第8話 僧侶ラグレイト3
「僧侶からの転職ですか? 」
ラグレイトは困った顔している。
「ああ転職だ、僧侶を辞めてもらう。強いこだわりでもあるのか?」
引退後に教会に勤めるつもりかも知れないが、分母が多い分簡単に教会で働けるとは思えない。
教会にコネでもない限りは無理だろう。
「それは……長い間僧侶しているので……その……魔法が使えなくなるのも……」
「回復呪文はもう全て覚えているのだろ? 転職しても魔法が使えなくなる事はない安心しろ」
「えっ本当ですか? でも50階にある転職オーブを手に入れないと無理では?」
「レア職業以外なら、レベル20以上になれば希望の職業に転職出来るぞ? 」
「えぇぇぇ本当ですか? 」
俺はゲームで知っているが、何しろダンジョン探索者は、転職に関する知識が乏しすぎる。転職すると前の職業のことを忘れて魔法が使えなくなるとか、転職のオーブを持っていないと他の職業に転職出来ないと思っている奴が多い。
遊び人から賢者に転職だけは、子供向けの物語として有名で知っている奴が多いが、戦闘職が他の職業に転職が出来る事を知っている奴が少ない。下手すると教会関係者でも知らない者もいる。
それほど教会で転職する奴がいないという事だ。
一般職は転職するだけのレベルが足らずに転職出来ないし、ダンジョン探索者は教会で転職が出来るという事の知識を持っていない。
ダンジョン探索者は、転職のオーブというものが存在しているのが原因の一つとしてあるかもしれない。
昔、知り合いの戦士が、ダンジョン探索者の生活に疲れて引退を考えて、一般職に転職するために転職のオーブを手に入れようと頑張っていた。
俺はそいつが持っているアーティファクトを引き取るのを条件に、教会で転職を出来る事を教えてやった。
もちろん簡単に出来るとは教えてやらず、転職のオーブの代わりになる物があるといって騙したけどな。
おかげで奴は念願の鍛冶屋に転職が出来て、俺はアーティファクトを手に入れた。ウィンウィンって奴だ。
「転職してくれるか? 悪いようにはしない、俺を信じてくれ」
「はい、それがダンジョン探索者として必要ならば!」
しばらくラグレイトと話し合った。
ラグレイトは19歳。元貴族の三男。
本などの物語の主人公に憧れていて、ダンジョン探索者になる事が、幼い頃からの夢だったそうだ。
就職の儀で勝手に僧侶になったことで家からは勘当され、ダンジョン探索者として地道に頑張っていたそうだ。
パーティーの解散と全滅寸前を何度か繰り返し、前のパーティーに入ったのは1年前だった。
前パーティーは魔法使いがいない脳筋パーティーで、僧侶のラグレイトにも前線に出る事を強要。それで戦闘を繰り返してレベルが31に上がったそうだ。
「鎧は作らなかったのか? 」
ラグレイトのローブはかなり傷んでいる。服が破れて血が付いている部分が多く、肌すら見えるぐらいだ。
「鎧って僧侶には鎧がつけれないはずでは? 」
「やはり知らなかったのか」
俺は僧侶にも革の鎧ならつけれる事を教えてやる。
「知らなかった……それなら傷つくことが少なかったのに」
傷だらけの身体を見る。
回復魔法でも、酷い怪我は傷跡が残る。
「ただ、ダンジョンで手に入れた革の鎧をそのままでは無理だ。防具屋でサイズを変えてもらうか、オーダーメイドで一から作るしかない。それなりの金がかかる」
革の鎧の値段を聞くとラグレイトは驚く。金属の鎧よりは高価だ。
「そんなにはお金がないです」
いくらなんでもダンジョン探索者なら、そのくらいの儲けはあるはずだ。俺は不審に思いよく聞くと、ダンジョンで儲けた報酬の大半を前のパーティーに取られていたそうだ。
理由としてはパーティー内の武器の整備費とポーション費用としてだか、どう聞いても不当な金額だ。
反対したとしても前パーティーの平均レベルが40超えていた。戦士や勇者や武闘家にレベルの低い僧侶が勝てる訳もなく、無理矢理納得させられていたそうだ。
ラグレイトはいいように使われていたのだ。
