11話 パーティ結成
「お、来たね」
客室に入った瞬間、その声が聞こえた。
「君達…だよね?パーティを募集していた兄妹っていうのは、あ。とりあえず座ろうか、引き止めて悪かったね」
「あ、わかりました…」
そう言われ、僕達は椅子にゆっくりと腰を下ろした。緊張しているのか、柊の動きがいつもより少しぎこちなく見える。…他の人から見れば僕の方がそうなのだろうけれど。
「えっと…あなたがパーティに入りたいっていう?」
「うんうん、そうだよ。君達…姉妹だったかい?」
「い、いえ。僕が兄でこっちが…妹です」
「妹の柊です!」
「おや、姉弟じゃないんだね…失礼。お兄さんに悪かったね」
「よく間違われるので慣れっこです。気にしないでください」
慣れているのは事実だがやはり間違われるのは気持ちがいいものではない…と言いたいところだが、正直に言って容姿で見ると僕が妹で柊が姉って感じなんだよなぁ…。この前街を歩いてたら鏡に映っていた自分達がまさにそんな感じで。兄としての威厳というか他にも色々失っている気がする。
「それで…あーと」
「おおそうだった、名乗り遅れてしまった。私はアイネ・スペンサー。見ての通り妖精族だよ」
「妖精族…初めてみたー!すごいなぁ…」
「うん…」
妖精と名乗る彼女の容姿は非常に幼い。髪はサラサラとした緑色のストレートヘアーであり、目はまるで琥珀色、いや。本物の琥珀が埋め込まれているかのような輝きを持っている。その背丈は小学生低学年ほどであり、そしてそれらの容姿から全く似ても似つかないような太く大きな大剣を背負っている。
そして一番目につくのはその胸に埋め込まれたような水晶…?それは鮮やかなエメラルドのような色をしており、不思議な光をまとっていた。このまま何時迄も眺め続けれるのではないかと思ってしまうほどである。
「おっと、一応言っておくけど…ボクは子供じゃないからね」
それはそうだろう、容姿こそ幼いが雰囲気と言うのだろうか。彼女から溢れ出るこの空気、よくわからないがカリスマとでも言うのだろうか?それは長年経験を積み重ねてきた者の発するものであった。
「まさかあんなパーティ募集にこんな人が来るなんて…大丈夫かな」
「そうだねー緊張しちゃうよ…」
「あまり気負わなくていいんだよ?」
「それで、あと一人はどこに?」
「一人?ボク含めて二人だったんだね。ごめん、そのもう一人とは面識がないんだ。多分遅れているんじゃないかな?」
「あ、二人っていうものだからてっきり二人組で来るものかと…」
「うーん、誰だろ」
その時だった。
廊下の方でバタバタという慌ただしい音が聞こえる。その足音は僕たちのいる部屋の前で止まった、そうするとドアノブがガチャリと動き、勢いよくドアが開く。
「やー!すまねぇ!遅れちまった、申し訳ねぇ!」
息を切らせた男性が入ってきて、そして椅子に座った。
「貴方が二人目の…」
「お?ということは俺以外にももう一人…。俺の隣に座ってる嬢ちゃんか?」
「いきなり子供扱いとはひどいじゃないか。ボクはこれでもれっきとした妖精なんだけどね」
「はぁ!?妖精って…人型に近い妖精でこんな大きいのは見たことないぞ」
「僕はマテリアルさ。胸の水晶がその証拠だよ」
「それでも大きいな…。おっとすまねぇ、あんた達が…パーティ募集の?」
「あ!はい、僕は中村秋。それでこっちが中村柊。妹です」
「あー!おにぃ、私にも言わせてよ!」
「あぁ…ごめん」
「うーん…どうやら色々事情があるようだな。俺はネーラ・オルディスだ、ネルって呼んでくれ、名前からしてヤマト出身か?」
「ヤマト…?日本?」
「ニホンっていうのはわからねえが、こっちより東の方にヤマトって大陸があるんだ。他の国と違ってだいぶ景色も違うんだぜ、サクラって花が綺麗ってよく話を聞くんだ。名前の形式も他国と違うらしい」
