表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

帰ってきた勇者は魔王討伐パーティを引き連れメタルを極めんとする

作者: 阿弖流為

鳥入とりいり瑠花るかは転生勇者である。――いや、正確には転生勇者で“あった”。


 彼女が異世界へとトラック転生したのは一年とちょっと前。しかし彼女はその運命を受け入れ、仲間を集め、やがて魔王を倒した。異世界を恐怖のどん底から救った彼女は、女神との契約に基づき復活した肉体と共にこの世界へと帰ってきたのだ。


 一年ぶりの故郷。異世界での生活に慣れきっていた彼女にとって、かつて自分が暮らしていたこの世界は懐かしくもあり、逆に新鮮でもあった。眩しそうに空を仰ぐと、彼の世界で悠然と大空を舞っていたドラゴンやワイバーンの姿はなく、西の稜線から伸びるのは真っ白な飛行機雲。


「ほんとうに帰ってきたんだ、よね――」


 彼女は記憶と目の前の光景を重ね合わせる。


 駅前通りも相変わらず。お店もそのまま、精々、街の看板がいくつか入れ替わっている位で、特に目新しいものはない。ここはうらびれた地方都市、時の流れもゆっくりだった。


 しかし彼女は軽い違和感を感じ取っていた。彼女は辺りを見回した。道行く人のレザーファッション。中には気持ちの悪いコープスペイントを顔に塗りたくっている人も。真っ昼間だというのに。明らかに普通では無い。


(いったい、どういうこと?)


 異世界にいた彼女にデスメタルの呪いはかかっていない。彼女にとって、そこらじゅうから漏れ聞こえるデス声は異様なものだった。この世界を覆い隠す何か奇妙な異変に気付く事ができた、数少ない人間の一人。


「ねえ、ルカ?」

「なに?」


 かけられた声に瑠花は振り向く。後ろ歩く背の高い女性。その整った顔に怪訝そうな表情が浮かぶ。


「この世界の人達って、変わっているのね。ルカが話していたのと、ちょっとイメージが違う感じがする」


 彼女は目をキョロキョロとさせ、つややかな唇に細い指を当てた。困惑した時の、彼女のいつものくせだった。その翠色の瞳が瑠花を見据える。瑠花は何か答えようとして、しかし相応しい言葉が見つからずそれを止めた。


 街往く人の視線は瑠花に――正確には、その視線は瑠花の同行人に注がれているはずだ。瑠花はもう一度、その三人の姿をまじまじと見つめた。


 さっき親しげに声をかけてきた女性。その神々しさは淀んだ世界の中でさえ穢れ無き神聖な光を放つ。腰まである金髪、まるで作り物のように整った顔と大きな瞳。丈の短い奇妙な服から伸びるのは、サバンナを駆ける野生動物を思わせるスラリとした四肢。そして長く尖った耳。彼女はエルフ。かつてハイエルフ族の族長として名を馳せた程の高貴な名(ランク)を持つエルフだった。


「畜生、呪いの臭いがプンプンするぜ。どうするね、勇者様」


 エルフの隣を歩く筋肉隆々のオッサンが吐き出すだみ声。その漆黒の瞳はギロリと辺りを見回す。背は低い。だがその眼にはほんの僅かな邪悪さえも逃さない力が宿っていることに異論を挟む者はいないだろう。ドワーフだった。


「ごしゅじんさま!」


 負けじと可愛らしい声をかける年端も行かぬ少女は奴隷ちゃん。だが残念なことに彼女は何も考えていない。彼女の目には街並みも道行く人々も入っていない。奴隷ちゃんの目が追いかけているのはいつも、凛々しくて優しい瑠花の姿。


 そう。彼らは瑠花と苦楽を共にしたパーティーの一員だった。死線を幾度も潜り抜け、何物にも代えがたい経験を得た彼らは瑠花と一心同体だった。魔王を斃し、使命を全うした彼女達に訪れるのは永遠の別れ。だがその間際、三人はこの世界へ来ることを選択したのだ。故郷を離れてまで彼女と人生を共にすると決めた


 程なくして彼らはこの世界がデスメタルに支配されたことを知る。そして選択した。原因を突き止め秩序を取り戻す。その想いを胸に。


 何故なら瑠花は勇者であり、仲間達も愛と平和を願う戦士だからだ。


 剣をエレキギターに替え彼女ルカは立ち上がった!


「♪ 邪悪に支配された世界!

   太陽は塵と魔法に隠れ、鈍い赫色が空を覆う

   地は吐き出される毒と水銀に塗れ

   地獄の使者が続々と這い出てくる!」


 彼女は歌う。願いを込めて。


「♪ 精霊よ力を貸し給え!

   ドラゴンよ、その偉大なる翼を広げ給え!

   賢き四種族、白き魔法使い、死を恐れぬ勇者!

   苦難の道を共に行かん」


 彼女は勇者であると共に吟遊詩人でもあった。そう、魔王を倒し世界を救う使命を与えられた勇者は、同時に癒し人でもあった。夜の森。焚き火を囲み彼女の紡ぐサーガは冒険者を、旅人を、幾度勇気付たことか。


「♪ 迫りくる魔獣、魔王の眷族!

   薙ぎ払え、ドラゴンフレイム!

   ダンジョンに木霊するのは剣と剣がぶつかる激しい音

   行け、我が仲間達! ピロピロピロピロ……」


 ギターソロ。彼女の新たなチートスキル〈ピロピロ〉。手にしたエレキギターはカービンの(ジェイソン)(ベッカー)モデル。瑠花の指がフレットを舞う。唸るソルダーノのスタックアンプ。


「♪ ダンジョンの最下層

   斃れ往く仲間達

   だが後ろを向くな!

   魔王の潜む部屋はもうすぐそこなのだから――」


 このあまりに恥ずかしい歌詞。別にコミックバンドを目指している訳ではない。彼女は何も考えていないのだ。ただ単に、彼女が異世界で戦った内容を歌っているだけだった。


 だが、何故か彼女達の奏でる音楽は、どういうわけか聴く者の心を揺さぶった。いつしか瑠花達はスターダムをのし上がっていた。


(音楽には音楽で対抗――。デスメタルには別のメタル……そう、RPGメタルで対抗!)


 何処かに、この異変を司る邪悪が潜んでいる。倒すはデス四天王。その先に黒幕がいるはず。瑠花は、仲間達は、スクールアイドルの頂点を目指すことを決意した。今日も彼女は歌う。


 最初は駅前の演奏。ストリートで始まった四人のバンドは今や、かなり大きな(会場)をオーディエンスで埋め尽くすようになっていた。


 やがて彼女らは運命に導かれ、ライバルと邂逅することとなる――


『ルカたんズ』


 ――それが彼女達のバンド名だった。


ごめんなさい。元々、連載中の「ランちゃんが来た! ~魔法で召喚★鋼鉄天使~」のライバル登場回だったのですが、冷静になって考えるとさすがにこれは無いよ……と思い直し、オミットした回です。

削除するのは心苦しいので、短編として再利用です。

いえ……分かってます。ふざけ過ぎです。駄目ですよねこんな内容。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