プロローグ20 【9月22日/部活見学5日目】2/アイドル達との密会?1
集中力に欠けた【バイト】も終わり、軽く昼食を取った【芳一】は、【崎本 桔梗】28歳とその妹分のアイドルの子と待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所に指定したのは【カラオケボックス】である。
ここならば、最近は歌を歌わなくても他の目的で使用される事も多いので密会には最適な場所だと言える。
あんまり有名な【カラオケボックス】だと、アイドルをしている彼女達の素性がバレるかも知れないので、あまり流行っていない、ちょっと東京の外れにある【無名のカラオケボックス】を指定していた。
店名は【カラオケヘブンズパラダイス】と言う名前の聞いた事も無い【カラオケボックス】だ。
いかにも流行っていない【カラオケ店】だと言わんばかりの設備が行き届いていない寂れた【カラオケ店】だが、この店が潰れない理由はちゃんとある。
【桔梗】達だけでなく、芸能人や著名人が、人目を避けて【密会】するのによく利用されている【店】で、他の部屋の事はお互い干渉しないと言う事と、普通のカラオケ店より、【部屋代】が高めに設定されているのが特徴だ。
それでも【パパラッチ】達が隠し撮りしていないかと言う不安は多少あるが、そんな事を気にしていたら話は始まらない。
【桔梗】は【三階の角部屋】を指定してきたので、そこを選択した。
【三階】が空いてなかったら【四階】、【五階】と言う様に階を上げて予約を入れると言う事にしている。
一応、【芳一】が先に、【部屋】に予約を入れて、【桔梗】達が、後から、【芳一】が取った【部屋】に加わる事になっている。
【桔梗】達が【部屋代】だけでも出すと言っていたが、ここは年長者として、自分が出すと言う事と、自分が先に部屋を取っておくと伝えている。
やはり年下の子にあれこれさせるより、自分がやると言う事で格好付けたかったと言うのが本音だ。
【芳一】は、【桔梗】に【三階の角部屋】を取れたと連絡を入れた。
彼女は30分くらいしたらそっちに行けると思うと返信してきた。
やはり、【芳一】が入ってすぐに、彼女達も入室すると怪しまれる可能性がある。
だから、30分くらい空けて、彼女達には来てもらう事にしたのだ。
と言う訳で30分間は彼だけである。
黙っているのも何なので、【食事】を注文して、気晴らしに【歌】でも歌ってみるかと言うことになった。
【カラオケ】はもっと若い頃、行った事はあるが、最新式の【カラオケ】はどうなっているのか解らない。
だが、この【カラオケ店】の【カラオケ】はかなり旧式だと言うのが何となく解った。
たぶん、10年前、20年前のものではないだろうか?
なぜなら、【最近のヒット曲】があまり入っていないのだ。
ちょっとは入っているが、【最近のヒット曲】に疎い【芳一】でも解る有名な楽曲とかが入っていなかったりする。
これでは、普通の客は寄りつかないなと【芳一】は思ったのだった。
とりあえず、【桔梗】達が来た時、歌うのは恥ずかしい。
アイドルの歌と比べられたら【芳一】の歌は【音痴】であるのが目立つからだ。
だから、彼女達の前では歌えない。
なので1人で居る今のうちに【1人カラオケ】をやっておこうと思ったのだった。
彼女達が来るのが30分後だったら、念のため、10分前には止めておこうと思うから、4曲くらいは歌えるかな?と思い、4曲選ぶ事にした。
彼が選んだのはいわゆる【アニソン】である。
昔見た【アニメ】のOP曲などを熱唱した。
4曲目を熱唱していると、
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パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
と言う拍手が2人分、鳴った。
1人は見覚えがある。
【桔梗】だ。
もう1人は見覚えが無い子だが、凄く可愛い事から、この子が【桔梗】が妹の様に可愛がっている後輩なのだと理解出来た。
2人の拍手に【芳一】は耳まで真っ赤になった。
お世辞にも上手いとは言えない歌で有り、【アイドル】としてやって居る2人からすれば、全然、駄目なレベルの歌唱力なのに、彼女達は拍手を送ってくれた。
まぁ、接待の拍手だろうが。
それが解るからこそ、【芳一】は穴があったら入りたいくらい恥ずかしかった。
それを察してか、【桔梗】は、
「あの、ちょっと早かったですか?」
と申し訳なさそうに言った。
予定より早く来てもらったのだから、謝る必要は無いのだが、何となくばつが悪そうだった。
【芳一】は、
「あ、いえ、その、お見苦しい点をお見せして申し訳ないです」
と謝った。
こっちもばつが悪そうだ。
それをフォローするつもりなのだろうか?後輩らしき女の子は、
「あ、でも、歌は楽しむ事が一番だから」
とフォローになっていないフォローをして来た。
いたたまれなくなり、【芳一】は、
「済みません」
と言った。
何とも気まずい密会だった。
それを誤魔化そうと【芳一】は、
「あ、あの、その子が後輩の子ですか?」
と言った。
【桔梗】は、
「あ、はい、そうです。ほらっ、挨拶をして」
と後輩を促す。
後輩は、
「はい、みんなの妹、【ロリータガール】。
でも歌唱力は任せて、【オタク担当】の【シンシア】です」
と言った。
【芳一】は、
「え?外国の方ですか?」
と言った。
【桔梗】は、
「違います、違います。ほらっ、【瑠璃】、ここは芸名じゃなくて本名で良いのよ。
芸能活動している訳じゃ無いんだから」
と注意した。
恐らく【シンシア】/【瑠璃】と言う子が話したのは【アイドル】としての決まり文句みたいなものだろう。
【瑠璃】は、
「し、失礼しました。【星井 瑠璃】です。
ご、ごめんなさい」
と訂正した。
どうやら【瑠璃】と言う子も緊張している様だ。
そりゃそうだ。
姉の様に思って居る先輩の【桔梗】の紹介とは言え、正体がよくわからない37歳のおっさんを紹介されて緊張するなと言う方が無理があるだろう。
【芳一】は、
「いえ、僕は、ペンネーム【ちょいちょいちょいな】で創作活動をしている【唯野 芳一】と言います。
37歳のおっさんです。こんなんで済みません」
と言った。
【瑠璃】は、
「え?【ちょいちょいちょいな】さんってあの【ちょいちょいちょいな】さんですか?」
と聞いてきた。
【芳一】は、
「え?ご存じなのですか?」
と聞き返した。彼女が自分の何を知っているのか?ちょっと気になった。
【瑠璃】は、
「えぇ、まぁ、ちょっと。本当に【ちょいちょいちょいな】さんなんですか?」
と言ってきた。
【悪徳出版社】によって変な噂でも立てられているのでは無いかと【芳一】は少し不安になる。
戸惑っていると、【桔梗】が、
「ちょっと、【瑠璃】、【唯野さん】、困っているじゃないの。
そんな事より、相談しに来たんでしょ?」
と再度、注意した。
【瑠璃】は、
「ごめんなさい【お姉様】」
と謝罪した。
【お姉様】、本当にそんな事言う人居たんだ?と【芳一】は思ったのだった。
こうして、【芳一】とアイドル2人の【密会】は始まったのだった。