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中村(仮)  作者: 柚根蛍
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9話 またお着替え

「あんがとよ!助かったぜ!」

「いえ、お気になさらず!では頑張ってください!」

「ばいばいおじちゃん!」

「ああ!」


 異世界に来て一ヶ月、僕たちは順調にこの世界に馴染んできている。先ほどのおじさんはクエストの依頼人で、内容は畑を荒らしていたコルフという芋虫のようなアーリエの討伐だった。

 実際にはかなりレベル差があったのだがそれも一瞬で片付いた。…主に妹の柊の活躍によってなのだが。


 あれから僕たちはそこそこクエストをこなし、そこそこ成長した。両者のLvは15であり柊のステータスに関しては本当にチートじみた強さになってきている。きているってだけでこの世界ではまだまだだが。

 僕の場合は、取得確率の低いレアスキルをあの後も引き当てた。もしかしてこれが僕の能力なのだろうか?…いや、流石に柊と同じみたいにチートはないだろう。一応引き当てたスキルはこんな感じだ。



氷属性(アイス)II(6)

 括弧内の数字は消費MPの基礎量らしい。どれだけの質量、技術をその一撃に注ぎ込むかによって消費MPは変わる。

 属性系の最高レベルはIVらしいから、下から二番目の強さ、それでも使用した感じ結構強い。


経験豊富(エクスペリエンス)

 技能系スキル。最高位の星5ランクである、効果は「パーティ全体の経験値量の増加300%」というものだ。つまり経験値が基本三倍、これによりかなり経験値取得効率が上がっている。



 正直に言うと…自分には何らかの能力があるのだと思う。いや、こんなこと言うと頭おかしいやつに思われるかもしれないが…事実普通の人はなかなか手に入れることのできないランク4、5のスキルをもうすでに所持しているのだ。それにはステータスの『幸運』という値にモヤがかかっていることも関わっているのではと推測できる。

 幸運の値が1の柊はスキルを3個習得した内全てランク1のものであった。

 ギルドの人にも聞いてみると運が上がることでランクの高いスキルの入手がしやすくなるとの話だった。まあそうだとして支障があるわけではないが…何かと腑に落ちないものだ。


「あ!中村さん達、クエスト完了の報告ですか?早いですね…」


 この人は受付嬢のエフィリスさん。魔力検査の時に会った受付嬢の中で唯一の人間だ、ちなみで受付嬢は全員で3人、残りは前会ったデーモンとハーピーだ。性格はいたってまともで一番安心できる。


「どうも、最初はどうなるかと思いましたけどもうクエストにも、この街にも慣れてきましたから」

「今日も私がすぐにアーリエをやっつけたんだ!」

「そろそろ一ヶ月でしたね…お二方の成長の早さには驚かされます。最近はレベル200近くのエルデプルーフを倒したんですよね…強力なモンスターというわけではないですが、10くらいのレベル帯での討伐は聞いたことがなかったですよ」

「あのでっかい水晶玉みたいなやつだよね!ビームとか爆発攻撃とか見かけによらず強くて…結構苦戦したよ…」

「街の人は止めたっていうのに聞かないんですから。倒せたからいいものを」

「結果良ければなんでもよし!だよ」

「うーん…何かあったら困るのは柊だけではないんだから、できるだけ気をつけて欲しいのに…」

「ふふ、仲良しですよね。中村さん達って」

「だよねー!おねぇさんもそう思うかぁ」

「まぁ…仲が悪いわけではないと思いますけど、いいのかな…」

「まぁ私から見た感想ですから…それよりそろそろ提案したいと思っていたことがありまして!」

「なんですか?」

「パーティーをそろそろ作ってはいかがでしょうか?」

「おお…パーティだっておにぃ!」


 パーティ…かぁ。確かに今後必要になってくるかもしれない。パーティを作れば、クエストの成功率も上がるし自分たちではできないことも補うことができる。

 まぁ不安がないってわけでもないけれど今の所やらない理由は別にないだろう。


「うん、いいと思いますよ。パーティ」

「おお、やったね!」

「よし!ではこの紙に自分達の自己紹介やPR、望む相手の条件などを書いてください、書き終えたらあそこにあるパーティ募集専用のボードに貼り付けてもらえればいいので」

「はい、わかりました…」


 自己PRか…苦手だな。


「それで…なんて書こうか」

「うーん、『兄弟で頑張ってます!強いやつ募集!』みたいな感じでいいんじゃないかな?」

「ええ…流石にそれは」

「じゃあおにぃはどんな風に書けばいいと思う?」

「う、うーん…そうだなぁ」


ー5分後ー


「む、無理!こういうの、わからないです…」

「ええ…おにぃだって人のこと言えないよね。じゃあもうこれにするよ!」

「え、それは…」

「考えられなかったら仕方ないよね?」

「うぐ…はぁ、分かりました。ただそれでは集まらないと思いますけどね」

「お?賭ける?来たら1万マールだよ!」

「いや、お金は二人で共有してますし…とりあえず貼りますか」

「むぅ…わかったよー」


 ボードを見ると他のパーティ募集の張り紙もある。『弓使い(アーチャー)募集!』『スキル<火属性反射 ファイア・リフレクション探してます』など色々書かれていた。…この程度なら柊の募集文でも問題なさそうだ。


