17話 不穏
『砲撃準備ノ開始。セーフティ解除、TEN……』
「おいおいどうする!あの野郎シェルターに!」
こりゃ本格的に不味いな、あんな何メートルもある砲がレーザーを放ったら、きっと地面を貫通してシェルターにいる人達に危害が及ぶ。アーサーはもう片方の砲台でマークされてるし…俺がやるしかないか!
『SEVEN……SIX……FIVE……』
「うおおおぉぉ!当たってくだけろ!」
レイ本体を押し上げて……軌道をずらせばいけるか!?
『TWO……』
「スキル『テンション』!大空に打ち上げろぉぉぉおお!」
緊迫した状態であるほどに能力が上昇する技能スキル『テンション』で彼の強さは通常の四倍となっている。その手に持つ杖を乱暴にレイ・ディザスターの胴体に打ち付ける。
「いっけぇぇぇぇえええ!」
しかしその機械のような体は固定砲台と言われるだけあってせいぜい動いて数センチ。万事休すかと思われたが、その少しのズレが効いたようだ。
『ONE………。ERROR。7センチ軌道ノズレ。原因究明…人物データ再スキャン、ネーラ・オルディス。砲撃対象ヲ変更、優先度ノ上昇』
「ふぅ…よかったぜ、俺は精密機械の扱いが得意なんでな。どんな物も殴ればなんとかなる」
「助かった!ありがとうネーラくん!」
「お互い様ってことよ!まだ気は抜けないな」
これをあとどれくらい退け続けられるか。……というかアイネさんはどこへ行ったんだ!?さっきから姿が見えねぇ。
『連射砲装填……発射』
「うぉお!?いきなり撃ってくるな!」
なんとか咄嗟に避けれたが、やはり一筋縄じゃ行かないな、こりゃ。
「どうやら左の白い砲がパワー型、右の黒い方が連射型のようだ!」
「なるほど!分析ありがとよ、アーサー!」
「どういたしまして!」
「ははっ、そんな力強くどういたしましてって言うか?行くぞアーサー、俺たちの力を見せつけろ!」
「無論、言われずともだ!」
『連射砲準備……装填完了、発射。TEN……NINE……EIGHT…』
まじかよ!連射しながらカウントダウンとかなかなかきついことしてくるな!
「うくっ!連射砲を受け流すだけで精一杯だ!」
「そのまま持ちこたえてくれアーサー!俺がなんとかする!」
「任せる!」
さて…任せろって言ったがどうしたものか。「テンション」は使えない、五分毎に十秒が限界だしな…。
このままじゃどっちもあのパワー砲の餌食、任せろなんて軽率に言うものじゃないな。
『FOUR……THREE』
その時だった。
「あれは……まさか!」
空高くから、急降下している何かがいた。
それの距離が地表に近くにつれ、だんだんとシルエットが見えるようになる。……大剣を抱え頭から落ちる羽の生えた少女の姿。
「アイネさん!?」
声が届いたのかわからないが……アイネさんは急降下しながら親指を立てる。
『ONE……』
地表スレスレのところで剣を手放す。そして彼女はふわりと宙に浮いた、そして落ちる剣の向かう先は…。
『ZEL──!?物体ノ衝突、DAMAGE!!DAMAGE!!異常事態ハッセイ……異常ジタ──』
ズシン… という音と共に、レイ・ディザスターは地面に伏した。
数秒経っても動く気配はない。
「「やったか!?」」
ーーーーーーーーーー
〜地下シェルター〜
「ねぇ!音が止まったよ!?」
「えぇ……確かに止まりました!」
そうすると、柊はうずうずしていても立って居られないような状態で──
「ごめんおにぃ!確かめてくるよ!」
柊は走り出して、シェルターの外へ行ってしまった。
「待って!ちょっと……待って!」
そしてそれを追うように秋もシェルター外に出てゆく。
「お、おい君達!外は危ない、戻って来なさい!」
「すいません!すぐに戻ります!
「あっコラ!」
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「いやしかし助かりました。アイネさん、ありがとうございます」
「俺からも……アイネさんが居なきゃ今頃死んでぞきっと」
「いやーまあ私も勝手にいなくなってごめん。察されるとまずいからね、しかしそれよりも驚きなのは……」
アイネは地面に頭を埋め、静止したレイ・ディザスターを見る。
何千の高度から大剣を落としたと言うのに、その黒く輝くボディーには傷一つ入っていない。どちらかと言えば衝撃のダメージが強かったのか。宇宙から来た生命というのはわからないことが多すぎる、元から住む生物にすらわかっていないことが多いので尚更であろう。
すると、向こうから走り音が聞こえる。
「おーい!みんなー!」
走りながらこちらに向かってくるのは中村柊であった。
「おい……待ってろって言ったじゃんか!?」
「気が早いよ、もし倒されていなかったらどうするんだい」
「ごっ、ごめん!どうしても気になって!」
そしてそれに続く様に中村秋もやってきた。
「ゼェ……ゼェ。はぁーっ…勝手に行かないでくださいよ!」
「あ、ごめん」
「おい兄妹揃ってかよ」
「すいません、柊が勝手にいって」
そして、秋は乱れた呼吸を整えるとレイ・ディザスターの方を見る。
「これが今回の騒動の原因ですか?機械、ですよね。十メートルくらいある……」
「なかなか手強かったぜ、玉の横に落ちてる長いのがレーザー砲だ」
そして、その中怪訝そうな顔を顔をした人物、ラクトは兄妹の方を見て何か思い出そうとしているようだ。
「すまないけど…そこの姉妹の方、どこかで会った事があるかな?」
「え?……ああっ!?ラク…ト?さん」
「なぜ疑問形は分からないがやはりそうだったようだ」
「知ってるよ!冒険者学校にいた勇者さんだよね!」
「……ああ!完全に思い出した、すまない。姉妹ではなく兄妹だったな」
その後、互いの経緯を話し合った。
「なるほど、ではこの二人は君たちのパーティなのか!二人とも強くて助けられたよ」
「というか、本物の勇者だったんですね。実は少し疑ってました」
「何を言う!?」
「あー、確かに胡散臭かったかも」
「な…!教えてくれ、なぜそうなったのだ!」
「そりゃだって──
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話が済み、シェルターに討伐報告をしに行こうとした…その時だった。
「ねぇ、見てよあれ!レイから黒い靄が出てるよ」
「え?本当だ、何だろうねアレは」
「まさか…!この禍々しい気配は」
レイ・ディザスターの方を見ると、全身からドス黒い靄が噴出している。
そして…それはやがて実体を形作る。
「あれはなんだ!?ゆらゆらして…」
「アレは…もしかして!」
「うん!」
二人には見覚えがあった……そう、日本人ならよく知られているモノ…。
それは揺ら揺らと、ふわふわと宙を彷徨う、青白い炎。
「「ヒトダマだ!」だよ!」