若いころの、懐かしい思い出を、胸によみがえらせるキッカケになれば。
80歳になった爺さんが、「昔、昔、ある所に………」と、しゃべり始めました。そんな感じで、やさしく見守っていただけたら、幸いです。
時: 昔、昔。大体、1990年前後。
所:北九州の郊外。ある実業高校。
人:ちょっと変な国語の先生。ちょっと変な生徒たち。◯◯科は全員女子。◇◇科は、ほとんど男子。
まず最初は、女子クラスでの対話の例から。
(講義式の授業では、生徒をひきつけられないから、対話の割合が多くなるのです)
エピソード1
T:春の夕方は、なんとなく悲しい。ウグイスの鳴き声を聞くと、一層 悲しくて、涙が出そう。………
こんな歌を詠む男は、好きか嫌いか?
S:キライ! 大キライ!
S:タイプじゃない!
T:ふーん、そうか、やっぱり。…………まあ、オレも、弁護はせんよ。
エピソード2
T:桃の花が いっぱい咲いて、その下の道が、ピンク色の照明を当てたようになっていて、そこに、色の白い女の子が立っていると、なんともいえず、美しく見えるという、夢のような描き方やねえ。
なんか、ストリップ劇場の照明効果のような話やなあ。
S:行ったことがあるんやろうねえ。
T:もう、時効やろう。30年くらい前のことよ。
S:それにしては、よう覚えちょるねえ。
エピソード3
S:先生でも、人の前で話す時、あがったことがあるん?
T:なさそうに見える?
昔はなあ、意識している女の子がいる教室で授業する時なんか、顔が赤くなって、耳まで赤くなって、足 がガ タガタ震えて、どうしょうもならんやったことが、時々はあったよ。
近ごろは、そんなこともなくなったけどねえ。
このクラスで、オレが、そんなになったことは、一度もないやろ?
エピソード4
T:この主人公は、好きな人に告白する勇気もないんやなあ。キライやろ? こういうタイプの男は。
けれども、考えてみたら、オレも若いころは、こういうタイプやったなあ。
S:またまた、………。オレから言わんでも、向こうから寄って来たとか、なんとか、言いたいんやろう。
T:そんなミエは張らんよ。ただ、ありのまま、昔のことを、言ってみただけよ。
S:なんか、あやしい感じ………。
エピソード5
T:たとえ相手から愛されなくても、こちらが、そのひとを愛する気持ちを持っているだけで、しあわせだ と思う。これは、一方通行の片想いの状態なんやけど、それで満足しているという気持ちなんやなあ。
S:こんなのウソよ。愛されなくて、何で、しあわせになれるん。
S:そう、そう。愛されなくていいとか、愛するだけでいいとか、そんな気持ちに、なれるわけがないやん。
T:そりゃあ、あんたたちは、そう思ってもいいさ。
しかし、この小説の主人公のように、こんな気持ちになる人がいたって、それはそれで、いいやないか。
オレだって、どっちかというと、そういうタイプの人間やと、自分では、思っているよ。
S:なーんか好かんねえ、そんな考え方。
S:ほんと。信じられーん。
エピソード6
T:きのう、6時から、ウェディング・ピーチというアニメを見た者はおるか?
おるね。そしたら、「あっ、この言葉、今日の授業中、聞いたぞ」っちゅうセリフがあったやろう、終わりに近い場面で。
S:これやろう、これ。ノートに書いちょうよ。
T:そう、「愛は奪うものではない、与えるものである」っちゅうようなセリフやったよねぇ。
S:うん、そんな言葉があった。
S:あれ、ほとんど毎週いう言葉やないの?
T:へえ、あんたも、あんなアニメを見よるんかね。
S:私じゃない。弟が見てたから、私は、横で見ていただけ。
T:あんな少女っぽいアニメが好きだとは、ちょっと変わった弟やねえ。
S:先生も、あんな少女っぽいアニメを見よるとは、ちょっと変わった先生やねえ。
T:いや、うちの子供が見ていたから、「ニュースに変ええ」っち言うたんやけど、「あと15分ガマンして」っち言われてねえ、横で見ていただけよ。
S:先生の子供は何歳なん?
T:精神年齢5歳さ。
S:ウソやろ? ほんとうは?
T:25歳さ。実は、アニメが終わった時、「おまえ、精神年齢は何歳か」っち、言うたんよ。そしたら、本人が「5歳」っち言うたからね、それをそのまま利用しただけのことよ。
S:まだ結婚しとらんの?