「お、終わりましたか!パーティ加入希望の人が来たら報告させてもらいます!勿論自分たちで集めることもできますので!」

「ありがとうございます、折角なのでまたクエスト受注していいですか?出来れば明日か明後日までの期限のもので」

「あ!できれば討伐系がいいなぁ!」

「頑張りますねぇ、では…これとかどうでしょう」

「平原で繁殖したレイ・アルファの討伐、レベルは73推奨。ですか…」

「推奨レベルよりかなり下ですけれど…お二方のステータスを見ると100レベル以上でもいいくらいなんですよね…ただ数がかなり多いのでこのクエストは上から沢山の冒険者さんに回すように言われてるんですよ」

「柊、これでいい?」

「うん!問題なしだよー」

「しかし…この世界はレベルの概念とかどうなってるんですかね」

「?どういうことでしょうか…」

「いえ、僕たちの元住んでた世界ではLvとかはゲームの中でも100Lvが上限…終着点みたいな感じでしたけど、この世界ではレベル100Lvでも軽いなぁって…」


 実際そうだ、この前聞いた限りだとレベル3桁が普通でたまに四桁の人もいるんだとか。一体どういう世界なのだろうか?


「レベル上限は…ないんですよね」

「「えっ!?」」

「ないというか、わからないというか…今最高レベルの方は確か五桁以上だっけ…。ここ辺りでも一番レベルの高いアーリエは報告で聞いた限り3000ほどいっているんですよ」


 馬鹿か。それしか言うことができなかった、もしこの世界を作った神様などがいたらどんな気持ちでこんなことをしたのか聞きたい。

 

「…怖いですね、それは」

「先が見えないよ…」

「あはは…でも昔は上限があったって話ですよ、本当かは定かではないですが」

「そう、なんですね。とりあえずクエストありがとうございました。また今度きますね」

「はい、ぜひ!」

「またねー!」


 そうして僕たちは宿屋に戻った、最近はよくここにお世話になっている。宿屋というよりは下宿屋とでも行った方が良いだろうか。ここでは僕たちを含む何十人かの冒険者が宿泊している、冒険者専用の宿泊所だ。


「うーん…結構お金も貯まりましたよね、今は約…55万マートですね」

「そうだねー、なんかもう買えないものはないって感じだよね!」

「流石にそれはないでしょう、この前のぞいてみた武器屋、非展示で数千マートするのもあるみたいですし」

「うっわ、やばいねそれは…でもそういう武器って最後まで使えるから序盤でお金稼ぎまくって買っちゃうんだよねぇ」

「ゲームじゃあるまいし、僕たちが買えるのはちょっと強いくらいの武器でしょう」


 まあ今の所武器を買うつもりはないのだけれど…柊はそういうの欲しそうだし今度買ってみてもいいかな。というか今まで素手でアーリエを討伐してたんだよな…僕は魔法でなんとかなるけど拳は痛そうだなぁ…。


「はぁー疲れた…今日はもう寝ようかな…」

「えー!?まだ午後だよ!お昼の3時!」

「今日だけでクエスト二件ですよ…?さっき受注した明後日までのやつも控えてますし…」

「私はまだ動き足りないなぁ…」

「柊は街の方に行ってていいんですよ?僕は寝ますけど…」

「ええ…分かったよ」

「はい、一応お金も…3万マート渡しときます。いいですね?これ、1日で使い切れってことじゃないので。あくまでももしもの時のためですから、使うのは5000マートくらいにしてくれると助かります」

「もー、わかってるってば…昨日使い切っちゃったことはごめんって…」

「それじゃ…私は寝ます、おやすみなさい」


 そう言って秋は布団にくるまった。

 少し近づき顔を覗き込むと、すでに眠っているようで、非常に穏やかな顔である。その顔を確認し終えると柊はその部屋を後にした。


「いやぁ、3万かーふふふ」


 5000までとは言われたが兄は何だかんだ言って許してくれるので、もう少しだけ使ってもいいだろう。


「どこに行こうかな」


 近くにある、木材でできたボードに貼り付けられた紙に目を通す。それは地図であり、柊がこの街を見て回る時には必須のものだ。

 自覚はあるのだがやはりそれだけで方向音痴というのは治るものではない、地図を見てなんとか理解できるだけマシな方なのかもしれないが。

 地図とにらめっこして自分にの今いる位置を確認する。


 「今いるの…は、宿屋の側だから。あー?…町の南かな。多分そうだと思う。上が商店街、右に少し行って冒険者ギルド、下が門で…左は居住区と書いてあるよね。上は…北だっけ、南だっけ?よし、こういう時は周りを見よう。左の方に沢山店が並んでる…って事はそっちが商店街だから。今私が向いてるのが東で…んん?右かな」

