プロローグ11 【9月20日/部活見学3日目】2/兄家族との対話
待ち合わせ時間の10時となり、【芳一】は【徳太】の家に行った。
出迎えたのは【徳太】の妻である【千絵美】だった。
【千絵美】は、
「あらっ、【芳ちゃん】いらっしゃい。
久しぶりね、元気だった?色々あったみたいね。心配したのよ
どう声をかけたら良いのかわからなくてね。酷い出版社もあったものね」
と言った。
【芳一】は、
「ど、どうもご無沙汰しております【千絵美義姉さん】」
と挨拶した。
「ここじゃなんだから、さっ、上がって」
と出迎えられて、家の中に入ると、【徳太】が奥から出て来て、
「おう、来たか、おーい、お前達ぃ~、【芳ちゃん】来たぞぉ~」
と声を変えた。
声をかけたのは娘2人に対してだ。
上の娘は現在、高校2年生の【詩遊】、下の娘は現在、中学2年生の【瑞紀】だ。
【徳太】の声で、上の階から、
「はぁ~い、今、行きまぁ~す」
「今、行くよぉ~」
と声がした。
少し待つと階段を降りてくる音がして、【芳一】の記憶の頃よりずっと大きくなった2人の女の子が降りてきた。
「【芳ちゃん】、お久しぶりです【詩遊】です。覚えていますか?」
「【芳ちゃん】、元気だった?【瑞紀】だよ」
と言った。
この家族は、【徳太】以外は、みんな【芳一】の事を【芳ちゃん】と呼ぶ。
もう、呼ばれないかと思っていたが、変わって居なかった。
まぁ、【瑞紀】あたりは、当時【芳一】の事を【叔父さん】では無く、【手のかかる弟】だと思っていると言っていたのはちょっとひっかかるが。
その言葉を聞いた時、【芳一】は目頭が熱くなった。
落ちぶれた自分なんか誰も受け入れてくれないと思っていたが、ちゃんと気にかけてくれている人はいたのだ。
そう言えば、前の職場に居た人達も何人か、【メール】で【会いませんか?】と連絡が来ていた。
久しぶりにその何人かとも会ってみたいなと思うようになった。
と言っても、それぞれ別の会社での【同僚】達だから、全員一緒に会うと、紹介とかが面倒くさいかな?とは思うが。
声をかけてくれた人達に愚痴でも言って見ようかなとも思っていた。
その話は置いておいて、【徳太】の一家は自分が身構えていたのが拍子抜けするくらいの暖かさで迎え入れてくれた。
その後、【徳太の娘】達は、【芳一】の【創作物】について色々聞いてきた。
その感想だが、【姉の詩遊】は、
「【芳ちゃん】、本当に凄いよね。自慢の叔父だと思ってるよ。その出版社は許せないよね。いつか罰が当たると思う」
と言ってくれた。
【妹の瑞紀】は、
「そうそう、こんな【面白いおもちゃ】他に無いモンね」
と言っていた。
この子は、【芳一】に似たのか、昔からよくわからない事を言う子だったが、【手のかかる弟】から【面白いおもちゃ】に格下げになったのだろうか?
一段落すると、【千絵美】が、
「はいはい、あんた達はそれくらいにしときなさい。
これから、お父さん達、大事な話があるから、あんた達は自分の部屋に行ってなさい」
と言った。
【詩遊】は、
「あ、はい。解ったわ」
と言った。この子は割と素直だ。
優等生ってタイプだから、【徳太】に似たのだろう。
【瑞紀】は、
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~?まだ、話足りないよぉぉぉぉぉぉぉぉ」
と駄々をこねた。
この子は本当に【芳一】の若い頃に似ていると【徳太】は言っていた。
【芳一】達の様に双子という訳では無いが、この姉妹の関係も【徳太】と【芳一】の関係に近いのかも知れない。
【娘】2人が部屋に戻った後、【徳太】と【千絵美】と【芳一】でちょっと真面目な話をした。
詳しい内容は割愛するが、
これからどうするつもりか?生活できるのか?一緒に暮らす場合はどうするか?
結婚は考えているのか?仕事はどうするのか?新しい仕事を紹介したい。
お前の技量なら引く手あまたなのに、どうしてこう、不器用な生き方しか出来ないんだ?
協力出来る事なら協力していくつもりだわ。家族にならないか?
お前も家庭を持って落ち着いたらちょっと変わるかも知れないぞ。
家に来るなら、今のお前の部屋のモノを少し整理しないと部屋に入らないぞ。
お袋の世話をするつもりで、部屋を一つ開けておいたが、姉さんが、お袋の世話をしてくれることになったから部屋が一つ空いているのは事実だ。
等々、これからの事などの話をメインに色々と話し合ったのだった。
結局、今の時点では、物理的に引っ越しは不可能だから、少し部屋の整理してモノを減らしてから、【徳太】の元に連絡を寄こす事になった。
【徳太一家】としては条件さえ整えば、【芳一】を受け入れると言う考えだと言う事を言われて、その後は、【芳一用】に空けている【部屋】を案内された。
【芳一】達の【母】のために空けておいた【部屋】は元々、1階の【和室】だったのだが、【母】が【姉家族】が面倒を見ると言う事になった時、【千絵美】が【和室】の方が落ち着くと主張した事から【徳太夫婦】が使う事になり、その代わり空いたのが、3階の【フローリングの部屋】だった。
つまり、この【部屋】を使う事になるのだが、向かい側には【問題児】の【瑞紀】の部屋がある。
【詩遊】はちなみに2階に部屋がある。
【リビング】と【キッチン】も2階にあり、1階には、【徳太夫婦】が使う【和室】と【客間】がある。
【1階】から【3階】まで【トイレ】が1つずつあり、【1階】には【バスルーム】と【脱衣所兼洗面所】がついていると言う部屋割りとなっている。
【車庫】もついており、【車】が二台置ける様になっている。
【庭】や【ベランダ】も小さいながらついているのでそれなりの【豪邸】と言えるのではないだろうか。
残念ながら【ペット】は【千絵美】が色々と【アレルギー体質】なので飼えない。
ちなみに【千絵美】は動物好きである。
決して嫌いと言う訳ではないが、映像や本などを見て我慢している様だ。
その家に【芳一】は誘われていると言う事になる。
一端、家に戻る【芳一】に【徳太】は、
「お前を見ていると【親父】を思い出すよ。
決して褒められた様な父親では無かったが、どこかお前に似ている事もある。
お前がイラストを描けるのも親父の血を受け継いでいるからだろうしな。
本当にお前の才能は羨ましいよ。才能の無駄遣い、するなよ。
ちゃんと有効に使えよな」
と言う言葉を贈った。
【芳一】は、
「ありがと、またお邪魔するよ」
と言って、【徳太】の家を後にした。