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中村(仮)  作者: 柚根蛍
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15話 ディザスターの脅威

「はぁ…それで、どうすっかな」


 ネルはまるで「考える人」の様に、膝に腕を立て掛けて思索する。


「どうしましょうか…」

「暇だねー」


 アキ、ヒイラギもまた例外ではなく。そこには考える人が三つあった。


「市場を見て回ればいいじゃないか、毎日違うものがやってきて面白いよ」

「と言われてもな…」


 パーティは今、滞っていた。ペイルに来て既に六日経っているというのに、船が来ないのだ。

 アイネ・スペンサーの提案と兄妹の賛成もあって大和大陸に行く事になった、のだが。その船が来るのがあと四日後ということらしく、ペイルを楽しみきったパーティは暇に襲われ、広場のベンチで惰性に明け暮れていたのだった。

 一人、アイネを残して。


「全く、何か君たちにはやることがないのかい?」

「大体な、ペイルって国とか言ってるが小さすぎなんだよ。むしろちょっと大きいくらいのただの街だ」


 何を言ってるのかとアイネは思った。


「ペイル本国はエルムにあるじゃないか、ここはただのペイルの一領土に持つバザールにすぎないよ」

「うっそだろ!?でかすぎだろ…」


 と先程とは打って変わって掌返しをする。


「だいたい君たちが見て回ったのは中心部だけじゃないか、本当に隅々まで見たなら今座ってる君たちはまだ見て回ってることになるけど」


 と少し皮肉な感じでネルを窘める。

 彼女に言わせれば、まだまだ足りない、ひよっこ…いや卵、むしろまだ親鳥の腹の中だ。


 そうして兄妹にも視線を移す、二人も同じく先ほどの話を聞いていたのならば耳が痛いはずだ。


「君たちはやる事ないのかい?」


 その問いに対してやる気ない声で二人は返す。


「僕はさっきまで歩いてたんですけど…疲れて休憩中です」

「太陽が暑いよ…しばらく陰で休んでもいいよね」


 確かに二人の言い分には理解できるものがある。「やれやれ」と彼女自身もベンチに腰掛ける。

 その時だった。バザールに緊急アナウンスが流れ出す。


 突然のことにパーティは動揺する、サイレンの音と共に警報が聞こえる。


『『緊急!緊急!荒野地帯のレイ・ディザスターが動き出しました!至急全員避難してください!繰り返します、至急全員直ちにシェルターに避難願います!』』


 すると突然地面に敷き詰められた石材が動き出し、大きな地下シェルターが現れる。

 一体全体何が起こっているんだ!?秋と柊は言葉にならない驚きとともに、周りの音を聞く。


「おい兄妹!行くぞ!」

「え!?えっ!?」


ーーーーーーーーーー


「逃げろ!逃げろ逃げろーーーー!ディザスターが動き出した!」

「並んでシェルターに入ってください!押さないでください!」

「うっせぇこんな状況で譲り合いなんかできるか!早く逃げなきゃ死ぬかもしれねーぞ!」

「そうだそうだ!」


 一体何が起こっているのか、訳も分からない状況で僕たちはシェルターの中へと入ることになった。


 そして、そこでこの世界についてのあららな事実を聞くことになった。


「なんですか!?さっきの警報…一体何が!」


 いつもの真面目な感じとは打って変わって感情をむき出しにする、秋の頭の中は今、混乱で埋め尽くされている。

 それに関しては無論柊も同じ様な焦りぶりであり、兄と反していつも高いテンションは逆に抑え気味になっている。


「まぁ、まずは落ち着け二人とも」

「そうだね、とりあえず説明するから」


 逆に元からこの世界の住人であるネル、アイネの二人は冷静であった。それはこの世界の住民の反応というわけではなく、ただ二人がそういう態度を取っているだけでしかない。

 その証拠に、先程のようにバザールの人達は避難命令が出た瞬間。皆が同じ様に騒ぎ立て、狼狽し、理性を失ったかのようにシェルターを目指していた。

 今も尚、周囲を見やると泣いてる子供にそれをみて落ち着かせようとする母親、蹲って怯えている人がいる。

 二人の落ち着きようは異常なのだ。


「説明するよ…さっき聞こえたレイ・ディザスターって言うのは、簡単に言えば超強いアーリエさ」

「マジで簡単に、だな…」


 アイネの説明にネルは苦笑いするしかない。


「レイっていうアーリエ、聞いた事あるかい?」