「それなら、解放されてよかったな。俺は報酬を誤魔化す事ないし不当と思うならいつでも言ってくれ」
「わかりました」
「それと、前のパーティーはラグレイトを追い出した事をすぐに後悔するだろうな」
「えっ? 」
「遊び人からの賢者に転職って言うのが悪手なんだよ」
「どっどうしてなんですか? 」
ラグレイトは驚く。
本を多く読み、物語の主人公に憧れているラグレイトならば、遊び人から賢者になる話は知っているはずだ。
遊び人から賢者に転職の話は、底辺から成り上がった英雄物語の主人公としては有名だ。
だがしかし、最初の職業で全てが決まる。転職するにしてもだ。それは戦士や武闘家、勇者は、10歳の就職の儀から15歳までに身長が190㎝になり体格がそれで決まる。それと同じで魔力も15歳までに固定される。つまり、元々が無能な遊び人は魔力の総量が少ないし、体格も低くなる。さっきの遊び人が身長150㎝ほどだったのがわかるように、戦闘職としては欠点だらけだ。いくら回復魔法と攻撃魔法を覚えようが、魔力がなければ使い物にならない。
「ならあの子は……」
「人生の無駄遣いをしている。きっと遊び人から賢者に転職した物語の主人公も、後で苦労しているか……あっけなく死んだはずだ」
「そんな……」
「最初の就職の儀で賢者が出て喜んで選んだ奴も同じだ。賢者と言うのは意外と魔力量が少ない。攻撃魔法と回復魔法を同時に使いこなせるほどの魔力がない。」
そして戦士や武闘家を最初に選んだ奴は、魔法使いや僧侶に転職しても役に立たない。
転職補正として魔力が0のままではなく、多少は魔力が増えて使えるようになるが、上級呪文が一回使えるか使えないかのギリギリの魔力しか持てない。
魔法使いならば上級呪文が10発撃ったとしても魔力切れは起こさない事から、どれだけ使えないかを想像して欲しい。
「なら僧侶は? 」
ラグレイトは食い気味に聞いてくる。
「僧侶は当たりの職業だ。肉体的にも魔力的にも平均値が高い」
僧侶は比較的魔力も多く、力も杖で戦闘出来るぐらいの力がある。
「よ、良かった、しかし転職するのは? 」
「僧侶はレベル30超えたら転職したほうがいいからな、他の職業に転職したほうが成長する」
前世の知識として僧侶は呪文も覚えきり、力と生命力が高くなったレベル30で転職するのが攻略サイトで進めていたやり方だ。
「どうして、そんなにも詳しいのですか? 」
ラグレイトは疑問に思っただろう。
「俺は知力の高い魔法使いだ、いろいろ人から情報を大金で買っているおかげだ。情報を制する者は全てを制す、ということだ」
実際には前世の知識のおかげなんだが、それを説明したところで信じるわけがない。
「すごいですね、僕は本を読んだと言っても物語だけで、ダンジョン探索者の事は全然知らなかったです」
ダンジョン探索者の情報は秘匿される場合がほとんどだ。
その理由が二つある。
一つは情報の価値があるから話さない。本に書くぐらいならば、沢山の人に情報を売った方が利口だ。
もう一つは広めるだけの知能がない。戦士や武闘家の職業を選ぶと知能が下がるから、重要な情報を知ったとしても気づかない場合が多く、本に書くための文字すら書けない。
魔法使いや僧侶そして賢者ならば気付くだろうが、ダンジョン探索者での優位は勇者や戦士や武闘家だ。発言を無視される場合が多くの情報が無視される。
「ところで回復の守りは持っているか?」
「回復の守りですか?」
「……知らないのか? アーティファクトだけど高レベルなダンジョン探索者なら持っている奴がほとんどだぞ」
「すみません、アーティファクトには触れる機会はなかったもので、ポーションとかの一般的なアイテムならわかりますけど」
レベルの割には知識が乏しいな。他のメンバーもレベル40越えならば知っているはずだ。
いや……もしかしたら他のメンバーは持っていたが、ラグレイトには教えなかったのかもな。値段も高いしラグレイトの分を買う気が無かったかも知れない。
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