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変夢奇譚 ~くだらない夢のよせ集め~

天使の輪 (変夢奇譚 ~くだらない夢のよせ集め~ 第49夜より)

作者: Ak_MoriMori

変な夢を見た。


  子供が・・・大声で泣いていた。

  四つん這いになって、何かを探しながら・・・。


  そんな妙な光景に遭遇したのは、たまたまだった。

  放っておこうかと思ったものの、とりあえず話しかけてみることにした。


 「どうしたんだい?」


  子供は、体をびくっと震わせ、泣きやむと、立ちあがってこちらを振り向く。


 「あなた、ぼくのこと、見えるんでしゅか?」


  私は驚いた。この子の見た目は、普通の子供だったが、裸で、オムツしか履い

 ていない。これは、やばいことに足を突っ込んだかもしれない・・・。

  だが、このまま放っておくわけにもいかず、話を続けることにした。


 「ああ・・・よぉく見えるよ。キミ、どうしたの・・・?」


  突然、この子は、その身をくねらせ、両手で自分の体を必死に隠し始めた。


 「ああっ、ダメでしゅよ、見ないでくだしゃい・・・。

  僕の裸・・・透視ちて見ないでくだしゃい・・・恥ずかちいでしゅ!」


 「透視って言われても・・・キミ、すでに、裸だし・・・。」


 「あっ・・・えへへっ! 忘れてまちた・・・。」


 「でっ・・・どうしたの?」


 「輪っかが・・・輪っかが・・・割れちゃいまちた・・・。」


  私が、この子から聞き出した話の内容は、以下の通りであった。


  この子は、自分のことを天使と言った。なんでも、飛んでいる最中、疲れたか

 ら翼をはためかせるのを止めたらしい。その途端、頭から落ち、頭の上の天使の

 輪が割れてしまったというのだ。


  私は、その話を信じることにした。

  確かに、この子・・・いや、今後は天使と呼ぼう・・・の背中には、白い翼が

 生えていたからである。


  天使は、私に向かって、ニコッと微笑みながら言う。


 「それにちても、あなた・・・よく、ボクのことが見えましゅね。あなたは、

  きっと純粋な・・・くだらない心の持ち主なんでしゅね。」

  

 「くだらない心の持ち主・・・。

  そんなこと言われても、ちっともうれしくない。」


  天使は、再び、四つん這いになり、何かを探し始めた。


 「ボクの輪っかのかけらが、ひとつ、見当たらないんでしゅ・・・。

  おぉーい、どこにいったんでしゅか・・・?」


  どうやら、天使は、割れた輪っかの破片を探しているようだ。

  だが、私は、すでにその破片を見つけていた。


 「なあ、キミ。

  頭に突き刺さっているそれ・・・それが、そうなんじゃないか?」


 「えっ・・・ど・・・・・・あッ・・・ホントだ・・・えいっ!」


  天使は、頭に突き刺さった破片を手にするなり、それを引っこ抜いてしまっ

 た。血しぶきが、ものすごい高さまであがった。


 「おいっ、キミ。すごい血だぞ! 大丈夫か?」


 「なあに、ボクは天使でしゅ!

  こんなの腹式呼吸で、すぐに止まりましゅよ!」


  血にまみれた天使は、手を自分の頭にかざした。少しの間、傷口を押さえてい

 ると、血の噴き出す勢いは弱まり、やがて止まった。

  続けて、なにやらブツブツとつぶやく。

  すると、あたりに飛び散っていた血も消えてしまった。

 

  すごいな・・・さすがは天使。

  だが、腹式呼吸じゃなくて、圧迫止血法だろっ!

  私は、とりあえず、心の中でツッコミをいれるのを忘れなかった。


 「ああ。ダメでしゅ。輪っかが、くっつかないでしゅ・・・どうちよう。」


 「そりゃ困ったな。

  じゃあ、ウチに来なよ。ウチにある接着剤を試してみよう。」


 「えっ・・・そ、そんなこと言って・・・さては、ボクのこと、誘拐しゅるつも

  りでしゅね!」


 「ああ、もう、面倒くさいやつだな・・・どうするんだ?」


 「ええ、ええ、一緒についていきましゅだ・・・駄目しゃま。」


 「駄目しゃま?」


 「そうでしゅ。あなたは、ボクにとっての駄目しゃまでしゅ。人間で言うところ

  の神しゃまみたいなものでしゅ。」


  私は、それについては、半信半疑だった。

 『駄目しゃま』と言う時の天使の顔・・・あの口元の歪み方に、著しい悪意を感

 じたからだ。


  それでも、私は、天使と手をつなぎ、自宅へと帰った。

  帰る途中、なんとなく気になったので、なぜ、空を飛ばないのか聞いてみた。

  天使(いわ)く、どうやら、天使の輪がないと空を飛べないらしい。


  家に着くなり、私は、瞬間接着剤を取り出し、天使の輪をつなぎ合わせた。

  接着剤が完全に硬化する間、天使は、私の部屋の物色を始めた。


 「あ・・・こんなところに・・・こんなところに、輪っかがありましゅ!」


  そんなはずがない。私は、天使が眺めているものを見た。

  それは、ミ○タードーナツの箱の中だった。昨日の晩、買ってきたものだ。


  箱の中には『ハ○ーチェロ』、『エンゼルフレ○チ』、『ポン・○・リング』

 が、1個ずつ入っている。


  天使は、『ハ○ーチェロ』を手に取り、しげしげと眺める。


 「これは・・・輪っかが、いびつだから、却下でしゅね・・・モグモグ。」

  

  次に『エンゼルフレ○チ』を手に取り、しげしげと眺める。


 「これは・・・輪っかだけど、渦巻いてて気持ち悪いから、却下でしゅね・・・

  モグモグ。」


  最後に『ポン・○・リング』を手に取り、しげしげと眺める。


 「これは・・・うーん・・・。

  おいちそうだから、却下でしゅね・・・モグモグ。」


  ぜ、全部食いやがった・・・こいつ。お、俺のドーナツ・・・返せ・・・!

