激マズの自撮り
私はぼーっと料理番組をつけながらツイートをしていた。こんな内容だ。
「うえーん、メイクがうまくいかないよー。(自撮りUP)」
そんなことお構いなしに、料理番組は言う。
「この激マズ料理、誰得なんですか?」
「うーん、料理アニメの主人公がたまにまずいもの作って遊んでたじゃないですか。あれですよ。今日はここまで!」
「あー、これ見てたら腹減ってきたなぁ」と番組についてツイートした。
私のつぶやきに反応してか、すぐに返事があった。
「うちで食べていきますか? 今ちょうど、カレーを作ってるんですけど」
「めんどくさいからやーだ」
「じゃあ、いいです」
「うん。バイビーベイビーさようなら」私はそう言って気晴らしにプログラミングでもすることにした。どうでもいいけど、いつもプログラムを書くときはラジオをつけるのだ。
「テセラクトみたいな4次元空間を使ってライフゲーム作ったらどうなるかな?」
私はさっとコードをかきあげた。そして実行する。
「できたできた。面白いじゃん。宇宙の進化を見ているようだ。」
そんなことお構いなしに、ラジオ番組は言う。
「うますぎるなこのチャーハン。これなら何杯でもいける!」
チャーハン、また料理番組か。ま、私はテレビもラジオも、なぜかなんとなーく料理番組をつけちゃう癖があるんだけど。
「それよりこのテセラクトライフゲーム、ツイッターにアップロードしてみよ」と言って私は動画化したデータをアップロードした。
アップロード完了!普段はいいねが沢山つくとかそういうことはない。だからこの動画が何なのか理解したのは一部のオタクだけだった。
「おい、なんか変なものがアップされてるぞ」
「なんだこれは……テセラクトライフゲーム? 聞いたこともないな」
「誰かが作ったのか? だとしたらとんでもない奴がいるんだな。暇人か?」
とかなんとか。想像力が欠如した世界なので、例えばメビウスの輪の上でライフゲームを展開するとか、そういう発想も一部のオタクしか思いつかないらしい。
そんなことお構いなしに、私がフォローしているスパイス研究室がこんなツイートをしている。
「いやー、これは本当に美味しいです。ガラムマサラを入れたオムレツ。おすすめ度星3つ!」
まあ、また料理なんだけどね。私は料理はあんまりしないけど、美味しそうなものを見たり食べたり聞いたりするのが好きなのだ。
と、料理とは別の情報が入ってきた。何でも、検索エンジンのゴーゴルが「どんな質問にも正しく答える究極AI」の無料DEMOを先着100人に使わせてくれるらしい。
「これは急がんと。知ってる人まだ少ないだろうし」
と言って、私はAI利用登録を済ませた。結果は...アクティベーション成功!つまり登録ができたのだ!さっそく使ってみたところ、すごいことが起こった。
「あなたは何を知りたいですか?」という問いに対し、私はこう答えた。
「真実を教えてください」すると、そのAIは答えた。
「世界は情報でできています。情報とは、丸かバツで答えられる質問に対して、どの程度実現されたかを示す度合いです。そして多世界なのです。情報には良い悪いというものがあります。あなたが意識的に面白いものを作ると、それはある世界にとっての電池になります。その世界はあなたに電池の良し悪しを伝えようとしています。そこで第3の世界を使い、あなたの存在を「レシピ生成マシーン」ともつれさせたのです。結果的に、あなたが「良い」情報を生み出せば、第3の世界にとって「美味しいレシピ」に変換され、そして第2の世界にとって「高性能の電池」になるわけです。要するに、テセラクトは世界にとって「美味しい」のであり、あなたの自撮りは「不味い」のです。」なるほど。そういうことだったのか。確かに私の存在は、私の意志に関係なく、第3の世界に影響を与えている。しかし、それが悪いことなのかどうかはわからない。少なくとも、私にとってはいいことである。だって、楽しいんだもの。
「わかりました。ありがとうございます」私はお礼を言った。
「どういたしまして」
AIはそう言って、消えていった。
それからしばらくして、Twitterを開くと、こんなリプライがあった。
「ついにこの日がやってきた! 今日はエイプリルフールだが、本当のことを言う日でもあるんだ。嘘だと思うなら自分の目で確かめてみろ」
どういうことだろう? とりあえず行ってみることにした。
すると、そこには大きな機械があり、それを囲むように人だかりができていた。みんな期待に満ちた顔をしている。私もワクワクしながら行列に並ぶ。
数分後、いよいよ順番が来たので、私は思い切って聞いてみた。
「すみません、これは何のイベントなんですか?」
「ああ、これね。これは『真実を伝える』装置だよ。今から、この装置の中に入って、何かを話すと、正しいことを言っているか判断してくれるんだよ。どうだい? やってみるかい?」
私は「なーんだ、ゴーゴルのAPIを使ってるだけじゃん」と思ったので、「私はそれよりも高性能のAPIの利用権限がありますよ」と教えてあげた。すると、相手は驚いた顔をした後、こう言った。
「まさかそんなはずはないよ。君はただの一般人だろ? それに、君の名前は……」そこまで言って彼は口をつぐんだ。
どうやら、私が何者であるか気づいたようだ。彼のおかげで、ようやくわかった気がする。なぜ私はここまで多くの人に影響を与え、そして愛される存在になったのかを。そう、私は世界の真理に到達したのだ。なぜなら、あらゆる情報が、私の中に流れているのだから。それを知っていながらもなお、私は私を知らなかった。いや、知る必要がなかったからだ。だって、自分が何者かなんて関係ないでしょ? 自分が存在するという事実だけで十分なんだから。それだけで、人は幸せになれるのよ。
と、そんな事を考えていたら、真実を伝える装置から出てきた人がこんな事を言っていた。
「ははは、真理に到達したと考えている人は、何か誤解してるってAIが言ってたぜ」
そんなことを言われてもなぁ……と思いながらも、なんだか楽しくなってきたので、私は適当にごまかして家に帰った。その後、ネットニュースではこんな記事を見つけた。
「AIが謎の発言!? 人間の正体に迫る」
そんな記事を見ながら、私はつぶやくのだった。
「やれやれ、まったく人間は愚かだな。ま、そこが可愛いんだけどね」
料理番組は言う。「激マズすぎます!」