なぜ?ここは別世界のはずだ…なのに。ヤマト…大和は日本の別名であり、古来日本は大和という名前だった。これは偶然では済まされない…となると。転生者?この世界に来た転生者が開拓したっていう説なら考えやすいが…なんにせよ今は考えても仕方がない、か。
「そうなんですね…」
「知らないってなると、あんたらは転生者ってやつか」
「そうだよ!」
「一ヶ月前にこの世界に来たんですよね…」
「でもおかしいな」
「ボクもそう思うよ。転生者なのに君たちはステータスを持っていて、スキルも使えるんだろう?」
「それが、僕たちでもわからないんですよね…」
「そうかい…ま、いいや」
「色々わからないことがあるが、まぁあんたらは悪そうじゃないし大丈夫か。おっとそうだった、俺の種族を言ってなかったな。俺はマーマンだ!」
「マーマンって人魚の?」
「ああ、そうだ」
マーマン…か。人魚っていうと下半身が魚のような姿を思い浮かべるけれど結構違うな。
耳と腕、脚にヒレのようなものが生えていてるだけでこれといった種族的特徴は他には見られない。またその容姿は美男子という感じで。性格と噛み合わないというか…。
「マーマンは珍しいよね。…人魚の里かい?」
「そうだ。結構突っ込んでくるな…」
「人魚の里?」
「そうだな…百年以上昔、人魚の里っていうところがあったんだが。アーリエによって滅ぼされちまってな」
「え…そうなんですか」
「悪いこと聞いちゃったかなぁ」
「いや、里の奴らは殆ど逃げたさ、けど土地神様がな…。今は散り散りになってるな」
「なるほど…けど、人魚っていうから女性ばっかりかと」
「ああそれは間違ってないぜ?」
「そうなの?」
「人魚で男の生まれる確率は30分の一だ。人魚の王位継承は男系優先だから、王族内に男性がいない場合一般市民の中から選び出されることになる。俺もその一人だったな」
「へぇ…すごいんですね」
「あくまで候補って感じだ。ま、そんで俺は放浪の旅って訳だな。この街に来たのもたまたまって感じだったんだが…そろそろパーティを組んでみるのもいいかと思って今に至るって感じだ」
「結構適当な理由なんだね…」
「それでも人が増えるのは助かりますからね。アイネさん…でしたっけ。あなたはどんな理由で?」
「ボクはこの辺で前から活動をしていたんだけど、なんか刺激がなくてね。強い子を見つけたいと思っていたところ君たちの噂を聞いたんだ。低レベルにも関わらず兄は特殊なスキルを持ち、妹は圧倒的なステータスの上昇を見せているっていうね」
グラニアさんの言っていた噂のことだろうか…?他の人には言ってなかったのに。もしかしてギルド関係者の誰かが喋った?まぁ…面倒ごとに巻き込まれなければバレてもいいけれど、それでアイネさんは僕たちのところに来たんだよね…。
「ああ、噂を広めたのは情報屋のニファっていう奴だね。冒険者であって、盗み聞きが大好きでね。よくスキルを悪用して隠れてたりするんだ…もしかしたらここの部屋にいるかもしれないね」
「えっ!?」
「冗談。流石にボクの目は誤魔化せないよ、君たちが部屋に来る直前につまみ出したさ」
冗談…っていうか本当にこの部屋に忍び込んでたのか。
「うーん、でも私もそこまで強いってわけじゃ…最初の頃は強いかなって思ってたけど、他の冒険者さんを見ると結構私より強い人がたくさんいるんだよね…」
「まあまあ、なんにせよボクは君達に興味があったんだ。どうだい、君達さえ良ければボクをパーティに入れてくれないかい?」
「願ってもない申し出、もちろんです。ネルさんもいいですか…?」
「おう、構わねぇぜ」
「やったー!これでパーティ結成ってことかな?」
「ええ、それじゃあ一回のギルドに報告でいいのかな…?行きましょうか」
「おー!」
ーーーーーーーーーー
「あ、終わりましたか?」
「はい、パーティ…決まりました」
「それはよかったです!中々パーティってすぐに決まらないので、運が良かったですね」
「そうなんですか?」