 

  その時、あたりに荘厳なメロディーが響き渡った。ラッパを力強く吹き鳴らし

 たような音色だった。私は、それを聞いて、うっとりしたが、天使の方を見てみ

 ると、なにやら様子がおかしい。胃のあたりを押さえ、口からまとまった息を吐

 く仕草をしている。


 「油が多かったんでしゅかね・・・ゲップが止まらないでしゅ。」


  先ほどの荘厳な音楽は・・・こいつのゲップかい!


 「天使のゲップって、あんな音がするのか?」 


 「知らなかったんでしゅか? 普段、ゲップしゅるときは、この腰にぶら下げ

  たラッパを口に当てるんでしゅ。ラッパを吹いてるフリをするんでしゅね。

  しゃっきは、つい、忘れてまちたけど・・・。

  ところで、輪っかは、どうなりまちたか?」


  私は、天使の輪のくっつき具合を確認した。

  ばっちりだ・・・くっついている。


 「大丈夫、ちゃんと、くっついてるよ。」


 「ああ、ああ、ああ、でも、でも、でもでしゅ。輝きがないでしゅ。

  この輪っかは、もうダメでしゅ・・・この輪っかは、死にまちた。」


  そう言うなり、天使は、天使の輪を真っ二つにへし折ってしまった。


 「折ることはないだろうに・・・。」


 「死んでちまった輪っかに、存在価値はありましぇんよ・・・あれ?」


  天使は、家のペンダントライトを見て、突然、その顔を輝かせた。


 「あ・・・あれ・・・輪っかでしゅ!」


  確かに、ペンダントライトには、二つの輪っかの蛍光管がついている。

  だが、あれは、天使の輪ではない・・・。


 「あれを・・・ボクの頭の上に載せてくだしゃい!」


 「えっ、ああ。大きいほう? それとも小さいほう?」


 「大きいほうがいいでしゅ!」


  私は、大きいほうの輪っかの蛍光管を取り外し、天使の頭の上に載せてやっ

 た。すると、蛍光管が、オレンジ色に光り始めた。


 「あっ、やっぱり、これ、輪っかです・・・ちかも、すごいパワーでしゅ!

  でも・・・色が気に入らないでしゅ!

  やっぱり、白じゃなきゃダメでしゅ!」


 「ちっ・・・いちいち面倒くさいやつだな!」


 「ああ、駄目しゃま・・・怒っちゃ駄目でしゅよ。

  白い輪っかをくだしゃい!」  

 

  確か、もう一つのペンダントライトの蛍光管は、昼白色だったはずだ。

  別の部屋のペンダントライトから蛍光管をはずし、天使の頭の上の蛍光管と

 入れ替える。


  蛍光管が、強烈な白い光を発し始めた。

  神々しい・・・そんな言葉がぴったりの輝きだった。


 「ウォオオオオオ! キタキタキタアアアァ!」

 

  天使は、白い光に包まれながら、美しいバリトンを響かせた。

  その白い光は、徐々に輝きを増していき、やがて、天使の姿を完全に飲み込

 んだ。しばらくの間、強い発光が続いていたが、次第に弱まってきた。


  そして、そこに・・・天使はいなかった。

  いや、さっきまでの天使はいなかったと、言った方がいいだろう。

  今、私の目の前に立っているのは、白い翼が生えた若い美男子だった。


  筋骨隆々たるイケメン、その姿は、まるでギリシャ彫刻のように整っている。

  だが、今まで履いていたオムツが小さすぎて、ビキニオムツになっていた。

  まるで・・・そう、美しすぎる変態だった・・・。


  私は、美しすぎる変態・・・いや、天使に話しかけた。


 「キ、キミはいったい・・・。」


  天使は、威厳に満ちた顔つきで、頭の上の輪っかを指さしながら答えた。


 「この天使の輪が・・・我をまことの姿に戻してくれたようだ。

  我が名は、この地に落ちた『だ』天使・・・『クダラン』。

  同じ『だ』でも、我が兄『ルシファー』と違い、我は至極健全な『駄』なの

  だ。

  我は、これにておいとまする!

  駄人間よ、いずれ、またどこかで会おうぞ!」


 「お前に駄人間とか、言われたくないわ! それに、二度と会いたくない。」


 「さらばだ! 『駄』の価値もわからぬ愚かな人間よ!

  ああ、『駄』よ・・・それは、まことに素晴らしきものなり!

  『駄』こそ、この世界の真理なり! 汝らに告ぐ、『駄』を称賛せよ!」 


  駄天使『クダラン』は、頭の上の蛍光管を輝かせながら、ぱたぱたと空へ飛ん

 でいく。ラッパを口につけ、大きなゲップをしながら・・・。


そこで目がさめた。


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