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異世界狸転生ぽんぽこ  作者: 白玖
第一章 狸生
9/209

9 狸VSライオン

「いや、これはまた……」


 ポンタは目の前に現れたライオンを見て唖然とする。

 その生き物はさっきのワニと同様、姿こそライオンに似ているが、明らかに別の生き物だった。

 まず目に付くのは、ライオンのシンボルというべき鬣だ。

 とてもフサフサで、立派な鬣が生えている。

 本来なら生えていないはずなのに。


「がおー!」

「子ライオンじゃん……」


 現れたのは可愛らしい子供のライオンだった。

 しかしライオンの鬣は、雄の成体にのみ生えるものだ。

 それはまるで成体の雄ライオンを、そのまま小さくしたような姿である。

 先程のワニのように殺意溢れた見た目ではないが、異常である事に変わりはない。


(姿はちと妙じゃが、子供じゃよなぁ。あんまり子供とは戦いたくないのう……)


 子供好きのポンタにとって、このライオンは先程のワニよりも闘い辛い相手であった。

 しかし子供とはいえ、今のポンタと比べれば体も大きい。

 おそらくフィジカルも軒並みポンタより上だろう。

 油断できる相手ではないが、ポンタはどうにも気が緩んでしまう。


「がうっ! がうっ!」

(たぶん目的はワシの下にあるワニじゃろ。ワシをひ弱な子狸だと思って、獲物を奪いに来たんじゃな。事実じゃけど。まあ別に譲ってもいいけど。お腹いっぱいだし)


 ここで余裕を持って譲れば、敗北にはカウントされない。

 小さきものに施す大人の余裕で、むしろ勝利と言っていいだろう。


 しかしポンタは、この状況をチャンスと考えた。

 目の前のライオンは油断できる相手ではないが、ワニと比べれば脅威ではない。

 やり辛くはあるが、戦えば十中八九勝てるであろう相手だ。

 そんな相手が単身で、向こうからやって来るなど、そうそうある事ではないだろう。

 上手くやれば、情報収集が出来るかもしれない。


「がうー!」

(威嚇してるのは分かるが、具体的に何を言ってるかまでは分からん。この世界の言葉知らんし。ならば!)


 ポンタはライオンに、目を輝かせながら、にこやかな笑みを向ける。

 そしてワニの上から降りると、両手でどうぞとジェスチャーをした。


 世界共通語とまではいかないが、ボディランゲージは多くの国で共通の意味を持っている事が多い。

 ポンタはライオンに、自分が友好的な存在であるとアピールしているのだ。


「がぅ……ぎゃうっ! ぎゃうっ!」

(おんや? なんだか警戒心が強まっとるぞ?)


 ポンタの笑顔があまりにもあからさまだったせいか。

 それとも逃げる訳でもなく、獲物を提供しようとする姿勢を怪しんだのか。

 もしくは自分に一切恐怖していない事に対して、逆に恐怖を覚えたのか。

 何にしてもポンタの行動は、友好的には伝わらなかった様だ。


「怖くないぞー。ほら、お食べ」

「ぐるるるるっ……」


 ポンタはライオンへ向ける視線を一切逸らさずに、少しずつ後退りして、ワニから離れていく。

 ライオンはかなり警戒しているが、ポンタが十分に離れると、ゆっくりとワニの方へと向かった。

 そしてワニの肉にかぶり付き、引き千切ろうと首を伸ばす。


「ぐぃー!」

(全然千切れんし。あのワニ肉、筋張って固かったからのう)


 ポンタはワニの鱗で切込みを入れて、柔らかくしてから食べていたが、普通の動物にそんな知恵はない。

 ライオンはワニ肉を持ち帰りたかったが、仕方なくその場で食べる事にした。


 それから10分ほど経つと、腹が膨れたのか、ライオンはその場から立ち去った。

 するとポンタはすかさずワニ肉を解体し、崖から飛び降りる際に使用した大きな葉っぱに包むと、ライオンの後を追いかける。


 ライオンはすぐにそれに気が付き、逃げようと走り出すが、ポンタはその後をピッタリとつけて行く。

 ライオンより体は小さく、荷物を肩に背負い、二足歩行だというのに、その距離は一向に広がらない。

 そしてその間も、ポンタはずっと友好的な笑顔を絶やしていないのだ。

 ポンタの意図に反して、ライオンは得体のしれない恐怖を感じていた。


「ほっほっほっ。元忍者は伊達じゃないぞ。体が幼くなっても、素早く疲れにくい走り方を、技術として習得しているのじゃ」

「ぎゃうっ! ぎゃうっ!」

(むぅ、どうしてそんなに怖がるんじゃ。こんなにキュートな子狸が、笑顔で追っかけてきたら、むしろウェルカムじゃろうに)


 長年最強の化け狸として君臨し、人間に化けて生活してきたポンタは、か弱い野生動物の気持ちなど理解できるはずがなかった。


 やがてライオンは体力を使い果たし、減速する。

 するとポンタは逆に加速し、ライオンを追い抜くと、前方に回り込み立ち塞がった。

 もはやライオンに逃げる術はない。

 殺される。

 ライオンは己が死を悟った顔をしている。


「がぅ……」

「そんな顔するな。まるでワシが悪者みたいじゃろうが。ほれ、本当は持ち帰りたかったんじゃろ?」


 そう言うとポンタは、背負っていた肉の詰まった葉っぱを差し出す。

 それは自分が友好的な存在であるとアピールする為のプレゼントであった。

 そしてライオンは、ようやくポンタの意図を少しだけ理解できた。

 本当に少しだけであるが。

 だいぶ意味不明ではあるが。

 それでも敵対する意思がない事だけは伝わった


「ワシと仲よくしよう。色々教えて欲しい事があるんじゃ」

「がぅ……」

「ワシはポンタじゃ。ポ・ン・タ」

「?」

「ポ・ン・タ。ポ・ン・タ」


 ポンタは自分の胸を叩き、何度も名前を名乗る。

 言葉が通じなくとも、これで名前だけは伝える事が出来ると。


「……ポンタ?」

「そうじゃ、ポンタ! アイアムポンタ!」

「フレッド……」

「フラッド! オー、フラッド! ユーネームフラッド!」

「がぅ……」


 ポンタは笑いながら、ライオン改めフラッドの肩を叩く。

 フラッドはかなり困惑しているが、とりあえず異文化交流の第1歩を歩む事に成功した。


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