プロローグ54 【9月27日/部活選択決断日3日目】1/どうすんだ、これっ?
一夜明け、【芳一】が目を覚ますと、右耳から
『よっ、【唯野 芳一】、目が覚めたか』
と言う声と、左耳から
『はぁい、【芳一君】、昨日はよく眠れたかしら』
と言う声がした。
【芳一】の両サイドに、7分の1フィギュアサイズの美少女が立っていた。
2人とも身体のサイズを自在に変えられると言っていたのでそう言うサイズでもあり得なくはない。
が、
(ゆ、夢じゃなかった)
と【芳一】は思った。
昨日の【イメージサンプル】鑑賞の途中で乱入した2人、
【4体目の御神体】改め、【唯野 芳果】、
【4体目の怨魔体】改め、【唯野 芳寿】、
の2人である。
2人のキャラクターデザインは、【芳一】がライフワークとして作っていた【フィクション・レジェンド】のヒロインとその双子の姉と言うことになっている。
違いと言えば、【妹】がデザインの元の【芳果】はポニーテール、
【姉】がデザインの元の【芳寿】は髪を下ろしている。
そっくりな2人ではあるが、1人は神側、もう1人は悪魔側となっている。
夢の中のキャラクターが現実として出て来てしまっている状態だ。
この事を【桔梗】や【瑠璃】にどう説明したら良いのか困っていると、ある事にも気付いた。
このままでは【徳太】の家に居候する訳には行かないと言うことだ。
いくら人の良い、【徳太一家】も、居候が、2人も追加されては迷惑な話となる。
さすがに三人でお世話になると言う訳にも行かない。
困っていると、
【芳果】が、
『困っておるのか?ならば我がその悩みを聞こう』
と言ってきた。それに対抗したのか、【芳寿】も、
『いやいや、妾が聞くわ。何でも言ってみて』
と言ってきた。【芳一】が、
「いや、無理な相談だよ。君ら何の力も無いんでしょ?」
と言うと、
『等価交換であれば、出来ぬ事もないぞ』
と【芳果】が言った。
「等価交換?、兄の家にお世話になるって話があって、君達が居たらそう言う訳にも行かないと言う話なんだけど?」
『それなら妾達が居なければ行けたのでしょう?出来るわよ』
「出来るって僕らが良くても兄たちに迷惑になるって話なんだけど」
『住処を変えると言う事なのだろう。それを第三者に譲れば、代わりの住処が手に入るぞ。丁度そう言う縁もある故にな』
「は?どういう事?」
『何日か前に貴方に絡んできた関西人が居たでしょ。彼、学校やめて東京に進出しようと思っているみたいだけど、彼に貴方が行く予定だった部屋を譲れば良いのよ』
「いや、駄目でしょ?兄と【大門君】は全然関係ないんだし」
『それがそうでも無いのじゃ。先日、上の娘と縁が出来たばかりだしな』
「は?どどど、どういう事?」
『貴方の事でちょっと一悶着あったみたいなんだけど、貴方の事を悪く言われたと思った貴方の姪が彼の事を殴って、彼はその子に惚れたみたいよ。自分を殴れる女は滅多にいないと言って』
「いやいやいや。そんなの駄目でしょ。そんな縁駄目でしょ」
『お前は親では無いのだから、姪の交際についてとやかく言う権利は無いのでは無いか?』
「いや、そうだけど、僕の事が原因なんでしょ?」
『そうね。でも付き合うかどうかは本人達の気持ちの問題だと思うけど。高校生くらいになれば、誰かと交際してもおかしくない年頃だと思うけど?』
「いや、だけど」
『経験の少ない者の価値観を押しつけるな。これはお前の姪と関西人の問題だ』
『そうそう。それに彼にその部屋を譲れば、それと等価値の部屋が手に入るわよ。貴方はそう言う運命の中にいるわ』
『それに、このまま、兄の家に居候になれば、下の姪に作業を邪魔される事も多くなるぞ。居候という手前、無碍にも出来ぬであろうしな。先日もこの部屋に突然、押しかけて来たのであろう』
「そうだけど、譲るって言われても」
『直接言うわけではないわ。貴方が認めれば運命がそう言う風に転がって行くのよ』
「どうやって?」
『お前の兄と関西人に強力な縁が出来る。その流れで、お前が、別の部屋を手に入れる事になるのだ。お前はただ、認めれば良い』
「【詩遊ちゃん】達に悪影響は無いんだよね?叔父として、それだけは見過ごせない」
『それは約束出来ないわ。縁がつながった事は確認出来るけど、そこから先は2人の問題なんだから。そこは2人の関係を信じるしか無いわね』
『可愛い子には旅をさせろと言うではないか。関西人の人柄はお前が話してみて良い男だと感じたのであろう?ならば問題ないではないか』
「普通、こういう場合、天使と悪魔で意見が割れるものじゃないの?何で、【御神体】と【怨魔体】で意見が一致しているの?」
『我とて、同じ目的であるのに反対する理由は無い。悪魔の意見に左右されて意見を曲げるなど負けた気がして我慢がならんしな』
『妾もよ。見ている方向が同じなら対立する理由は無いわ。まぁ、目的が同じかどうかは解らないけどね。とりあえず、進む方向が同じなら妾も反対しないわ』
「そう言うものなの?」
『そう言うもんじゃ』
『そう言う事』
と言う話になって、【芳一】は【大門 隼人】に兄に借りる部屋の権利を譲る事を選択したのだった。