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7.


 俺が約束の場所で柳たちを待っていると、伊藤から連絡があった。柳を予定通りに呼び出せなかったという。だが、別日にするわけではない。別の場所になら連れ出せるという話だ。ならばそこに連れ出せと、俺は指示した。伊藤のニヤケ面が思い浮かぶ。


 俺は寂れた公園を歩き、その裏手にある竹藪を目指している。この公園は、俺がガキだった頃こんなに寂れていなかった。中央に真っ赤なタコの形をした滑り台があり、タコ公園と呼ばれていた。今はその滑り台も撤去されている。市の命令で、どこの公園でも遊具は危険だと消えていく。タコを失ったタコ公園には、誰も近づかなくなった。ブタクサが乱雑に生い茂る手入れの行き届いていないグラウンド、隅っこに公衆トイレがぽつりとあるだけ――ここまで寂れたら公園じゃない、ただの空き地だ。


 右手に持つ金属バットが地面に擦れ、カラカラと音を立てる。それを引きずりながら、俺はただまっすぐ歩く。公園を過ぎ、竹藪へ続く細道に足を踏み入れた。竹に囲まれた道を進む。苔むした百葉箱が見え、そのすぐ近くには制服を着た三人の男がいる。今日の目標だ。


 伊藤、原田、そして柳、三人が俺に気づく。真ん中に柳が立ち、左手に原田、右手に伊藤。俺を待ち構えているようだ。俺は歩みを進める。心拍数は上がっていない。昨日屋上で寝ていた時と同じような気分だ。近づくにつれ青臭い竹の匂いが濃くなる。それと同時に、三人が等しく額に汗を浮かべているのに気づいた。ああ、やっぱり。


「よう、名瀬。先輩を呼び出すなんて――」


 三人が俺に気づいた瞬間、柳が懐に触れて何か確認していたのを俺は見逃していない。言葉を言い切る前に、俺は柳の頭頂部目掛けて全力で金属バットを振り下ろした。


 肉が潰れる鈍い打撃音。反動で俺の両手にじんわりとした痺れが伝わる。ワンテンポ遅れて、柳の右手から、きらりと光る何かが地面へと落下した。それはバタフライナイフ。柳は頭部を抱えながら、ふらふらと後ずさりをして、百葉箱に背中が衝突した。


 伊藤と原田は、呆然と立ちすくむ。それもそのはずだ。本来なら、いきなり殴りかかる予定ではなかった。脅して、それでも金を出さないようであれば暴力を行使する――いつもの流れ。だが俺は、言葉を交わす前に柳を殴ると最初から決めていた。昨日の屋上で伊藤から話を持ち掛けられた時点で気づいていた。こいつら三人はグルだ。


 柳が頭部を両手で抑えている。指の間から血が(したた)っていた。次に俺はバットを水平に振るう。柳の頬に命中した。百葉箱に寄りかかって何とか立っていた柳は、真横へ吹っ飛ぶように倒れる。今度は乾いた打撃音だった。


 顔を両手で覆い、身を丸め倒れている柳に近づく。両手の中心部、手の隙間を狙い、思いっきり右足で蹴り抜いた。今度は(ぬめ)りけのある音。柳の頭が一瞬宙に浮き、俺の足が地面に付くのと同時に落ちる。手の隙間から血が噴き出す。俺の蹴りの衝撃で、おびただしい量の鼻血が出ているようだ。


 凶器くらい用意しているだろうと思っていた。だから抵抗される前に戦意を喪失させようと考えた。柳は倒れたまま立ち上がろうとしない。震えている。次に自分を襲う暴力に恐怖しているのだ。馬鹿だと思った。口元が緩み、俺は笑みを抑えられなかった。


「伊藤、原田」


 俺が声をかけると、二人の肩がびくりと跳ね上がった。どうしてバレたのかという困惑と、次の暴力の対象は自分たちかもしれないという恐怖――その二つの感情に支配されている様子だ。別に俺は怒っていないのに。柳に金でも渡されて、二人は俺を売ったんだろう。


 後ろ暗い行いを続けている連中は、自分から警察署には駆け込めない。そういうヤツを狙って、俺は暴力で憂さを晴らしている。最近のターゲットは特殊詐欺に加担している連中だ。馬鹿な柳は、二人を使って俺に制裁を与えようとしたのだ。ご覧の有様で失敗に終わったが。


「二人で柳の服を漁って財布取り出せ」

「え――」

「いいから早くしろ、殺すぞ」

 怯える二人は顔を見合わせ、しゃがみ込むと恐る恐る柳の身体に手を伸ばす。柳は震え続けている。抵抗する様子はない。


「あ、あの……財布見つけました」

「中身はいくら入ってる?」

「えっと……十万円くらいです」

 まるで借りてきた猫のように、伊藤も原田も俺と目を合わせようとせず、視線を逸らしながら話す。四の五の言わず、最初から柳を加えた三人で袋叩きにすればよかったものを――本当にこいつらは馬鹿だ。暴力に準備が必要なヤツは弱い。心の中で暴力を恐れ、少しでも躊躇うから、こうなる。俺の暴力に準備は要らない。


「よし、じゃあ――それ今日中に全部使いきれよ。伊藤、原田」

 馬鹿二人の顔は汗まみれだった。何を動揺しているのか。柳の財布から臨時収入が手に入ったのだから、喜ぶべきだろう。その二人の反応を見て、俺の口元がさらに大きく緩む。


「いや、でも、そ……その、このお金……」

「じ、自分らはこの前の金が残ってるんで! 名瀬くんが――」

 俺は大きく舌打ちし、横たわる柳の腹部を蹴り上げた。衝撃で柳の鼻と口から鮮血が溢れ出す。柳は涙を流しながら痛みに耐えているが、(うめ)き声を抑えられていない。顔面は新鮮なザクロのように腫れ上がっていた。


「あー、腹減ったなあ。ハンバーガーでも食いに行くかあ」

 伊藤と原田を交互に睨み、足元で倒れている柳の顔面を踏みにじる。ゴムのような弾力がありながらも、血で滑る靴底。その新しい感触が面白かった。柳の涙と呻き声は止まらない。


「――じゃあな、馬鹿共。そのバットはやるよ」


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