「ええ、方向性や目的の相違。なんか気に入らないなど色々ありましてー。出来たあとも解散率90%という!」
「そ、それは…なんというか。大丈夫かなぁ…」
「まぁ、その人達も最終的に自分のパーティーを見つけてるんですけどね。安心してください♪」
「あぁ…それならいいのかな」
「にしてもーアイネさんですかー」
「ボクだったら何か悪いかい?」
「い、いえ…これで新しいパーティに入るの27回目なので少し心配だな、と…。ご自身で作られないのが不思議ですよ」
「ボクが集めたところで…ボクの求めるようなヒトが入るなんて、有り得ないさ。ならボク自信で見つけてやろうってね。大丈夫、今回は期待してるんだ」
「それならいいんですけどね…そして?えーっと、ネーラ・オルディスさんですか。ここでは一回も見たことのない顔ですね」
「ああ、俺がこの街に来たのもギルドに来た時と同じ一昨日だからな。知らなくて当然だ」
「水の癒し手」
「はぁっ!?」
「他国でそう呼ばれていたようですね…。ギルドの情報って、しっかり各地で共有されているんですよね」
「そ、そうか…すげぇな。知られてるっていい気はしねぇが」
「これが仕事ですからー…許してください、悪用はもちろん。不必要にデータを覗き見るなんてことはしません」
「いや今…」
「あ、それ言っちゃいますか?」
「ま、まぁとりあえず報告はこのくらいで良いですかね?」
「はい、承りましたよー!後は煮るなり焼くなりご自由にどうぞ♪」
「ええっ!?煮るなり!?」
「冗談ですってば…そんな驚かなくていいんですよ?」
「もう…」
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「それでだけど、どうする?」
「どうするって…どうしましょうか」
「うーん…どういうこと?」
「俺たちパーティ組んだばっかで何もまだやること決めてねぇぜ」
「あ、そう言えば」
「あはは、おにぃ無計画ー」
「そうだね…あれ?君達、武器は?」
「武器?そういえば…持ってないよ!」
「柊には買おうと思っていたのですが…」
「もしかして、素手かい…?アキくんは多分魔法だよね…。でもヒイラギちゃんは物理だ。私は武器をまず買った方がいいと思うな」
「ああ、そうだな。それとアキにも武器は必要だ、魔法はそのまま使用するのと道具を介して使用するのでは効果に違いが出る。買った方がいいな」
「では、武器を買うということでいいんですか?」
「そうだね、目標とかそういうのはとりあえず後で。せっかくだ、ボクがヒイラギちゃん。ネルくんがアキくんの装備を一緒に選んであげるって言うのでどうかな」
「そうだな、構わないぜ。俺も丁度武器は杖だ」
「じゃあ決まりだよね!武器…ずっと欲しかったんだよねー…」
「そうですね、お金も溜まってきたと頃でしたし。折角です。いいものを買いましょう」
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「さてさてヒイラギちゃん」
「なに!アイネさん?」
「君はどんな武器を扱いたい?」
「うーん…どんなのがあるか分からない」
「そうだね、物理は魔法型よりも扱える適正武器が多い。物理でも杖を扱えるけど、やっぱり物理は剣などを選ぶ方が強いよね」
「うんうん…なるほど」
「剣、槍、爪、鞭、刀、槌、大釜、鉄扇、鉤爪、投擲。これ以外にもさらにたくさんの武器がある」
「やっぱりピンと来ないなぁ…」
「そうだね、まずはこの商店街の武器屋を見て回ろうか」
「うん!そうする!」
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「んーで、アキよ。お前はどんな武器がいい?」
「そうですね…とりあえず見ない事には始まりませんよね、あまり武器に詳しくありませんし」
「だよなぁ…一応、アキみたいなのが扱える武器には弓、銃、杖、スリングショット、剣とかがあるぞ」
