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不安

作者: 雉白書屋

「また押し込み強盗か……ううう……」


 薄暗いリビング。ソファに座り、ニュース番組を見ていた男は苦々しい声を漏らした。リモコンをぎゅっと握り、テレビを消す。

 近頃、強盗事件が相次いでいた。複数人で住宅に押し入り、家主を縛り上げ、部屋中を物色。金品の場所がわからなければ、容赦なく暴行を加えて吐かせるという、あまりに凶暴で残忍な手口だった。

 男はそんな物騒な世の中にすっかり怯えきっていた。毎晩必ず鍵を確認するも、寝つくまでに何度も布団から出て、つい様子を見に行ってしまう。

 もっとも、防犯対策に余念がなかった。もともと筋金入りの心配性の彼は、ありとあらゆる対策を講じていた。警備会社との契約はもちろんのこと、防犯カメラや各窓にセンサーを設置。さらにスタンガンと催涙スプレーを家のあちこちに配置し、自作の槍まで枕元に備えていた。

 しかし、最近の強盗は防犯カメラやセンサーを意に介さず、堂々と窓ガラスを破って侵入してくるという。

 警備会社が駆けつけたところで、すでに殺されたあとでは意味がない。こちらは怪我一つすら負いたくないのだ。

 男は何か決定的な対策はないものかと日々悩み続けていた。完璧な防御を、と――。


 そんなある日、男は一つのニュースに目を留めた。それは、最新鋭のセキュリティシステムを開発したという企業の特集だった。見終えるや否や、男は即座に問い合わせ、契約を結んだ。

 そのシステムの最大の特徴は、『家主の精神状態に連動する』点だった。

 家主が不安を感じた瞬間、手首に装着したリストバンド型センサーが脈拍や皮膚電位を検知。即座に家中のセキュリティが起動する仕組みだ。窓には防犯シャッターが下り、玄関は複数の錠で施錠、さらにはガスの元栓も自動で締められる。

 これなら、どれほど心配性でも安心して眠ることができる。導入初夜、男は何度もシャッターの作動を確認し、満足げに布団に潜り込んだ。だが――。


「……今、何かが」


 深夜。ふとした気配のようなものに目を覚ました。布団から身を起こした男は、部屋の中を見回し、じっと耳を澄ました。

 誰かが侵入しようとしているのではないか――そんな不安が脳裏をかすめた。

 その瞬間、セキュリティシステムが作動した。玄関とすべての窓にシャッターが下り、鍵が一斉にロックされた。室内の各ドアも施錠され、家全体が瞬時に完全封鎖された。


「なんだろう……」


 それでも不安は消えなかった。胸の奥にしこりのように残る、言いようのない恐怖。何かがいる気がするのだ。

 男の心拍数はさらに上昇し、セキュリティは次の段階へ移行した。

 外壁全体を覆う重厚なシャッターが作動し、建物そのものが完全に外界と隔絶された。これなら、壁に穴をあけて侵入することも不可能。防火性が高いため、火をつけられることもない。これで完璧なはずだった。


「なんだ……おかしいぞ……ああ、音がした! 影が!」


 男が叫んだ。心拍数は限界近くまで跳ね上がり、セキュリティシステムは最後の防御措置として、男の部屋の内壁にもシャッターを下ろした。寝室は完全に密閉された。

 侵入者がいたとしても、ここに辿り着くことは不可能。通気口から微かに流れる空気の音だけが、静寂の中に響く。

 ここまでかかった時間は、わずか二分。そして、セキュリティシステムは最終段階へ進み、警備会社への通報準備に入った。

 そのときだった。男はゆっくりと布団に横たわった。

 呼吸が落ち着き、心拍数が少しずつ下がっていく。その顔には、安堵の表情が浮かんでいた。まぶたがゆっくりと閉じていく。


「ああ……これで、安心だ……」





 数日後、寝室で男の遺体が発見された。

 死因は老衰だった。

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