12話 出発
「さーて、まずどこに行きたい?」
ギルド内のカフェスペース。その一角にある机の上には世界地図が広げられていた。
「へぇ…この世界ってこんな感じになっていたんですね」
「五つの大陸があるんだねー」
「中央大陸、大和大陸、暗黒大陸、魔大陸、エムル大陸の五つがあるぞ」
「今ボク達がいるのは中央大陸さ。この大陸にはエラリス、タムレット、ペイル、ホーテムの四つの国があって、この街はその中のエラリスの領土の街っていう位置付けだね」
「へぇぇ…暗黒大陸、魔大陸、エム…大陸って言うのはどんなところなんです?」
「ボクはエムル大陸と中央大陸しか行ったことがないんだよね。ネルくんは他のところ、行ったことあるかい?」
「ああ、一応全部の大陸は行ったぜ。ただ観光とかそういうんじゃなかったけどな」
「へぇ…すごいですね」
「私は大和大陸が気になるなぁ…この大陸の他の国っていうのも気になるかも!」
柊と意見が分かれたなぁ…。まぁ正直全部見て回ってみたいっていうのはあるけど。
「そうだな、暗黒大陸はかなり昔に滅びた大陸って話だ。大陸の30%が滅びの大穴だったか…になってる。昔は帝国っていう国が栄えてたらしい」
「ルインホールっていうのは?」
「それに関してはボクの方が知ってるかな…二百年前、その帝国は一つの爆弾によって滅びた。その原因はルインゴーストっていう奴の仕業だって言われているね」
「ルインゴースト…!?わからない単語がいっぱい出てくるよ!」
新しい大陸の名前に、ルインホールとルインゴーストとかいうよくわからないものまで。
これからこの世界だけの単語を覚えていくってなると何かと不安も残るものだ。
「まぁ今はいいだろ、それで話は戻って魔大陸だ。魔大陸は文字通り魔物の住んでいる大陸って感じだな。今となっては人間でも住めるようにはなっているんだが、それでも法律が異なったりするとこもあるし完全に安全ってわけでもないな」
「前から…思ってたんですけど。この世界では魔物って一体どういう存在なんですか?」
「ああ、そこも説明しないとだね。この世界においての魔物っていうのは異種族みたいなものさ」
「敵だと思ってた…!?」
「いや、グラニアさんとノーデムさんとか魔物だからね…」
「うん、実際は昔は敵だったんだけど、色々あって今は共生しているんだよ」
「ま…俺たち人魚も一応魔物だからな。人間を襲うような種族ではなかったけどな」
「そうだったんですね…」
これまで見た魔物は、確かこっちに来て最初にあった人もオークだったけ、それに続いて悪魔、ハーピー、人魚。街中ではゴブリンやゴーストもいたっけ。あれ、でも…
「なにやら難しい顔をしているね?」
「いや、魔物と共生関係にあるのに僕たちはいつも戦っています。アーリエっていうのは魔物じゃないんですか?」
「ふむ…そうだね。これも説明が長くなるから簡潔に言うけど、言うならば外来生命体ってやつだ」
「外来生命体?」
「200年前にね、突如としてアーリエたちは現れたんだ。空からね」
「空?」
「多分別の惑星だ。彼らはこの星を乗っ取ろうとしてきたんだけど、なんとか退けたって感じ」
「ずいぶん簡潔な…」
「それで人類含め魔物、他種族はこの星を守ることに一応成功したんだけど、完全ではなかった。そのアーリエ達もこの世界に住み着いちゃってね」
「ああ、それで繁殖したりして今に至ると」
「結果的にアーリエ達もこの星に慣れちゃってね、愛玩生物や家畜になるのもいれば、今も尚この世界の種族に仇なす奴らもいるって感じ。それでも別の星の生物っていうのは科学者たちにとって興味深いらしくてね、種を根絶させずにいろんなところで素材や研究に使われているんだ」
へぇ…つまりアーリエは宇宙から来たエイリアンってことか。うん?じゃあエイリアンとアーリエ《Alie》ってそういう…ずいぶん単調な名付け方だな…。アーリエンの方がなんかネタっぽい名前だけど。
「こんな感じ、そろそろ話を進めないと時間が過ぎちゃうよ」
「ああ、そうだな。お前達もわからねぇことだらけだろうがまぁ今は我慢して聞き流してくれ」
「わかったー」
「それで最後、エルム大陸ってのは魔物を含まない人間以外の種族が住むところって感じだな」
「ええと、どういう?」
「エルフ、ドワーフ、獣人、妖精とかまぁそこらだな。アイネさんもそこら辺出身じゃないのか?」
「うん、そうだよ。妖精族の住む森があるんだ」
「はええ…なるほど」
「大体大陸を種族ごとに分けると考えやすいですね」
「そうだな。それで次はどこに行くって話だが、今俺たちのいるエラリスの領土はこの中央大陸の中心だ。つまり他の大陸に渡るには、港があるタムレット、ペイル、ホーテムのどれかにまず行く必要がある」
「なるほど、それぞれの国がどの大陸に繋がっているんです?」
「タムレットはエムル大陸、ペイルは魔大陸と大和大陸にエムル大陸、ホーテムは魔大陸と暗黒大陸だな」
「やっぱりペイルからが一番行きやすいよね」