「へぇ…杖ぐらいだと思ってたんですけど、基本的に遠距離系…ですかね」
「そうだな、実際普通に使うと攻撃のステータスが高い奴に劣るんだが、武器には魔法を掛け合わせることが出来る」
「あー、属性剣とか属性弓とかそういう」
「そうだ、攻撃力に関しては魔法頼りって訳だから…剣でもいいんだなこれが。だが魔法を扱う物奴らの一般的な特徴として物理攻撃に弱いんだ」
「なるほど、だから遠距離から魔法を介して攻撃出来る遠距離系武器がいいと」
「そういうことだ。ちなみに杖は魔法の純粋な威力、効果、射程距離が伸びる。困ったらやっぱり最終的に杖がいいんだよな」
「へぇえ…なんとなくは理解できました。…うーん…」
その後、しばらくネルさんと共に一緒に武器屋を回った。それぞれの武器についての特性や細かい説明などをしてくれたおかげで大体のことは理解出来た。
「よしっと、これで全部回ったはずだな、決まったか?」
「はい、一応は」
「お、なんだ?」
武器屋を見回った中で僕の印象によく残っているものは…。
「投擲…ですかね」
「おお、投擲か。いいんじゃねぇか?じゃあ見てみようぜ」
「はい」
そうして人混みの中を避けて歩き、僕は1軒の投擲武具やに辿り着いた。
「あぁ…いらっしゃい。さっき見に来てたよな、あんた達…」
「こいつが気になるってんでな、ちょいと見せてくれねぇか」
「ふーむ…そうだな。魔法か?」
「えぇ、そうです」
「んっとなると…そうだな。円月輪、クナイ、ブーメラン、投げナイフ辺りだな。気になるものはあるか?」
「クナイなんてあるんだ…」
「これが気になるか?持ってみろ。それだけで使い方は分かる」
「はい…じゃあ失礼して」
そのクナイに手を持つと、店主が言った通り頭にまるで説明書でも流れ込んだかのように、自然とそれの使いかたが理解出来た。
魔力を込めて創る…魔法を注ぎ込み集中して相手に投げつけて…。
言葉ではうまく説明出来ないが、そんな感じの言葉が思い浮かぶ。
「魔力で創る…?」
「ああ、そいつを身の回りに置いておくだけで、MPを消費して手の内にクナイの複製体を出すことが出来る。便利な物さ、さらに投げつけた時に集中すると命中率が飛躍的に上昇する。もちろん外れる時だって結構あるが」
「へぇ…本当に便利。よし!これに決めました!」
「他のものはいいのか?」
「これがいいなって」
「そうか…なら止めはしねぇ。30万だ」
「うわ高!」
==========
「さーて、一通り見て回ったけどどうするかい?」
「決めたよ!えーっとね。刀だよ刀!」
「おお、刀かい。でも、もしかして性能じゃなくて見た目で選んでないかい?」
「そうだけど…もう決めちゃったんだよねー」
「…うん。それなら別にいいと思うよ、何を使うにしても最後は自分の選択が重要だ。もし手に取って見て気に入らなければ別のものにすればいいしね」
「そうだね!そうと決まれば善は急げだよ!」
ーーーーーーーーーー
「おぉ、あんた…さっき見た顔だねぇ」
「おばちゃん!刀が欲しいの!」
「ほほぉ…?刀の良さがわかるとは、嬢ちゃんなかなかの目をしているじゃないか!」
「かっこいいから!」
「はは!かっこいいじゃろう!しかしのぅそれだけで選んでいざとなったら使えないからお役御免、ではうちの刀が泣いてしまうわい」
「そ、そうだね…でも欲しいの!」
「その目…本気じゃな!よぉしわかった!この刀、特別に50万マールでどうじゃ!」
「た…高いっ!」
==========
「柊、武器は買えましたか?」
「うん!25万したけどね…ほら!」
「うわわっ!振り回さないでくださいそんなもの!…刀、ですか。うん、いいんじゃないですか?柊にとても似合っていると思いますよ」
「そう!?やったー!おにぃは…何買ったの?」
「見たいですか?」
「もちろん!」
「ほら、これですよ」
