7話 ライセンスカード
「あああぁぁぁぁ!?」
「ふぁ…どうしたの、おにぃ」
「柊!大変なんです!」
早朝のやや肌寒い時刻、目覚ましがわりのような大きな声がその路地裏に響き渡る。
声の主は、中村秋。只今大きな問題に直面していた。
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「あちゃー、これはまた、ひどいね?」
「はは…やっぱり野宿は危険でしたね。うん。なんかもう色々と精神が、やばいです」
「まぁ…身包み剥がれたり私たち自身被害があったわけじゃないし…これくらいで済んでよかったって考えればいいと思うよ!」
「確かに一理ありますが…うう、納得できない」
異世界に来て初めての野宿、朝起きたらお金をスられていた。
25000マートの内20000マートの被害である。保険のために別の場所に忍ばせておいた5000マートは無事だったが…。それでも、それが全財産だと考えるとあまりにも心元ないというものだ。5000で何ができるというのか。
「でも流石にカードまでなんて…!」
そう、ライセンスカードも取られてしまった。昨日発行したばかりなのにだ。
思い返していればライセンスがどんなものだったかも思い出せない…。一部記憶がなくなってるようだ。
「とりあえずもう取られたものは取られちゃったんだし…」
「はぁ…もういいや。取り敢えず昨日話したギルドに行きますか」
「おっけー!仕事を受けれたら、今日の損失もすぐに取り戻せるかもしれないしね」
「確かにまぁ、そうですよね…よし!頑張りましょう」
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ということで、冒険者ギルドに来た。
柊が方向音痴なこともあり少々到着に時間がかかったけれど…いつものことだしいいか。
「あ!よかった…!あなた達、昨日冒険者になったナカムラさん兄妹よね!いや、姉…妹?ーー」
「兄妹ですよ!」
「そうだったわね、まぁいいわ。あなた達に渡す物が…!」
「え…?」
「んー?何だろうね」
「詳しくはあちらの受付にいるピンクの子の所に行ってちょうだい。ちょっと…私は別の用事なので失礼するわ」
ピンクの子っていうのはあの子だろうか…どう見ても、人間じゃない。
…とりあえず行ってみようか。
「あっ!もしかしてナカムラさん?そうだよねぇ」
「はい、そうです…。それで、渡したいものがあるって聞いたんですが」
「あはは…今渡すから待ってねぇ…はいこれぇ」
そうやって僕たちの前に差し出されたのは…。
「「ライセンスカード!?」」
てっきり盗まれたものだと思ったけど…そうだ、よく思い返してみればそもそももらっていなかった。
「いやあ、きみらの魔力…ちょっと特殊で。色々と情報を移すのに時間がかかっちゃったんだぁ」
「そうだったんですか…?まぁ、異世界人だし仕方ないのかな」
「いやー焦ったよね!さっきまで盗まれたなんて思ってたもん…!」
「事前に伝えてなかったこっちのミスだよねぇ…うーんと、とりあえずそのライセンスの説明、きく?」
「あ、お願いします」
「ねぇねぇ!お姉さんってどんな種族!?」
「突然だねぇ…」
「…うーん、ほんと突拍子だなあ」
「なんてことはない、ただのデーモンだよぉ」
…デーモン?今デーモンって言ったのか、この人は。
デーモンって言ったらあれ、悪魔の…魔物じゃ。
「デーモンって悪魔だよね!?なんかすごいね!」
柊はいつでもポジティブだな…。でもやはり見ると、背中には小さな羽があるしその常に開いたような口からは鋭利そうな牙もある…。
でも、普通に誰も疑問に思っていなさそうだし、この世界ではデーモンは悪とかそういう存在ではないということなのだろうか。
「あんまり好かれる種族じゃないけど…ま、この世界も変わったんだよねぇ」
「…?なるほど」
「じゃ、このライセンスカードについての説明をするねぇ。まず、そのカードに触れてくれるかなぁ」
「こうですか…」
「うん、それでとりあえず頭の中で『開け』とか念じてみるといいよぉ」
頭の中で…
「開け!」
「…声に出さなくていいと思いますけど」
すると、二人のカードからステータスの映像が映し出される。
「おお!すごいよ!なんか先進的だね!」
「た、確かに…これって、ホログラムってやつですかね、多分」
この世界の文明レベルは中世くらいのものかと思ってたけれど…元の世界にない魔法とかスキルとかがあるから部分的には元の世界よりも進んでるのだろうか?