やっぱりどの大陸に向かうかでどこの国に向かうかも変わるか…。まぁこの中央大陸の国をまずは全部見て回るっていうのもありだけど。
「各国の特徴としてはタムレットは農業や家畜業が盛んで、この世界の20%強の食料を生産している。ペイルは世界の市場と言われていて、世界中から様々な品物が流れてくる。ホーテムは帝国主義の軍事国家って感じで、一番の戦力を有している。戦争は最近してねぇけど、領土は一番持ってるな。んでここエラリスは冒険者による自主的な統治が行われいる冒険者国家だ」
「へぇ…うーん」
「ボクとしてはペイルがいいかな。必要ってわけじゃないけど気になる事もあるし」
「私は…決まらないや」
「俺はアイネさんに賛成だな。アキはどうだ?」
「まぁ、行き先が一番多いペイルっていうのは僕も賛成です。この世界を見るにあたって流通の多い国は都合がいいっていうのもありますし」
「んじゃ、決まりだな。まずはペイルに行って、そこからまた決める!中央大陸にある別の国に行くのもいいし、他の大陸にそのまま行くのもアリだ!ただペイルからだと暗黒大陸にいけねぇからそれだけは注意だな」
というわけで、まずはエラリスからペイルに行くことになった。
「おっけーわかったよ。それじゃ出発はいつにしようか」
「そこはまだ慣れてない兄妹に任せるぜ」
「ありがとうございます、柊。どうしましょうか」
「えっと…もう今からでもいいんじゃないの?」
「今から!?」
うーん、準備とか色々…流石にそれはできないだろう。
「いいんじゃないかな」
「いいと思うぜ」
「あれっ、いいんですか?」
「ボクは荷物がほぼないからね。妖精だから生活必需品もいらないし、持ってるのはこの剣だけで十分。スキルで一応荷物も少しはしまえるしね」
「それって次元の収納ですか?」
「そんなすごいスキルじゃないさ、その二つくらいの下位互換だね。クローゼット一個分くらいの荷物までは入るよ」
「俺は常に旅してたしそういうのには慣れてるぜ。このリュックに収まるくらいで調整してたしな」
そういう彼のリュックサックを見る。どっちかというとバックパックみたいだが…至る所から色んなものが溢れそうになっている。大丈夫なのだろうかあれは…。
「いや、うん。大丈夫ですか?それ」
「いや!ダメだな!」
「ダメじゃん!」
と柊からツッコミが入る。色々ボロボロだしこれは…。
「よければその荷物、僕が預かりましょうか?」
「あ?いや、重いぜこれは。気なんか使わなくてもいいんだぞ」
「一応スキルがあるので…」
そうだ、僕が最初に開放したスキル「次元の収納」だ。あれがあれば制限なく物を保管出来る…ってグラニアさんが言ってた。
「スキル?」
「次元の収納ですよ、僕と柊の荷物もしまってあります」
「おいおい、まじかよ!レアな方のスキルじゃねぇか!それは助かるな、お言葉に甘えて預けさせてもらっていいか?」
「ええ、もちろんです」
というわけでネルさんの荷物は僕が預かる事になった。いやしかしスキルというのは本当に便利だ…。これがあればいくら買い物をしたっていいのでは?
我ながらかなりの便利スキルを解放したなと感心してしまうほどだ。慢心はいけないがこれくらいはいいと思う。
「すごいスキルを持ってたものだね。それがあれば今後の旅の心配もかなりなくなるんじゃないかな」
「ふふん!すごいでしょー?」
「柊が自慢することじゃないと思うんですけど…」
「とりあえず、これで決まりだ!今から行くぞ!」
「わかったよ、じゃあとりあえずギルドの方に報告しようか。まだ方針のことも伝えてなかったよね?」
「あ、そうでしたね。では行きましょうか」
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「まぁ、という感じになりました」
「いきなりですねー、まあとりあえずの事情はわかりました。では、そこの機械にカードをかざしてください」
「あ、わかりました…えっとこれでいいですか?」
「はい♪旅目的のパーティですと、通行料が無しになったり国や大陸の行き来の規制が緩和されるようになります。そのライセンスカードを見せれば大体はなんとかなりますよ♪」
ここで早速パーティの恩恵か…確かにすごく便利だ。
「それと取り敢えず、もしもの時のために通信機を渡しておきます」
「通信機ですか?」
「旅の途中困ったことがあったりすることがあればギルドの方に連絡していただければ、解決できることがあるかもしれませんので」
なんというか、至れり尽くせりだな…。
まだ特に活動もしていないのにこんな待遇、いいのかちょっと心配になってくるレベルだ。
「それじゃ、もう行っても大丈夫かな?」
「ええもちろん、しかしアイネさんも旅とは明日は滝が降りますかね?」
「笑えないよ…というか君はボクをなんだと思ってるんだい」
「さぁ…そういうことはご想像にお任せしますね♪」
「全く…それじゃ、みんな。行こうか」
「お、おう。とりあえず案内は俺に任せとけよ!」
…そうして僕たちの冒険は始まったのだった。