T:うん、こんな調子じゃ、いつになるやら、だね。
エピソード7
(漱石の「こころ」の主人公が、お嬢さんを好きになった時の心理状態について)
T:「お嬢さんのことを考えたら、心が洗われるような気がする」と、まるで、女神を見るような目でみているわけやなあ。反対の例と比べたら、わかりやすいと思うけど、今の男の子が、オナペットをみる時の目とは、真反対なんやなあ。
S;オナペットっち、なーん?
T:あれ? 知らんのか? まあ、それでもいいや。
S:家で、お父さんに聞いてみよう。
T:ちょっと待て! オレが授業中、そんな言葉を使ったということになると、変なふうに誤解される恐れがある。今から教えてやるから、他の人には聞くな。
簡単にいえば、オナニーをする時の道具というか、手段というか、………。
T:えっ?オナニーの道具?
T:ああ、また、誤解を招くなあ。オナニーをする時に、好きなタレントのことを想像したりするやろ?
あの人と、こんなふうにできたらいいな、とか、………。その相手のことよ。
S:なーんか、イヤラシイ感じ!
T:だから、この主人公は、その真反対の、まるで、女神を見るような目で見ていたというわけよ。
S:じゃあ、普通、男の人は、大体、みんな、イヤラシイことを考えているっちゅうこと?
T:そうさ、99%そうだよ。
S:先生も?
T:今は違うよ。若い時は、イヤラシイことばっかり考えていた時期もあったがねえ。
S:信じられーん!!
エピソード8
(小野小町についての授業で)
T:こんなこと、普通の先生は、授業では言わんのやがな。ちょっと、しゃべってみたいような気もするんやなあ。
「国語の先生が、授業中、こんなことを言うた」とか、他の人に言いふらしたりせんやろうなあ。
S:もったいぶらんで、言うたらええやん。
S:そんなことを言うたら、なお聞きとうなるやん。
T:まあ、口がすべってしもうたちゅうもんやなあ。しかたがないわ。
あのなあ、さっきも言うた通り、小野小町は、ものすごくきれいな人やったらしいんやけど、セックスはできない体質やったらしいんだ。
S:どういうこと?
T:まあ、ある部分が、小さ過ぎて、小さ過ぎて、男性を受け入れられないほどだった、ちゅうことらしい。うわさだから、ほんとかどうか、わからんけどな。
S:どうして、そんなことがわかったん?
T:うん、オレも、この目で見たわけじゃないから、ようわからんけど、多分、なんどかトライしてみて、やっぱり不可能という結論になったんと違うか?
S:なんか変なうわさ!
T:昔の人も、いろいろ、ゴシップは好きやったというんやろうなあ。
人の不幸は蜜の味、とか言うからなあ。
エピソード9
S:男と女は、セックスしないで付き合うとか、できんの?
T:できるよ。セックス抜きの仲よしは、いくらでもおるよ。それどころか、夫婦でも、最近は、セックスレスちゅうのが多いらしいぜ。
よそのことは言えんなあ。ウチも、もう完全なセックスレス夫婦になっとるぜ。
あっ、こんなプライベートなことまでしゃべったのは、まずかったかなあ。
S:私たちが、別に、そこまで答えてくれっち、言うたんじゃないからね。
T:それは、わかっとう…………。
エピソード10
T:この文の作者の父親は、クマガイ モリカズ(熊谷守一)という、有名な画家なんだよ。その父親が49歳の時の子供が、この作者なんだよ。
S:親と子が50近くも年の差があるなんて、ちょっと、めずらしいんと違う?
T:そうやなあ、何か事情がありそうやろ?調べてみたらね、このモリカズさんは、42歳で、初めて結婚しとるの。そして、43歳の時に長男、44歳の時に次男、46歳の時に長女、そして、49歳の時に、次女の、この作者、榧さんが生まれとるの。
S:まあまあ、たまっていたものが、急に爆発したんやねえ。なんか、やりまくった、という感じ………。
T:そうには違いないやろうが、松がそう言うと、なんか下品に聞こえるねえ。
エピソード11
(その クマガイ モリカズ の画集を回覧させている時)
S:こんな絵のどこがいいん? 幼稚園の子供が描くような絵やないの。
T:その絵のよさがわかるには、センスがよくないと、だめなんや。オレはセンスがいいから、その絵のよさが、よくわかるぜ。
S:また、自分で自分をほめよる。
S:他の人がほめてくれんけ、自分で自分をほめよるんやろうねえ。
エピソード12
(同じ時間に)
S:この人、なんで女の裸をたくさん描いとるん?