「見れたみたいだねぇ。一応念のために私も確認したいからぁ…右上に見える『共有』って書いてあるところを触ってみてよ」
「共有…これですね。他の人には見えないんですか?」
「勝手に覗き込まれると困るからねぇ、うん。確かに見た…よ?」
「悪魔のお姉さん、どうしたの?」
「悪魔はいらないよぉ…いや、君たちのステータスが結構特殊だなってぇ」
僕たちのステータスが?…まさか柊の言う通り本当にチート能力ってわけは…流石にないと思うが。
「柊のステータス、やっぱりこれって高いのですかね」
柊の攻撃力、20ちょっと。それで僕は2、十倍くらいの差がある。
そしてその言葉に「ふふん」と勝ち誇ったような顔で柊は答える。
「そりゃ、言ったでしょ!だからチートだって!いやぁ〜やっぱこういうのってあるんだねえ」
昨日ラバールに思い切りやられたくせにとかそういうのは言わないほうがいいか。
「うーん、でも確かに違うのかな?」
そこに首を少し傾げて受付のお姉さんが言う。
「うーん、勿論妹さんのステータス、異常すぎるほどに異常なんだけど…存外、お兄さんの方も普通じゃないとは言い切れないんだよねえ」
「え?それってどういう」
「えっとねぇ」
少し考え込むようにして、真剣な表情で声を抑えるように喋り出した。
「まず一つ、この世界では基本的にステータスの法則が決まっているんだ」
「法則…?」
「種族によって違うんだけど、例えばLv上昇ごとに上がるステータスの数値、レベルアップまでに必要な経験値の数とかね」
「なるほど」
「それで基本的にLvUpに必要な経験値が1Lvにつき200、これはLvが上がっても変わらないんだよね」
「あれ?経験値固定で、もう私達のレベルが2ってことは…Lvって結構簡単に上がるのかなぁ?」
そういえば僕たちの年だともう普通に90~100Lvに行く人もいるんだっけ…。
「そうだよ、まあこれに関しては問題ないけど、あなたたちの問題はステータスの方にあるんだよね」
「うーん、まあそうですよね」
「まず人間のステータスは幸運を除いて1Lv毎に攻撃や魔法とかが1ずつ上がるんだよね」
「?あれ、ということは…」
「妹さんの攻撃はLv2で20だったよね、つまり1Lvで普通の人間の10Lv上がっている計算になるんだ」
いや、それってつまり、柊は1Lv毎に他の人より9Lv強くなる計算で…。
待って、チートじゃないか!明らかに!
もし柊が100Lvになったとすると、その時の攻撃力は1000になるのだろうか?冗談じゃない。
…いやでも、僕のステータスも魔法に関する能力が地味に増えてるんだよなあ。流石に柊ほどではないが。
「わー!これからもっと強くなれるのかな!?」
「ほんと能天気…にしても色々とやばいですね…」
「まあそんな感じ、次の問題はステータスの偏りだね」
「偏り?」
「二人のステータスを見たところ、妹さんが攻撃と防御、素早さが目立つ物理完全特化、逆に魔法とMPは…普通の人間に比べても弱いと思うんだよね」
「ふふん!」
「…脳筋ですね」
「な!おにぃでもそれは言っちゃダメだよ!」
事実なので仕方がない、ステータスがそれを証明しているのだ。
「それでお兄さんは魔法特化型かな?魔法、精神、MPが多いよね。妹さんと比べると得意なものでもステータスに差があるから…基本安定って感じかな?でも、幸運のステータスだけモヤがかかってる。これはなんだろうね?」
「おにぃはMPが多いのがずるいなー」
確かにそんな感じなのだろうか?柊と比べると弱い気もするが…仕方ないか。そして確かに幸運のステータスが見えない。故障かな?
