第36話 現実逃避
さて、録画再開です。
ちょっと移動に専念していましたが、ひとまず安全そうな場所まで来れました。
婦警さんからカメラも返してもらいました。
また僕が撮影係でやっていきますね。
よろしくお願いします。
「現在地の説明はいいのか?」
おお、確かにやっておくべきですね。
さすがは婦警さんです。
だんだんと要領が分かってきましたねぇ。
「やめろ。お前を一緒にするな」
照れなくてもいいのですよ。
二人で楽しいホームビデオを作りましょう。
というわけでここは廃工場です。
郊外にぽつんと建っていて、他に人はいません。
潜伏にはちょうどいい場所ですね。
まあ、完全な安全地帯とは言えないので、一時的な拠点といった具合です。
「もろみょみょーん」
あ、うにうにさんも変わらず元気です。
頭がミンチになったせいか、すっかり奇声がお馴染みですね。
とりあえず瞬間的な再生能力はないようです。
もっとも、意図的に抑制している可能性もありますがね。
この狂った言動も演技かもしれませんし。
「どうでしょうねー、分かりませんよぉー、ほれほれほれれれれれれ」
「くそ、近くにいるだけで頭がどうにかなりそうだ。チョイス、こいつを黙らせろ」
そうは言ってもですねぇ。
うるさいからって殺すわけにもいきませんし、テープなんかで口を塞いでも暴れますよ。
本人が自発的に鎮まってくれるのが一番です。
「そんなの無理だろう。この男は狂気の住人だ。私達の言葉すら理解していないだろう」
いやいや、そうでもありません。
こちらの話を聞いた上で受け答えを選んでいますからね。
狂気に浸っているのは事実ですが、彼の場合は頭がミンチになったからではないでしょう。
元から狂っていたのだと思いますよ。
そこに頭部の消失というスパイスが加わって、ますます悪化しただけです。
「根拠はあるのか? どうしてそこまで分かる?」
彼の発言タイミングです。
しっかりと僕達の会話に被らないように喚いています。
ほら、今は静かでしょう。
周りに意識が向いている証拠です。
「…………にょほほ。いつから気付いていたァんです? なかなかの観察力でぇすねぇー」
そうでもありませんよ。
あなたは僕に気付かせようとしていました。
狂った言動をする一方で、こちらの様子を窺っていましたよね。
知っていますよ。
「にゃるひょど。それはそれはぁ、お恥ずかちい。まあ、演技じゃない部分っつーところもあるんデすがねえええぇ」
それも分かっています。
あなたの目付きは現実から乖離している。
どこか別の視点をお持ちのようだ。
その目付きこそが、不死身を実現する強力なミームのコツであり、引き返せない後遺症ですかね。




