プロローグ10 【9月20日/部活見学3日目】1/兄との対話へ
今日は土曜日だ。
だから、【芳一】のバイトもお休みとなっている。
今日は近くに住む、【芳一】の双子の兄、【唯野 徳太】と話をする約束をしていた。
兄には家で一緒に暮らそうと言う事を言われている。
その話をする事になっている。
待ち合わせは兄の家で、今日は兄の嫁、それに高校生と中学生の2人の娘も家に居ると言う。
部屋が一つ余っているので、【芳一】と一緒に暮らさないかと言う話をするために兄の家に行くのだった。
待ち合わせは10時だ。まだ、時間がある。
【芳一】は【徳太】との思い出を振り返った。
【徳太】と【芳一】は双子の兄弟として誕生した。
一卵性双生児として誕生したが、性格などは全く違っていた。
兄の【徳太】は堅実派、弟の【芳一】は冒険派とでも言うべきだろうか?
【徳太】は幼少期から学生時代にかけて【優等生】としての人生を歩んできた。
逆に【芳一】は、手のかかる【問題児】としての人生を歩んできた。
何か問題があれば、必ずと言っても良いくらい【芳一】の名前が挙げられ、その度に怒られていたが、実はその家の何割かは【濡れ衣】なのである。
本当は兄の【徳太】がやっていたのだが、普段の素行の悪さから、【芳一】が疑われる事になり、【芳一】も心当たりのない事でも自分の事として両親や教師からのお叱りを受けていた。
勉強では【徳太】の足下にも及ばない程の劣等生だった、【芳一】だが、彼は、生まれつき、飛び抜けて強い【発想力】、【アレンジ力】を持っていた。
興味無い事にはまったく見向きもしないのだが、興味を持った途端に、驚く程のスピードで知識を吸収し、新たな解釈で、それを為していた。
その事について、お互い成人を迎えた日、【徳太】は、
「実は、お前に嫉妬してたんだ。お前のアンチでいるのは、俺が俺を保つための手段だった。
それくらい、お前の【想像力】は凄いと思っている。
誰よりも早く、面白いポイントを見つけ、そして、漫画の展開も正確に予想していた。
そして、誰もやっていない様な事をお前はあっさりとやってのける。
それは凄い事だ。俺の周りにはお前しかそんな奴は居なかった。
お前はこれからそれを活かせ。お前ならそれがやれると俺は確信している。
なぜなら、ずっと近くでお前の人並み外れた才能を見てきたんだ。
お前より凄い【発想力】を持った人間は見たことが無い」
と言う言葉を弟に贈った。
それで、【芳一】は、自分の才能を確信し、会社などでは【QCサークル】で次々と【新しいアイディア】などを発表し、【KY(危険予知)】のコンテストでは二位以下を圧倒的に数で引き離して【社内全国一位】などを何度も受賞するなどめざましい活躍だった。
そのため、【有名大学】を出ている【兄】と違って【学歴】は優秀とは言えなかった【芳一】は異例の出世などをしていた。
その給料のほとんどを【漫画】や【アニメ】、【ゲーム】などで買いあさり、【芳一】は更に自分の【想像力】を高めていた。
元々、独特な方法で、自分の【想像力】を高める力を持っていた、彼に偏ってはいるが【知識】と言う力もプラスされた。
その間、親から【散財】を注意されていたが、彼は止めようとはしなかった。
そして、【発明】に凝るようになり、【発明の学会】に【入会】するなどしていたが、【特許】を取るには【出願料】も含めて、【維持費】などがかかり、たくさんの【アイディア】があればあるほど、お金がかかると【学会】の【重鎮】の男性に言われた。
そこで、お金がかからない【方法】は無いかと尋ねたら、【著作権】ならば、作った時点でその人に発生するからかかったとしても自分が作ったと証明できるものにかかるくらいだと思うよと言われ、そこから、当時好きだった【ゲーム】の【ルール】を考える様になった。
【コンピューターゲーム】や【携帯端末ゲーム】などの【アイディア】は、【プログラミング】ができない彼の技量では無理だったので、【ボードゲーム】や【カードゲーム】ならばできるとして、そのアイディアを一ヶ月で400程考えた。
ただ、それを証明するためには、【著作権の協会】でやっている証明があれば、保護されると思うと言われて、今度は、そこに入会したが、1枚辺り、3000円の登録料が必要だと言われ、手作業でやっていたが、やはり、それだと完成度が低くなるとして、今度は、【パソコン】、【イラスト】、【各種編集ソフト】、【ホームページ作成】などを独学で覚え、【ワープロ入力】も【ワープロ検定1級】に合格するほど上達した。
そこが彼の凄い所だった。
興味ある事に対しては驚異的な早さで覚えるのだ。
驚く程短期間でそれを覚えた彼だったが、今度は、【童話ゲーム】のアイディアを考えていた流れで【四コマ漫画】を作る事を覚えた。
流石に【ストーリー漫画】を作れるまでにはなっていなかったが、それを【ネット】で発表すると大好評だった。
そして、更に【アニメーション制作ソフト】を使って同じ映像を繰り返す【ループアニメーション】も作れる様になって世界的にも認知されてきた。
だが、何でも彼一人でやるには限界がある。
そこで、当時、同僚の女性に勧められていたと言う経緯もあり、【漫画】よりも【小説】を書いて、【イラスト】は【挿絵】くらいにすれば【作品】を量産できると考え、今度は【小説】の量産を始めた。
最初はつたない構成だったが、数をこなす様になり、100を超える【短編作品】を作る様になる頃には、それまでの数々の経験がピッタリはまる様になり、【傑作】が生み出せる様になった。
その頃には彼は【ブログ】や【ホームページ】で発表した作品で語った【造語】が【ネット】で検索できる様にまでなっていた。
そこに目を付けたのが【悪徳出版社】で彼は騙され挫折を味わう様になったと言う経緯なのだが、それ以外にも彼にはたくさんのトラブルや転機があった。
雇用保険を払われなかった問題、車の運転中交通事故に三日連続でなりそうになった事、
真夜中に何も無い所で迷子になった事、自転車で走行中、危ない人間の運転する車に追いかけられた事、二度に渡る交通事故、転職、職種変更、技術学校入学、恩人との最後の別れに仕事を依頼された事、発明の発表会、主張先での出来事、友人だと思っていた人間の裏切り、迷惑メール問題、初めての体験、親族の死亡や結婚、出逢いと別れ等々、数え上げたらきりがない。
波瀾万丈とはこういう事を言うんだと言う人生を歩んできた。
だからこそ、中味がぎゅうぎゅうに詰まった【物語】を考え出せる力を得て、【作品】に深みが出ていた。
その間、【徳太】は順風満帆に会社に勤め、好きな女性と付き合い、結婚し、娘を2人もうけていた。
そんな【徳太】の家族とも娘が2人とも小学生の頃までは良く会っていて、特に下の娘は、人懐っこく、【芳一】の膝の上が定位置だった事もあった。
だが、今は行き来がない。5年近く会っていないのではないだろうか?
だからこそ、緊張する。果たして受け入れてもらえるのだろうか?
【芳一】の心臓はバクバク鳴っていた。