「そうですね、えっとそれでその偏りがどうかしましたか?」
「この世界には最初から個人に決まった才能はない」
「え?」
「この世界の基本の知識だけど…知ってる?」
「あ、ええ。知っています、確かやりたいことをやる事によってその行動にあったスキルが手に入って…?うーん、ちょっとシステムが複雑で覚えきれてないかもしれません」
剣を扱い続ければ自然とそれに関するスキルが手に入るし、魔法でも同様。何を目指そうとスキルで必要な要素が補われていって、だれでも何かしらの道を極めることができる…みたいな感じだったっけ。
「ちょっと心配だけど…簡単に言うと、最初からステータスに偏りができるわけがないってことなんだよね」
「あれ?じゃあ私のステータスはどういうこと?」
「僕のステータスも…少なからず偏りがありますね」
「それがわかればいいけど…とりあえず普通じゃ無いってことだよね」
「そうですよね…」
「そして最後」
受付嬢はそう言うと、先ほどまでの気の抜けたような目ではなく、獲物を狩るような…まるで蛇のような目でこちらを凝視した。
「あなたたちが異世界人だってことだよ」
「どういうこと…ですか?」
「異世界人の魔力はジオに適性がなく、ステータスやスキルを持つことはない」
「…」
「単刀直入に聞く、オマエラは…何者だ?」
悪意の篭った視線を送られた僕の体は、まるで何かが体を突き抜けたかのような感覚に襲われた。
「私たちが?」
「何者って…ただの異世界人ですよ!この世界のことなんて何もわかってないし…元の世界でだって、ただ普通に暮らしていた一般人です!ただ…それだけ」
冷や汗が滝のように流れ出てくる。下手したら僕たちは、ここで死ぬのかもしれない。
「…そう、やっぱりそうだよねぇ」
「え…?あ…」
そこには先ほどの悪意を纏っていない、ただ気の抜けた顔でこちらを見ている受付嬢の姿があった。
「いやぁあれだよ、念の為?ってやつ。『嘘感知』のスキルにも異常はなかったし。安心して大丈夫だよねぇ」
「あ、そう…ですか」
「なんかよくわからないけど怖かったよー!」
「ごめんねぇ?うーん、もしかしたら事例がなかっただけで異世界人の魔力でもジオに適合することもあるのかもしれないねぇ」
「ちょっとそこら辺わかりませんが…もう大丈夫なんですよね。他に説明ってあったりするんですか?」
「そうだねぇ、ホログラムの左上にHELPがあるから、そこを見れば分かると思うよぉ。全部説明すると数時間かかっちゃうし、その方がいいよねぇ?」
「そう、、ですね。ライセンス、ありがとうございました!それでは僕たちはこれで…」
「え!おにぃ、なんか忘れてない?」
何か忘れ、これで…あれ?
ここにきた目的ってなんだったけ?そうたしか、依頼を受けに来たんだ。
ライセンスカードの件ですっかり忘れていた。
「ここに依頼探しにきたんだった!忘れてました…」
「おっと、そうだったんだねぇ…折角だしわたしが見繕ってあげるよ」
「ありがとうございます…できるだけ危険性のないもので」
「あなたたち兄妹のステータスはLvに対して高いってだけで、正直言ってステータスだけで見るとかなり弱いから…これ、薬草採取なんてぴったりだと思うんだよねぇ、どう?」
「おお 薬草採取ってなんか定番だよね!おにぃ、これでいいよね?」
「異論はありませんよ」
結構簡単に受けれるものなんだなあ…。いつか僕たちでもアーリエの討伐をしたりするようになるのだろうか。
「そうそう、初めての依頼だと思うから説明するけど、依頼を受ける際はこのデータチップをライセンスカードに入れるんだよねぇ」
「チップ?なんか丸っこいなあ、こんなのあるんですね…」
「入れるってどこから入れるの?」
「普通に、カードにチップを当てればいいだけだよぉ」
まあとりあえずやってみようか、チップをカードに当てるっと…。
カードに触れたチップは粒子になってカードに吸い込まれていった。
何か変わったのだろうか、とりあえず中を見たほうがいいのかな…「開け」って念じれば情報が見れるんだっけ。
「あ、何か追加されていますね」
「クエストって書いてあるよ!」
「クエストを選べばいいのですかね」
上からプロフィール、ステータス、スキルと続いてその下にクエストと書かれている。
「二人とも大分カードの操作にも慣れてきたかなぁ?クエストの欄にはクエストの目的地、クエスト達成の条件、目標の詳細、報酬金額、達成期限とかまあ色々書かれてるんだよねぇ」
「すごいよ!なんか本当に冒険者になったって感じがするよねー」
「はは、確かにそうですね。予想以上にこのカードもハイテクというか便利というか…」
「ちなみにクエストの欄にあるワープをオンにすればクエスト達成時とかにギルドにすぐ戻ってこられるから、覚えてた方がいいよねぇ」
このカードにワープ機能まで?一体何がどういう原理でそうなるんだろう?いや、魔法に説明を求めるなんて方が無粋なのかな…。
この世界で驚くことはこれからももっとありそうだ。
「これで依頼に関しても説明できることはないねぇ」
「うーん、ではそろそろ行きましょうか…色々ありがとうございました!」
「わかった!おねぇさんありがとね!」
「どうもぉ、クエスト気をつけて行ってきてねぇ」
というわけでこれで仕事を引き受けることができたし…今日から本腰入れて頑張らないと。
この異世界はやっぱりまだ覚えることとか多くて大変だけど、人間なんだかんだ言って慣れる生き物だし、なんとかなるかな。




