白の夢・王の目覚め
初めての小説ということで、至らない点があると思いますが楽しんで頂ければ幸いです。
白い城内の王座の間。
そこには、白いローブを羽織った者たちが4人集まっている。
そして、玉座の横には同じく白いローブを羽織っている側近が1人。
玉座には1人、王が座っている。
集まっている4人の白いローブたちにはそれぞれ一人ずつ、赤、青、黄、緑、の線が1本、ローブに入っている。
また胸元には小さくそれぞれの色に対応する様に、赤い炎、青い水、黄色い雷、緑の風のマークがついている。
王の側近の胸元には、黒で書かれた瞳のマークがついている。
彼らは、王の指示を待っていた。
城は轟音を立てながら大きく揺れている。
集められた者たちは微動だにしなかった。
側近が王に何か囁いた後、遂に王が腰を上げた。
「俺がこの戦いを終わらせよう。もし俺が死んだら、その時は一旦シグナルに任せるよ。こいつならきっとあの子をここに戻してくれるだろうから。」
シグナル。
真っ白のローブを着ている。
いつも彼のそばにいる側近だ。
揺れと音が酷くなり始める。
4人は王には戦って欲しくないと考えているが、結局決めるのは王だ。
彼の決意は今更変えられない。
「さあ、行こうか、皆。今度こそ、あいつの目を覚まさせてやろう。」
彼は捻じれた剣を持ち、王座の間を出る。
そこにシグナルと四人のローブたちも付き添う。
「さっさと止めねぇとなァ。国を潰されちまう。」
「そう簡単じゃないと思うけどね。でもまぁ、出来るよ。今回はやる気に満ちてる。きっとこれ以上死ぬのは御免だからかな。」
王とシグナルは気さくに話しながら玉座の間を出て行った。
** *
眠りから目覚める。
何か夢を見ていた気がするが、思い出せない。
視界の中に人が見える。
白い髪、赤い目、白衣、黒のズボン、白衣の右ポケットは膨らんでいる、首にかかってるカードと碧い瞳のペンダント。
これは誰だろう?
よく見るとこれは鏡に映った俺自身の姿だと認識する。
何故俺の姿を自分だと気が付かなかったのだろう。
理由はすぐに分かった。
記憶が無いからだ。
正確には、俺の名前だけは憶えている。
ザジー・クロノス。
その名前だけは明確に憶えている。
誰が付けた名前で、今まで何をしてきたのか、何も思い出せない。
だが身に覚えのない知識なんかは憶えている。
恐らく自分に関する記憶のみ失っているのだろう。
気持ちの悪い感覚だ。
だがこのまま混乱していてもどうしようもないだろう。
一旦自分の状況に納得を入れつつ、現状を確認することにしよう。
まずここは何処なのだろうか。
部屋には本棚、パソコン等の機械類、テーブルにはグシャッと書類の束が置かれている。
誰かの作業部屋と言った感じだろうか。
下手に触ることは危険だろう。
俺は部屋のベッドに寝かされていた様だ。
部屋の奥、扉の方から足音が聞こえてくる。
部屋の主が向かって来ているのだろうか。
足音はこの部屋の前で止まり、扉が開く。
扉の先から一人の女性が現れた。
髪は長く、色は水色、眼鏡をかけており、俺と似たような白衣を着ている。
「目が覚めたんだ。君、道端で倒れてたから何事かと思って、研究所まで連れてきちゃったけど大丈夫だった?」
「倒れていた……イマイチよく分からないけど、ありがとう。」
どうやら、倒れていたところを助けてもらっていた様だ。
だが何故倒れていたのか、その記憶は無い。
「なんで倒れてたの?お腹空き過ぎたとか?」
「分からない。名前以外、自分がどんな人間で、何故ここに居るのか覚えていないんだ。」
「という事は、記憶喪失って事?」
彼女は心配そうな表情をしている。
「多分…名前以外の俺に関する記憶を失ってるみたいだ。」
「なるほど。とりあえず名前を聞いてもいい?あ、私は桜井 佳機。カオリって呼んで。」
「あぁ、俺はザジー・クロノス。えっと、よろしく。」
「うん、よろしく!ねぇ気になったんだけど、その首から下げてるカードは何?日本人の物みたいだけど。君の記憶と関係ありそう?」
俺が首から下げているカードには、黒髪の男の顔写真と玄野 時矢の名前が書いてある。
「日本人?誰だろうか...…分からない。なぜこんなものを身に着けてるんだろう?」
彼女の言う日本人という言葉は、何故か俺の記憶にある。
確か、国名のはずだ。
でもそこが生まれの土地かというと、そんな記憶は当然存在しない。
だがこの名前を知っているという事は、何かしら自分と関係があるという事なのだろうか。
「君は自分がどこの出身かわかる?」
「ダメだ。思い出せない。」
「そうかぁ、となると本当に記憶が無さそうだね。」
彼女と話していると、外から警告音が聞こえてきた。
「警告!警告!突如悪魔が出現しました!市民の皆さんは冒険者ギルド等に避難してください!」
「むっ。悪魔が出たってさ。そうだ!街の紹介がてら倒しに行こうか!」
カオリは笑顔でそう言うと手を伸ばしてくる。
当然、悪魔を倒すというよく分からない単語に頭が混乱した。
悪魔は危険かつ狡猾で召喚者に契約を求めてくる存在だ。
だがそれを倒すというのは想像しにくい。
だが、興味はあった。
「分かった。連れていってくれ。」
「OK!じゃ、空飛ぶから手を掴んでてね!」
空を飛ぶ?
どういうことだろうか?
想像ができない。
でも少し、楽しそうだと思った。