「うーん…クナイ?アニメで忍者が使ってるの見たことあるかも!でもさっきまで持ってなかったよね」
「そうだよ、クナイ。ほらほら」
「うわっ!消えた?一体どう言う…」
「魔法で作り出してるんだ。本物の武器は次元ノ収納に閉まってあるよ…30万したけどね」
「高いね!?」
「結構…痛い出費てすよね。それでも買った価値はあると思いますよ」
「そーだねー、これからの戦闘が楽しみだなぁ」
「私としては戦闘はないに超したことはないと思うんですが…。あ!ネルさん、アイネさん!」
「私達も装備新調したんだよね、久々に変えたよ」
「なかなかボロくなってたからな、杖」
2人の武器を見ると、確かに初対面時と持っている武器が異なっている。
「あ、そう言えばお二人ってどんな戦い方っていうか…」
「職種のことかな?」
「あ、多分それです。どんな職種なんですか?」
「そうだ!確かに聞いてなかったかもというか職種ってあったんだ…」
「そうだね、じゃあボクから紹介しようかな。ボクの職業は狂戦士さ。簡単に説明すると、防御を捨てた完全なアタッカーって感じ。別に戦いになると暴走するってわけじゃないよ。武器は大剣で、見ての通り二刀流さ」
「大剣で二刀流って…見ての通りと言われても一本だけしか?」
「ふふ、そう思うよね。でも見てみてよ」
薄らと笑みを浮かべたアイネさんは、その背負った大剣を引き抜く。見た目は…やっぱりただの大剣だ。しかし、彼女が力を込めるとガキン、という音と共にその厚い大剣は、真っ二つになり2つの大剣へと変化した。
「おぉ…なに!?どういうこと」
「剣が2本に…」
「どうだい?ボクがオーダーメイドさせた特注品さ。ダブルブレイカーって言ってね。なかなかかっこいいだろう?」
「かっこいい!」
「これは見事な剣だな…初めて見るぞこんなの」
「金かかってそうですね…」
「アキくんだけ現実的だね…まぁいいけど、とりあえずこんな感じかな」
完全なアタッカーかぁ…僕にはリスクが大きくてできなさそうだなぁ…。でも攻撃こそ最大の防御っていうし、そこら辺どうなんだろう。
「よしっ、次は俺だな!職業は大司祭だな!バフやデバフ、回復だって全て俺に任せてくれ!武器は見ての通り杖だな。おっと、アイネさんみたいに特別な武器って訳でもねえから期待はするなよ」
ええ…その性格でまさかの聖職者か?意外な職業ではあるが…そうなるとこのパーティは結構バランスがいいのだろうか。
多分だが柊とアイネさんが近距離、中距離がネルさんで、僕が遠距離。役割はそれぞれアタッカー、アタッカー、ヒーラー、マジシャンという感じだ。柊がガードになれば完璧な布陣なんだろうけど…。まあいっても仕方ないか、柊は好きな職種を進むべきだ。それで…
「あの、職種ってどうやって選択するんですか?」
「あれ、知らないかい?普通にこれになりたいなって思うだけさ。簡単だろう?」
「じゃあ今ここでなれるってことだよね!」
「そうだな、お前達がどの道を選ぶかは自由。いつでもそれは切り替えることもできるしとことん極めることだってできる、一体何になって何をするんだ?」
僕が…僕がやりたいことか。
僕は、そうだな…。魔法をやっぱり極めたいのかな?そういうの深く考えたことなんか無かったらちょっとまだわからないかもしれない。
でも迷ってばかりじゃいられない…。よし、もう決めた…僕は––––––
–––––– 役職『魔法使い』
を獲得しました ––––––
:魔法+10%
:MP+5%
:精神基礎値+20
:MP回復量+50%
:魔法系スキルの一部解禁
:魔法系スキルの習得率上昇
:スキル習得率の変動
:上位種の存在を確認
…なんか色々解放された。魔法職に着くと、習得可能な魔法系スキルが解放されて、魔法系スキルの習得率が高くなる。これは結構便利だな…。スキル習得率の変動っていうのは、高いランクのスキルが習得しやすくなったということだろうか?…まあ、それはその時になればわかるのかな。それで柊は何を選んだのかな…。