T:そりゃあ、きれいだからだろう。
S:女の裸が、そんなにきれいかん?
T:そりゃあ、きれいさ。週刊誌なんかにも、きれいなヌード写真が載っとるやろ?
あんたも、フロから上がった時、鏡で自分の裸を見て、うっとりしたことがあるやろう?
S:…………。
エピソード13
T:「いしゆみ」とは、どんなものか? だれか、絵を描いて説明できんかなあ。
S:はい。………ここがバネになって、ここに石をのせて、このロープをはずすと、石が高く、遠くとびます
。
T:正解! さすがマンガ好きだけあって、絵がうまい。おもしろい!
もっと大きく描いてくれたら、後ろの者にも、よく見えただろうが、まあいいよ。
それにしても、こんなものを、よく知っていたねえ。
S:アニメで見ました。
T:どんなアニメやった?
S:いしゆみで、飛行機をやっつける話です。
T:そりゃあ、ムリだよ。そんなことは、できないよ。
S:ほんとに、石をとばして、飛行機を落とすんです!
T:そうか、アニメがそういう話だったのは、ほんとうだろう。
しかし、現実には、石をとばして、飛行機を落とすなんて、できやせんよ、ちゅうことだ。
そう言えばいいかな?
これは、城の中に据え付けておいて、攻めてくる敵の頭の上に、石を落とす時に使うぐらいの道具なんだ
よ。な?
エピソード14
T:マスコミにふりまわされるな、自分の頭でしっかり考えろ、ちゅうのが、この筆者の一番強く言いたいことらしいなあ。ええこと、言うてるわなあ。
私もね、自分では、マスコミにふりまわされたくない、自分の頭でしっかり考えたい、という気持ちの強い方だと思っているんだけどね、じつは、今日、マスコミにふりまわされて、結果、ラッキーというできごとがあったんだよ。
どんなことか気になるやろ? ちょっとだけ話そうかねえ。
ふだんはバイクできてるんだけど、ここんところ、風邪気味でねえ、一週間ばかり車で来ているんだよ。
カーラジオでRKBの「朝イチタックル」という番組を聞いていたら、当選者発表の3人目で、「小倉南区 の〇〇さん」とオレの名が読まれたの。もちろん、応募ハガキは出しとったけどね、オレはくじ運に弱いから、どうせダメだろうと思っていたんだよ。応募者も150人以上いたというし。そしたら、当選したっちゅうの。ラッキーやろう!
そうそう、それを言わにゃあね。当たったのは「夏子の酒」!
S:ああ、テレビドラマであった!和久井映見が出とった。
T:うん。あのドラマを見ていた者は? ふーん、それくらいか。もとはマンガというか、劇画というか、本らしいんやが、それを読んだ者は? そうか。
私もあのドラマを、それほど熱心に見たわけではないけどね、中井貴一がカッコよかったからやろうね、家内と子供が、熱心に見ていたからね。まぐれでも「夏子の酒」が当たったら喜ぶやろうと思ってハガキを出しておいたの。
S:賞品を送って来たら、学校に持って来て見せて!
T: 酒だぜ。持って来て、味見をさせるわけにも行かんし。
送って来たという証拠になる包み紙か何か、持って来て見せようかねえ。
味については、思いだしたら報告をする、と。こんなもんで、どうだ?
S:ちょっとケチくない?
T:話がちょっと横にそれとったけどな、もとにもどすぞ。
この文の筆者がいうように、マスコミにふりまわされるのは、確かによくない。自分の頭でしっかり考える方がいい。むつかしい言葉でいうと、主体性を持て、ということやなあ。これが理想よ。
しかし、マスコミに、ちょっとふりまわされたら、プレゼントをもらえるようなこともあるんだ。
世の中には、そういう現実もあるということを、知らないでいるよりは、知っていた方がいいんじゃないか?
要は、教科書にもふりまわされるな、ちゅうことよ。わかる?
あまり、いい返事はないなあ。ちょっと、むつかし過ぎたかなあ、こういう話は。
続きを、また、ぽつぽつ書いて行きます。あの世に行く前に、行けるところまで。中途半端で、途切れてしまうかもしれませんが。