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異世界狸転生ぽんぽこ  作者: 白玖
第一章 狸生
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5 伝説の終わり

「……え? ここ……何処じゃ?」


 ポンタが目を覚ますと、そこは皆と集まっていた料亭ではなかった。

 駄菓子屋タヌキ屋でも、他の誰かの家でもない。

 そもそも周囲に建物が一切ない。

 そこは草木生い茂る、大自然のド真ん中であった。


「え? 寝てる間に誘拐された? ってか、ワシいつ寝た? 酔い潰れるまで飲んでないと思うんじゃけど……」


 ビャッコと四天王は最強無敵の存在である。

 およそ1000年の間、無敗を貫いてきた生きる伝説。

 その実力は長い時間をかけて磨かれた肉体と技能の結晶であり、もはやどうすれば勝てるのか分からないレベルである。


 そして鍛えた肉体というのは、筋量といった単純なパワーだけの話ではなく、内臓も含まれている。

 その為、ビャッコとタマ以外の3匹が飲んだ酒は、量にして樽10個分を越えていたが、それでも酔い潰れるには程遠い量である。


 もちろんそんな状態で誘拐される事もあり得ない。

 しかし今の自分の状況を説明するには、他に理由が思いつかないのである。


「ええーい! ボケるにはまだ早いぞ、ワシ! 思い出せ! ワシはシロちゃんに招待されて、タマちゃんと一緒に、妖怪が経営している高級料亭にやって来た! ネオとソラちゃんも来て、全員集合した! それから! それから!」


 ポンタは自分の記憶を、順々に思い返していく。


「そうじゃ! 確かシロちゃんに、良い人が見つかるまで現役宣言したんじゃ!」


                    ・

                    ・

                    ・


「しかし良い人か……カラクリ、イワナミ、ダイショウ。其方等も浮いた話の1つや2つないのか?」

(こっちに飛び火した!)

(そうだ! ここは最年長のポンちゃんに投げ――)

「年功序列――とは言わんが。ワラワが良い人を見つけるより先に、其方等が見つけるべきではないか?」

((先回りされた!))


 ビャッコはいつまでも伴侶を作らない皆の事を心配していた。

 1000歳を越えては今更感が強いが、揃いも揃って結婚経験0は、流石にどうかと思っているのだ。

 この中では1番若いが、皆の主として親心の様なものを抱いているのだ。


 そしてビャッコの問いに対して、ネオとソラはあからさまに目を逸らす。

 どう見ても良い人がいるようには見えなかった。


「何ならワラワの伝手で、見合いでもセッティングしようか? どんな相手が良いか言ってくれ」

「よ、余計なお世話よ! アタシは仕事が恋人なの!(アタシの冒険に付き合える相手なんている訳ないし。そもそもアタシ口の悪さを受け入れられる相手がいる訳ないもの……)」

「オレは仕事柄、特定の異性と付き合ったりするのは……な? そもそも、そういった欲求がある歳でもない」

「まあ無理強いはせぬが……カラクリはどうだ? 昨今は異類婚も珍しくない。機械だからと自身を縛る必要はないぞ?」

「いえ、結婚には興味がありません」

「そうか……」

「ですが子供には興味があります」

「子供?」


 それは後継機という意味ではない。

 生き物として新たに生み出された赤子に興味があるのだ。

 そしてそういった事に興味のあるタマに対して、皆は興味津々であった。


「子供かぁ。いいよな、可愛いよな」

「はい、機械の私には子供を作る事が出来ません。ですが子供の子守をしてみたいのです。猫型ロボットが子守をするのは、少し前から流行っているので」

「……はっ!」


 タマの顔は相変わらず無表情であるが、心なしかドヤ顔をしているように見る。

 それがタマの渾身のボケであると他の4匹が気付いた時には、既に笑うタイミングを逃してしまっていた。


「……滑ってしまいました」

「すまん! 歳のせいか、気付くのが遅れてしまったわい!」

「これは……あれだ! 時間差でくる奴だ! 数分後に思い出して爆笑するぞ!」

「ぶふっ! ……はっ、来たぞ! 今笑いの波が来た!」

「……」

「ごめんタマちゃん! そうだこれ貰って!(この前の冒険で手に入れた――っ!)」


 ソラは鞄から荷物を取り出そうとするが、何かを感じ取り手を止める。

 他の4匹も同様だ。

 そして一斉に同じ方向に振り向いた。


「何か近付いてくる……妖怪か?」

「センサーに反応あり。ですが有機物です。時速100キロオーバー」

「車……居眠り運転か何かか? 迷惑な話だな」

「人が楽しんでいる時に……消し飛ばしてやろうかしら(ぶつかったら建物が壊れちゃうし)」

「ならワシが対処しよう」 


 この間の会話で、1秒も経過していない。

 高速で迫る脅威を前に、5匹は冷静に状況を把握し、対策を立てていた。

 少々酔ってはいるが、それで揺らぐ最強ではないのだ。


 ポンタは皆を代表して、何かが迫ってくる方の壁際にある小窓に昇り、外の様子を窺う。

 すると眼前約3メートルの距離に、1台の大型トラックが迫っていた。

 タマの見立て通り、かなりの速度が出ている。

 ぶつかれば5匹のいる部屋だけでなく、建物が半壊してしまうだろう。


「問題ない、余裕じゃわい。じゃが建物は――」

「多少の破損は気にするな。ワラワが責任を取る」

「なら遠慮なく」


 ポンタは小窓から飛び降りると、右腕――もとい右前足を振りかぶる。

 狸の姿であっても、ポンタのポンポコ獣王拳は健在だ。

 トラックを止める事など容易である。

 あえて心配するとすれば、トラックを過度に破壊して、運転手に怪我をさせないかどうかだけだ。

 もっともそうなった場合は、運転手の自業自得である、怪我を負わせないに越した事はない。


(……ん? そう言えば運転席に誰も乗って無かったような……いや、それであんなスピードは出んじゃろ。気のせいじゃな)


 ポンタは一瞬抱いた疑問を無視し、壁をなるべく壊さない様に、右前足を振り抜く。


「ぽんぽこ獣王拳! 殴矛(オーム)!」


 ポンタが壁に狸の足裏程度の大きさの穴を空け、その足先から閃光が放たれると、向かってくるトラックと激突して、その勢いを相殺する。

 何も問題ない。

 他の皆は、そしてポンタ自身も、心配など一切していない。


 だがポンタの記憶は、そこで途切れていた。


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