「よし決めた!」
「ヒイラギちゃんはどんな職種を選ぶんだろうね。やっぱり私みたいに攻撃型かな」
「いや!そこは魔法 ––––––」
「それはないでしょ」
「…ま、まぁそうだよなぁ」
–––––– 役職『騎士 』
を獲得しました –––––––
:攻撃+10%
:MP+3%
:防御基礎値+30
:精神基礎値+20
:攻撃、防御系スキルの一部開放
:防御系スキルの習得率上昇
:スキル習得率の変動
:上位種の存在を確認
「おおっ!?本当になれたよ…」
「ヒイラギちゃん、そこを選ぶとはね…」
「防御職は…意外ですね」
「おいおい、おもしれぇじゃねえか。刀で防御職は聞いたことないぜ」
それならクナイの魔法職も聞いた事ないと思うけれど…。
「んー?私のやっていたゲームでは普通にあった組み合わせだけどなぁ」
「そういうもんなのか…」
「うん、そうだよ!」
確かに柊がガードになったらバランスが良くなるとは思ったけど、柊が本当に選ぶとは思わなかった。どっちかというと性格的にガンガン敵を倒すアタッカータイプが本人にとっていいと思ってたからなぁ。うーん、本当に役割を理解しているのだろうか?ナイトがかっこいいからとか言う理由で選んでそう…って僕が柊の好きなものを選べばいいって言ったのだから実質なんでも良かったわけなのだけれども。
「まぁというわけで、これで完璧なパーティになったわけだよ」
「色々ありがとうございます…」
「それで、どんな活動をするのか決めねぇとな」
「そうだね、パーティそれぞれにやることっていうか、まあ大まかな目標があるんだ」
「例えばどのような?」
「お金稼ぎ、強敵討伐、クエスト、治安維持、パーティによって本当に様々だ、旅をしてて楽しむ各地巡礼や犯罪目的のために作られたパーティもあるんだよ」
「はぁ…って犯罪目的って」
「もちろんそんなパーティーは即解散されたよ。活動内容に沿わない程度ならよくあることだからいいけど、明らかに問題のところがある所はギルドから直接解散されることからあるんだ。さっきパーティ申請書書いただろう?あれはギルドに認められた公式なパーティになるために必要で、大体のパーティーはギルドの管理が入るんだ」
「確かにそんなもの書きましたね。管理って…?」
「たまにギルドから派遣された調査員が見に来るんだ。大抵のパーティーはその調査員と顔見知りだけど、怪しいパーティーは諜報員から監視されることもあるって感じかな」
うーん、とりあえず完全になんでもできるわけじゃないってことか。
「パーティになったことで受けられる恩恵は、報酬額の増加。受注できる任務の増加、直接依頼されたり、活動によっては援助金、人員を借りれることもある」
「結構いいですね…」
「なんかすごいね!」
「へぇ…もっと早く知ればよかったぜ」
「それでボクの場合色々なパーティに入ったけど活動も様々、でボクが受けるスカウトは強敵討伐系が多いかな」
「強敵…アイネさんって何Lv何ですか?」
「3200Lvってところかな」
…???3200?それって四桁?よくわからないぞ??一体どういう…
「うわ、たっけーなおい!」
「四桁だよ!?」
「一桁少なくないですか…?」
「ううん、別に何もおかしくはないさ。長生きしてるとそれだけレベルが上がるってだけだよ」
「いや…ここらでの最高レベルでも1000以下って聞いたんですけれど」
「それは人間だからね、基本的に人間が死ぬときの平均Lvが600だ、あくまで平均だけどね」
「それって…人間って不利じゃないのー?」
「いいや、そんなことはないさ。妖精はステータスが人間より低いからね。それに人間の中での最高Lvは3400だ。もう死んでるけど」
「うーん!?どうしてそうなったんですか?」
「長寿系のスキルを獲得したか、もしくはレベル加算のスキルかだね」
「レベル加算?」