「東だ」

「ん?誰?」


 いつの間にか隣にいたのは背が高い男の人だ、ママより高いんじゃないかな。

 あれ…よく見ると既視感が、前会ったことあるっけ…。


「マグルだ、やはり覚えられていなかったようだ」

「あっ速い人!」


 この世界に来てすぐに、冒険者になるための試験をした。その時一緒に冒険者になった人だっけ。確かすごく早いスキルを持っていて、一瞬でアーリエ達を倒していたんだった、すごく強かったから何とか覚えていたみたい。


「早い人…まぁいい。…それにしてもなかなかのステータスだ。そのレベルでそれだけとは、ランク5のスキルでも引いたか?」

「え?いや…全部ランク1だよ、おにぃはランク5と4を習得してるけど…」

「冗談のつもりだったのだが…それはかなりの運だ、しかしそのステータス。いやまさか君達兄妹は…いや、流石にあり得ないな。忘れてくれ」

「なんか前よりすごく喋るね…?というかどうやってステータスを見たの!」

「そういうスキルがあるんだ、この前は…というか、基本一対一でないとうまく喋れないのだ」

「ふーん…あ!私、商店街の…服屋さんに行きたいんだけど…分からないんだよね」

「服屋は…隣にあると思うのだが、あそこに」

「あ…本当だ!いやぁ気づかなかったよ…ありがとおじさん!」


 そう言うと柊はすぐに服屋の方に走っていった。


「…うーむ、気のせいか。相変わらず手掛かりは掴めないまま、か。たまたま町に寄ったから確かめようと思ったが、もうここにも用はないだろうな…」


ーーーーーーーーーー


「はぁ…うっ!首痛…変な寝方したかな」

「おーっすおにぃ、おはよー」

「うん、柊…おはよう」


 窓から差し込む眩しい日差しにあてられ、目覚める。1日の始まり、確か今日で…異世界に来て丁度30か31日のはずだ。この世界にも暦はある、24時間365日、元の世界と変わる所はなく、太陽も月もある。異世界といっても地球とそういう環境は変わらないようだ、全く不思議なことである。

 寝ぼけてまだはっきりとしない目を慣らしていく。そうして最初に視界に入ったのは机の上に乗っかった紙袋である。…柊の買い物かな。


「無駄遣い…してないですよね」

「ええ、すぐ疑うって随分信用されてないよね私…!」

「そりゃ」

「…一言だけなのに破壊力がぁー、あー滅びる!おにぃのせいで滅びるよ!」

「何言ってるんですか…それで何買ったんです?」

「ふふ!それはね…」


 ガサガサ、と音を立てて袋の中のものを取り出す柊。じゃーんと取り出されたものを見ると、それは洋服だった。可愛らしい服で、柊に似合うと思う。素直な気持ちだ。


「いいと思いますよ、柊もおしゃれを楽しみたい年頃になってきましたか」

「何言ってるの、これおにぃのだよ」

「…ん?よく聞こえなかったですね、あとそれと返品しましょう」

「ひどいよ!?せっかくおにぃに似合う物を買ってきたのにー」

「似合うって何ですか!全部柊の趣味でしょう!?ばっかじゃないですか!ごめん、言い過ぎました、でもばかじゃないですか!?」

「うわひどい!二回も言ったよ!?」

「事実、最初の日に柊がそういう服を私に着せてから、何回性別間違われたと思うんですか!ギルド受付嬢の一人以外全部間違われたんですよ!?」

「逆にそれはおにぃに似合ってるって事じゃん。おにぃって声は中性的だし見た目は女の子みたいだし、学校の友達にだって無理やり女装させられたことあったじゃん!」

「なんでそれを知って…。いや、正直なところ悪い気はしないんですよ、でもだからこそなんですよ!このまま行くと僕の性癖まで柊みたいに拗れてしまいます…」

「今日は毒吐くね…そんな悪いおにぃにはもう着てもらうしかないよねー!」

「ちょ、ま!柊?え!待って、なにその笑顔怖い怖いこわい!う、うわあああああああああああぁぁぁぁぁ!」


 その叫び声は街全体に響いたとか響いていないとか。

健全にしたいつもりなのですが…うまくいきませんね(確信犯)


もう色々アウトだと思うのですが、一定のラインは絶対超えないよう頑張りたいです。

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