 そう問われた兄妹には心当たりがあった。最初にいた街、エラリス。街の周囲に広がる草原には魔物、アーリエなどの様々な生き物が住み着いていた。

 その内に、レイというアーリエがいたのを憶えている。


 二人が街で初めての討伐クエストを受けた時、その討伐対象となっていたのがレイだった。

 その姿は真っ白な機械で出来た球体のような、まるで無機物の様な生き物。球体にポッカリとセンサーの付いている眼球があり、弱いレーザービームを放ってくるという相手だ。

 正直あまり強くはなく覚えている方が不思議だったが、その後もレイに関するクエストや大量発生などもありなんとか覚えていたという感じだ。


「それで、そのレイに関係が?」

「そのレイの親玉が今回のディザスターだ」


 なるほど、今回の一連の流れにはその親玉が関わっているのか。

 それでも── 


「レイの親玉…ですよね?いくら強いと言ってもLvは千とちょっとくらいでは?」

「なるほどね、君のその考え。間違ってはいないよ…でもね。そのレベルに不釣り合いなくらいに圧倒的に、強いんだ。なにせ災害(ディザスター)なんだからね」


 災害、自然的であったり人為的であったり。人間に悪影響を及ぼすものであり地震、津波、大気汚染。それくらいのものである、一匹のアーリエだけでそんな大規模な被害を及ぼすのか…?

 俄かには信じがたい話だ、というか信じたくもないと言う方がいいか。


「さて、その強さはどれくらいかと言うとね。…この近くにあった封鎖された荒野はわかるだろう?あれ、なんで荒野になったのか分かるかな?」


 まさか…


「待ってよ!その言い方じゃまるで…」


 その言葉を無視するようにアイネさんは話を続ける。


「広野は’’円’’の形をしてるんだけどね。さて、ここでクイズ。その荒野の真ん中にいるのは何だと思う?」

「意地悪だなアイネさんは、そんな焦らさずに普通に話した方がいいと思うぜ?からかい過ぎだ」


 そういって、少々呆れ顔で苦言を呈する。それに対して渋々とアイネさんは話す、まるで悪戯が失敗してバツの悪い子供の様な顔であった。


「わかったよ…荒野の真ん中にいるのがディザスターだ。レイ・ディザスター、別の名前を「縄張りの超固定砲台」レイの周りに半径20kmもの荒野が出来ているのはレイの縄張りってことを示している。実際に実験された記録では最高25km先まで正確なレーザー砲を放つことができ、縄張りに入った時点で即アウト。そこから5kmを一瞬で逃げなければ焼き殺される。つまり絶対死ぬってことだ」

「な…」


 それはもう生物兵器のレベルとか、そういう次元を超えていないだろうか。え?

 さっきのアナウンスって…。


 そこで二人は気付く、今自分たちがどのような危機的状況に置かれているのかを理解する。当然顔面蒼白だ。


 そうだ、先程のアナウンスはこう言っていたのだ。


『『緊急!緊急!荒野地帯のレイ・ディザスターが ”動き出しました!”』』


 先程の人達の慌て様も理解できる、理解できない訳がなかった。

 

「んまぁ、そんな訳だな」

「とりあえず今はシェルターに居るから多分安全だと思うけど、気は抜けないね」


 とそこで二度目のアナウンスが告げられる。


『『レイ・ディザスターは街に接近!Lv1300以上の冒険者様がいたら、至急シェルター右手奥の特別会議室にお集まりください!』』


 これって…もしかして!


 アナウンスが終わったかと思うと、ネルとアイネさんは立ち上がる。


「ごめんね、どうやら私たちの出番みたいだ」

「全く、人遣い荒いっての。悪かねぇけどな」


 それを見て、まず先に柊が動き出す。

 ガシッとアイネさんの腕を掴む柊の顔は不安でいっぱいだ。


「ねぇ!待ってよ…!なんで!?なんでアイネさん達は…」

「そうだよ、そんな化け物相手に…勝率はあるんですか!?」


 しかし二人の問い掛けに対する答えはあっさりとしたものだった。


「なに暗い顔しやがる、信用してりゃいいんだよ。信じてくれれば俺は死なない」

「ボクがディザスターに負けるなんて思ってるんなら、その認識書き換えてあげるよ。”今から”ね」


 二人の顔は、笑っていた。…なんでそんな。こんな状況で。


「ボクたち、強いんだ。悪いけどね」

「つーわけだ」


 たった、その言葉だけで僕達の制止を容易く振り切った二人は、そのまま僕たちの元を離れて行った。

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