5.
今日も俺のクラスでは、糞に群がるハエのように男子生徒が転校生を囲んでいた。我先にと転校生に話しかけ、自分が男として優れていることを必死にアピールしている。喧しいこと、この上ない。まだボケた老婆の叫び声を聞いている方が、よほど耳心地が良かった。
「調子乗ってるよねぇ、あのブス。男子に少しチヤホヤされてるぐらいでさぁ」
ボーっと次の授業で使う教科書を眺めていると、女子生徒が声を掛けてきた。顔を上げると、甘々しい粗末なオーデコロンの臭いが鼻にまとわりつく。派手に脱色された金髪ツインテールの女は、俺が眺めていた教科書をどけて、馴れ馴れしく俺の机に腰掛ける。
「ああ? いきなり話しかけんな、白石」
「転校生のことっ!」
唇を尖らせ、眉をひそめて、自分は現在最大限に機嫌が悪いですと言わんばかりの表情で白石は言った。
「知らねえ、どうでもいい。汚物がチラチラ見えてるから、俺の机に座んな」
机に浅く腰掛けた白石が身体を揺らすたびに、ミニスカートも一緒に揺れ、サテン生地の毒々しい紫色の下着が目に入る。俺の言葉を聞いた白石は、恥ずかしがるどころか尖らせていた唇を緩め、口角を上げ、ニタニタと笑った。
「ねぇ、今日さぁ、伊藤や原田たちと遊びに行こうよぉ。なんか臨時収入あったんだって?」
「知るか。勝手に行け。俺に構うな」
白石が俺の髪を撫でようと手を伸ばしてくる。魔女を彷彿とさせる鋭く黒に染まった爪を払いのけ、俺は思いっきり舌打ちをした。白石は目を細め、あからさまに悲しそうな表情を浮かべる。内心ではそんなこと微塵も思っていないくせに。気色悪い女だ。
「もぉ、ネイルしたばかりだから乱暴しないで。ねぇねぇ、今度誰かを詰めに行くとき私も連れてってよぉ」
「うぜえ。死ねよ、ブス」
「なに、その態度。放課後にケンカばっかりしてること、先生に言いつけるよ」
「ご自由に」
この女との会話は、もううんざりだ。馴れ馴れしく擦り寄る甘ったるい声でニヤけていたのに、思い通りにならないと見るや、不機嫌そうに吐き捨てる低い声へ豹変する。心底面倒くさい。俺は教科書を乱雑に机へ放り込み、席を立った。
「えっ、ちょっと! 授業、もうすぐ始まるけど」
「ああ、そう」
白石の言葉を無視し、俺は教室を後にする。だが、タイミングが悪かった。教室を出た瞬間、入ってこようとする男教師と廊下で鉢合わせした。
「あれっ、名瀬くんか。どうしたのかな、授業――」
俺と顔を合わせ、おどおどと目を泳がせる去年就任したばかりの新人教師。教師なら教師らしく堂々とすればいいのに。こいつを見ていると無性に腹が立つ。
「あー、山本先生。ウンコが漏れそうで授業どころじゃないんすよ」
わざとらしく、俺は自分の腹部を右手で擦る。
「うん、そうだね……じゃあトイレが済んだら戻ってくるように」
山本は苦笑いを浮かべながら言った。余裕を見せるかの如く、俺の肩を軽くポンと叩いた。だが、山本の額には小粒の汗が滲む。内心では、俺の噂を耳にしてビビっているのだろう。
「はーい。じゃあ三時間ぐらいかけて、巨大なクソをひり出してくるわ。ありがとね、山本先生」
そして俺は満面の笑みを山本へ向ける。山本の頬と口角がピクピクと引き攣った。山本は何も答えず、俺から逃げるように教室へと足を動かす。
「生徒にも注意できない先生って、情けないよなあ!」
教室へ入っていく山本の背中に向かって、その言葉を大声で吐き捨てた。




