第8話 恋愛スキルで森林へ
「恋愛スキルというのは文字通り悠真さんに恋愛をしてもらうというスキルです」
「れ、恋愛をしてもらう?」
「はい。恋愛をしてもらうというのは、悠真さんが選んだ女性と恋に落ちてもらうということです。もし選択した女性が初対面の人でも、そのスキルの力で悠真さんと接点を持つようになります」
(なんか凄いスキルだな...)
「な、なるほど.....」
「その後は悠真さん次第ですね」
「俺次第?」
「はい!次々とその女性とのイベントが発生するので、悠真さんにはそのイベントで女性に好意をもってもらうようにするんです!そうすればスキルの効果がなくなっても、その女性はもう悠真さんにメロメロですよ」
「なるほど!!!それは凄いスキルですね!!!」
「ただし、選べる女性は3人までです。しかも、もしイベントなどで嫌われてしまったらスキルの効果終了後もう二度と口を利いてくれなくなりますよ」
「もう二度と...ですか?」
「はい、もう二度とです....」
なんて残酷なスキルだ........代償が大きすぎる。
「まぁこの恋愛スキルにはサポート機能もありますし、悠真さんが頑張って女性のハートを掴めば問題なんてないですよ!!」
「そうですね。俺頑張ってみようと思います!!!」
そして俺は部屋で一人天井に拳を掲げて、こう叫んだ。
「恋愛スキル発動!!!対象はライル・シルフィーナさん!!!」
俺が大声で叫ぶと、身体を淡いピンク色のオーラ的なものが周りを包んだ。
「これでスキルの効果が発動ですよ!!スキルの効力は1週間なので頑張ってくださいね」
「ありがとうございますレイン様!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、今日はお店で恒例のイベントがあるのでお客さんも沢山いてとても賑わっている。
俺がティムさんとキッチンで作業をしているとーーーー
ライルさんが足を滑らせ倒れそうになる姿が頭の中をよぎった。
「こ、これが恋愛スキルのサポートか....この次どうなるかわかっていればこっちのものだ!!」
俺はキッチンを飛び出し、ライルさんのもとに駆け寄り、ライルさんを支えてあげた。
「おっ、良いとこあるじゃねえか坊主」
俺の行動を見ていた近くのお客さんに褒められて俺は少し浮かれた。
だがそんな時間も束の間ーーーー
「離してください!!あなたに支えられなくても私は大丈夫ですから!!!」
そう言ってライルさんはキッチンの奥へと戻って行った。
「そ、そんな....まぁまだ1週間もあるし、これからが大事だ!!!」
ライルさんがこぼした食べ物を掃除しながら、俺は次の作戦を考えていた。
翌日、さらに次の日ーーーー
ライルさんにいくらアタックしてもライルさんは振り向かなかった。
「一体どうすれば.....」
レイン様、ティムさん、グリスさんなど、いろんな人に聞いてまわったがどの作戦も不発に終わった。
そして、なんの進展もないまま、ライルさんと隣町へ買い物に行く日になってしまったのだ.....
俺がこの数日行ったことでまともなことと言えば、双剣の練習くらいだった。ただし独学だがーーー
ライルさんへのアタックは不発だし、結局俺には運がないのだろうか.....
そんなことを考えながら俺は今日もみんなが寝静まった夜に庭で1人、剣を振るった。
ーーーーーーーーーーーーーー
森は小さい割には結構深く、木々が立ち並んでいた。
俺とライルさんは一言も喋らず、森を進んでいった。
グリスさん曰く、この森は魔物は出るが、もし道に迷ったとしても、遅くても1時間で抜けられると言っていたはずがーーーー
俺たちはもうかれこれ2時間はこの森にいる。
「さっきもこの道通りませんでしたか?」
「.....えぇ、そうですね」
以前のこともあり、明らかにライルさんは不機嫌だった。
「とりあえず止まってても仕方ないから先に進みましょう」
そう言って先に進もうとしたその時ーーーー
ゴォォォォォォオン!!!
という音と共に、ライルさんの後ろの木々が倒れ、その奥から木の見た目をした魔物が3体出現した。
「ま、魔物!?」
急に出てきた魔物達は隙をついてライルさんに攻撃してきた。
「くっ.....」
魔物に突き飛ばされたライルさんはそのまま後ろの木に叩きつけられた。
「大丈夫ですか!?ライルさん!?」
「ユウマさん!!前!!!」
ライルさんに気を取られていた俺は魔物の攻撃に気づかなかった。魔物は腕を鞭のようにしならせて俺に向かって振り下ろした。
あ、これ俺死ぬかも.....
