9.
「名瀬くんって男の子?」
ハンバーガーショップを目指し、会話もないまま駅前を歩いていると、天海が不意に口を開いた。
「お前は俺のことが女に見えるの? 眼科行けよ、ブス」
「男の子は私のこと、絶対可愛いって褒めてくれるよ。女の子は私のこと、嫉妬でブスって貶すんだよね」
天海は誇らしげに、そして意地悪くニタニタと笑っていた。やはりこいつは相当いい性格をしているようだ。
「ああ、そーだな。お前は可愛い、歴史上で類を見ないほど可愛いよ」
「うーん、何か心こもってないよ。まだ私に夢中じゃないの?」
「頭、おかしいだろ。お前」
会話を重ねるほど、天海のことが理解できなくなる。ここまで変わった女だとは思わなかった。普段はクラスメイトの男子に囲まれて嬉しそうにはしゃいでいる。容姿端麗な女子にありがちな、協調性があって調和を重んじる、外見同様に外面も良いタイプだとばかり思っていた。
俺もクラスの女子は大嫌いだが、この調子では天海が連中から煙たがられるのも、ほんの少しだけ理解できる。
「まっ、キミはクラスのブス共と違って嫉妬で私のことを貶してるわけじゃないか。男子が私に夢中だから良い気しないんだろうね。素直に男が欲しいって言えばいいのに、あのアバズレ共。気持ち悪い」
俺は絶句した。ファッション雑誌の表紙を飾っていそうなキラキラした笑顔を俺に向けながら、クラスの女子が耳にしたらとんでもないことになる発言を、息継ぎもせず淡々と、可愛らしい声で述べた。
「ん~? な~に? どうしたの、名瀬くん」
天海は俺の顔を覗き込む。その表情は変わらず、ご機嫌な笑顔だった。
「あ~! クラスのブス共をストレートにブスって形容したから驚いちゃった感じだね。だってブスじゃん、あいつら。顔だけブスなら、まだ救いようもあるけど心もブスだよね。あはは! 表の顔も裏の顔もブス、ひっくり返してもブス、まさにリバーシブス! ってね」
「……ふっ。上手いこと言うんじゃねえよ。ちょっとだけ面白いな、お前」
目の前で機関銃のように次々と毒を吐き続ける天海があまりに酷くて、俺は思わず笑ってしまった。可愛い顔と声からは想像もできない悪態の数々。学校で見かける天海のイメージとはまるで別人だ。
「でしょでしょ~? 私は面白いし可愛いんだよ」
「そんなくだらないことはいいから。着いたぞ、天海。食ってさっさと帰ろう」
「わーいっ」
天海は小走りで手を上げながら、ハンバーガーショップの自動ドアを俺より先にくぐった。同行する俺は、そのガキみたいな仕草に恥ずかしくなる。お前はただでさえ目立つ身なりをしているんだ。本当に勘弁してほしい。
「おい、天海」
「なに、名瀬くん」
「お前、何が食いたいんだ。買ってくるから座ってろ」
「え」
天海はぽかんと口を開けて、驚いた表情を見せた。先ほどまで、ずっと不敵な笑みを浮かべていたのに、今度は埴輪のように目と口を丸くしている。
「何なんだよ、お前は……」
「いや、怒られるかと思ったの」
「はあ?」
「んーとね、テリヤキバーガー、チョコレートシェイク、ポテト」
「……お前、ストロベリーって言ってなかったか」
「あっ、覚えてた。さすがは名瀬くん。でもね、あそこの女の子が飲んでるチョコレートシェイクが美味しそうだったから。ほら、見てみて。美味しそうに飲んでるー」
天海は肩を揺らしながら嬉しそうに、奥のテーブルで母親と座る小学生ぐらいの女の子を指差そうとする。俺はそれを急いで制止した。
「バカ、人を指差すな。それに女の子がビックリするかもしれねえだろ」
「えへへ、ごめんね」
俺の方をじっと見て、天海はわざとらしく舌を出しウィンクを向けた。
「うぜえよ。早くテーブル確保しろ、ブス」
「ブスじゃないもん」
「……わかったって。さっさと行けよ」
「イエーイ。最高の席、確保しとくねー」
天海は入店時と同じように両手を上げて小走りで動き出し、よりにもよって一番外から目立つ窓際の席に座った。
「マジで勘弁してくれよ……」
俺は思わず、盛大にため息をついた。




