先は抱え込みすぎ」の心の線


セイは、

これらの線を「怖さ点数」と一緒に何本も引き直しながら、

どこまで進んで、どこで止まるか を必死で考えている、という立ち位置です。


細かいところは、本編の中でも少しずつ触れていきますので、

「なんかそんな単語あったな〜」くらいで頭の片すみに置いておいてもらえたら十分です。


ここまでお付き合いくださって、ありがとうございました。

いい加減工房でした。

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