怖くなった俺は思わず目を瞑った。
ドン!!!
何か大きな物音がした。俺は恐る恐る閉じていた目を開けるとーーーーー
そこには先程までいた魔物の姿はなかった。
「えっ?」
俺は何が起きたか理解するまで少し時間がかかった。
「怪我はありませんか?」
辺りを見渡すと、俺の目の前にいた魔物は奥の木に叩きつけられていた。
「ライルさんがやったんですか!?」
「はい、そうですよ」
そう淡々と言ったライルさんの右手には"白い槍"が握られていた。
そうだった。ライルさんは冒険者、しかも武闘家の上級職の戦士。こんな雑魚モンスターなんて余裕なのだろう。さっきは隙をつかれたからに違いない。
「ユウマさんは下がっていてください。急に現れて隙をついて攻撃してくるなんて....卑怯な!!」
そう言うとライルさんは槍を握っている右手を前に突き出しこう言った。
「闇の力を我にーーー"常闇の槍"!!!」
ライルさんがそう叫ぶと、槍が黒く禍々しい色に変化し、周りの空気が一変した。魔法なんて俺にはまだわからないが、素人の俺でもわかる。
"このままこの魔物達は死ぬと"
身の危険を察知したのか、魔物たちが逃げようとするが、ライルさんはそれを許さなかった。一瞬にしてライルさんは姿を消した。
どこに行ったのかと思えば魔物達の上空に現れ、右手で持っていた槍を構え、地面めがけて投げた。槍はものすごい勢いで地面に突き刺さり、その周りにいた魔物達はその衝撃波でも真っ二つに切り裂かれた。
「す、凄い.....」
ライルさんは優雅に地面に降り立ち、槍の色も元に戻った。
「あっ、ありがとうございます」
「ユウマさんも運の波動を高め、オーラを解放してください。そうでないと危険です」
「そ、それが......」
俺は自分のこの不運な状況をライルさんに説明した。
「う、運気がない!!!???この世界で運がないってことはすなわち死を意味しますよ!?」
「はい、わかっています。わかってはいるんですけどね.....」
俺の状況を知り、喧嘩していたのも忘れるくらいライルさんは驚いていた。
「ということは魔法も使えないんじゃないですか!?」
ライルさんが驚いているとーーーー
ゴォォォォォォン!!!!!!とさっきよりも大きな音が鳴った。
後ろを振り返ると、さっきの魔物の3倍は大きい、いわゆるボス級のやつに遭遇した。
「なぜこんなところに森の主が!!??」
ライルさんはボス級の魔物を見て、とても驚いていた。
「も、森の主!?」
「えぇ、この大きさと魔力量だとたぶん主のひとりだと思います」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!」
森の主は木の鞭で周りの木々を粉砕し、こちらに近づいてきた。
「森の主がその気ならば私も。ユウマさんも魔法が使えないとはいえ、双剣は構えておいた方がいいですよ。常闇の槍!!!」
ライルさんはさっきの槍を持ち、森の主に戦いを挑みに向かった。
ライルさんは森の主の攻撃に合わせて槍を振るい、攻撃を去なした。何度か攻撃を避けた後、ライルさんは攻撃と攻撃の間に出来る隙を見逃さず、前足を踏み込み、槍を突き刺した。
たまらず森の主は後ずさり攻撃された場所を守るがその守っている枝をライルさんは槍を回しながら森の主に向かって投げ、枝を全て切り落とした。枝が無くなり丸裸になった箇所を駆け上がり槍を回収、そのまま全体重を槍にかけ、森の主の下半身を切り裂いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
十分後、ライルさんは苦戦していた。
森の主は攻撃してもダメージを受けた部分を自己回復し、再生させるのだ。いくらライルさんといえどもう少しで魔力も底をつくだろう。
あれから俺は主が引き連れていた雑魚モンスターと戦っていた。魔物がもし出てきたとしても、ちゃんとライルさんを守れるようにと、剣の練習をしておいて良かったと安堵した。まぁライルさんは俺なんかに守られなくても充分強いんだけどね.....
「よし、だいぶ倒したな。俺もライルさんの手助けに行くか!!」
俺がライルさんが戦っている場所に向かおうとしたその時ーーーー
ドォォォォォォン!!!!!!!!!とものすごい音が森に響き渡った。
「ま、まさかライルさんの身に何かあったんじゃ.....」
俺は急いでライルさんのもとに向かった。
だが、遅かったーーーー
そこには俺の記憶の中にある”あの忌まわしき記憶”がフラッシュバックするような.....見るに堪えない光景がーーーーーー