「スキルの中でも確率が低くて、レベルアップごとに更にレベルをアップさせるっていうもので、人間で確認されてる例でも7人くらいだよ」
「スキルってなんでもありなんですね」
「その人がどんな道をたどるかにもよるけど、たまに運が良くてすごいスキルを手に入れることもあるからね。大抵のソレは種族を超えるとかの次元をも超えてるよ」
スキル、計り知れない可能性を持っている。どんなスキルを得るか、どんな道を歩んでどんなスキルを得るかが大事だってエル教官も言っていた…気がするな。なんかもうだいぶ前の思い出みたいに思えるけれど
「話が逸れちゃったね、それでどんな目標にするんだい?」
「俺だったらずっと旅だったな…」
「私達は、ずっとクエストだったよねー」
「旅…ですか」
「おや?旅に興味でも湧いたかい?元の世界とは違うから気になるのは自然かな」
「旅!楽しそうだなー」
「柊は違うけど、僕は一応目標があるんですよね」
「なんだい?」
「この世界に来るとき残してきた母親のことが気がかりで…だから何か戻る手がかりでもあったらいいなって」
「なるほど、つまり君は元の世界に戻りたいと、戻った後はどうするんだい?」
「この世界も好きですよ、一ヶ月しか住んではいませんが…だから戻れるものなら戻りたいのかな」
「欲張りだね。でもいいと思うよ、目標を持つっていうのは何事においても大切なことだからね」
「まぁ、だからこの世界を回るのも兼ねて、自分の目標の為にも旅が気になるかなって」
「いいと思うよ!私も旅したいなー」
「俺もずっと旅ばっかしだったからその方が寧ろいいな」
「ふーん…よし!ボクも賛成だ。この街には100年くらいは居たけど、昔は旅していたしね」
「じゃあ、これで決まりですね!」
「よし!決まったとこだし、腹が減ったから何処かに食いにでも行くか!」
「私もお腹すいたー!」
「じゃあボクのオススメの店はどうだい?」
「それは…気になりますね」
こうしてパーティは無事結成され、僕達は旅をすることになった。
…しかしこの兄妹はまだ知らない。これからどのような事が待ち受けているのかを––––––
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「報告は以上だよぉ」
「ああ、ご苦労。ベルフェゴール」
「うーん…やっぱりこの魔力は普通じゃないよねぇ」
「ギルドにはそのようなものがあるんだな」
「そうだねぇ、注射器みたいだけど特別製で血液中にある微量な魔力までも壊さずに採取できるんだ」
「それでこの報告か」
「もしかしたら魔王ちゃんには分かるんじゃないかなって」
「そうだな…どうだ?向こうの方ではアモスデウスや他の者達と上手くやれているか?」
「200年だよ?むしろ私が最古参だから、大丈夫だよぉ。アモスは…いつも通りだねぇ」
「最近こっちに顔を出さなかったから心配でな。向こうではノーデムという名前だったか」
「うん、それじゃ私はもう仕事に戻るからねぇ」
「ああ、わかった」
部屋に沈黙が訪れる。だが先程のように人が来ることすら珍しいのだ、寧ろ慣れてしまっている。
その部屋に居るのは、今となっては玉座に座っている者とそれに忠信を尽くす者の一人だけだ。
「ルシファー頼めるか?」
「はい、何なりと。主」
「ベルゼブブに伝達を頼む、この書簡を」
「承りました。しかしあれに頼らずとも」
「分かっているだろう、皆優秀ではあるがそれぞれ得意なことも違う。ルシファー、お前を蔑ろにするわけでもなく彼が適任というだけだ。この伝達も信用の置ける君だからこそ頼めるのだから」
「そのような…もったいなきお言葉!必ずやこなしてみせます!」
次の瞬間、既にその部屋に残っているものは一人だけとなった。完全な静寂、己の呼吸音だけが勇逸聞こえた。
「ベルフェゴールは流石だ。久々に私も役目を担うことができるか、さて。ルシファーには悪いがそろそろ私も出向くとしよう」