第7話 アンラッキースケベ
翌日ーーーーーーー
今まで経験したことのない疲労が俺を襲った。
「これが二日酔いってやつか......」
確か親父もよく二日酔いになってたな。俺が死んでから、あっちの世界は一体どうなってるのかなぁ〜
そんなことを考えながら俺はグリスさん達の所に向かうため、下に降りた。下に降りるとそこには俺と同じで二日酔いでぐったりしている3人の姿があった。
「あっ、ユウマさんも二日酔いですか?まぁ昨日あれだけ飲んだら二日酔いにもなりますよね。今日は皆さんこんな感じなのでお店は臨時休業らしいです」
「わかりました。アキさん俺ちょっと風呂に入ってきますね」
俺はそう言い、風呂場に向かった。ラヴスウィーツの2階はシェアハウスのような構造になっていて、風呂やトイレは基本共有である。俺は風呂場に向かいながらライルさんと会ったりしないよな.....なんて考えていた。
俺はこの2週間俗に言うラッキースケベというやつを俺は発生させていたわけだが......
俺の場合はラッキースケベではなく、”アンラッキースケベ”だ。
グリスさんによると、ライルさんも俺と同じバイトで、ライルさんの本職は冒険者らしい。それも接近戦が得意な戦士だという。だから俺はライルさんにボコボコにされるのだ。これも俺の不運の影響なのだろうか.....
そんなことを考えてるうちに風呂場まで到着した。俺はおそるおそるドアを開けたーーーーーー
案の定そこには着替え中のライルさんがいてーーーーーー
「ユ、ユウマさん!!??なんでいつもこういうタイミングに来るんですか!?この変態!!!」
「ご、ごめんなさいっ!!!」
俺は数十秒前に言ったフラグを即回収し、殴られる。もうこの展開がこの2週間で結構な回数続いている。もはや日常生活の一部になりそうだ.....
ライルさんも根は悪い人ではないので、謝ればなんとか許してはくれるが、毎回殴られるとやはりこちらも痛い。
ライルさんは急いで着替え、風呂場をあとにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ...またやっちまったな」
風呂に入りながら今後のことについて俺は考えていた。このままバイトをして地道にコツコツお金を貯め、暮らすのも悪くないと思っている自分がいる。
でもその一方で、やはり異世界に来たのなら魔法を使ったりして、大きな敵を倒したりしてみたい。
もしそうなると今のバイトと冒険者を両立、もしくはそのどちらかをやめる必要がある。もし辞めるとしたら多分バイトだろう。
今の環境は凄く裕福な環境なのかもしれないが、冒険者をやってみたいという気持ちも強い。
「まぁこれから考えるとするか.....」
とりあえず身体の疲れを癒すために考え事はやめ、俺はゆっくり湯船に浸かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
風呂から上がった俺はグリスさんにホールへと呼び出された。ホールに行くとそこにはグリスさんとライルさんがいた。
「それでグリスさん、話って?」
グリスさんは俺にライルさんと一緒に1週間後隣町まで買い物をしてきて欲しいと言った。俺はこの世界に来て、この街以外の場所に行ったことがなかったので楽しみなのだが、ライルさんは俺と違いそこまで乗り気ではなかった。
まぁ多分理由は俺がいるからだろう......
グリスさん曰く、道中には魔物が出る小さな森があるらしいので、もし魔物に出会った時のことを考えて、今のうちに武器などを買った方がいいと薦められた。武器のことなんてわからない俺は、ライルさんに付き添ってもらうことにした。付き添ってもらうことを了承してもらうために結構説得が必要だったが.....
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お店から1番近い武器屋に着いた俺たちは大柄な体型の武器屋の店主、ギドさんにおすすめの武器を聞いた。
「それっぽっちの金じゃうちにある中だとこの2つしかないな」
ギドさんはそう言って2つの武器を持ってきた。
1つ目はちょっと安っぽいが、美しい装飾が施されている鉄の剣と鉄の盾のセットだ。
もう1つは、紫色の綺麗な宝石のようなものが埋め込まれている刃の短い双剣だった。
だが、その剣は刃がボロボロで錆びついていて、もう使えそうにないものだった。
俺の所持金は銅貨3枚だ。確かにこれだけじゃ買えるものも少ないだろう。というか、銅貨3枚で買える武器があることが逆に凄いな。
「まあ、この2つのどちらかを選べって言われたらもちろん鉄剣と鉄盾のセットの方が得ですよね」
「やっぱりライルさんもそう思いますよね。じゃあーーーーーー」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
否......
我が核は鉄剣それではない......
貴様はその剣を手にする運命さだめ......
自身の運命さだめに抗うな......
ただ運命さだめに身を任せておけば自然に己おのれはーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
気が付くと俺は錆びれた双剣を握っていた。
「「「えっ!?」」」
「ユウマさん、そちらにするんですか?」
「いや、もちろんこっちの鉄剣にしますよ」
と言い、手を離そうとするもーーーーーー
その手は離れなかった。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっと......」
「おいおい、結局どっちにするんだお客さん」
こんな古い双剣よりも、剣と盾の方が実用性が高くて得だというのに、手が動かない。力一杯動かそうとしても石のように重く、びくともしない。
俺は仕方なくーーーーーー
「これください.....」
錆び付いた双剣をギドさんに差し出した。
「こんなもんを買うなんてお客さん、よっぽどもの好きなんだな。毎度あり」
買うつもりのなかった古びた双剣を片手に俺たちは店を出た。まぁ買ってしまったものはしょうがない。部屋に戻ったら錆でも取るか......ライルさんと少し喋りながらそう考えているうちにお店に到着した。
「今日はありがとうございました」
「いえいえ、でもあれで良かったのですか?」
「はい」
「そうですか。では1週間後にまた」
そう言って別れ際にライルさんは笑顔で俺に微笑んだ。
この前まで怒っていたと思えば、急に笑顔を見せる。女性の心というのはよくわからない。
俺はなぜ武器屋で双剣を手にとったのかーーーーーー
不思議で仕方なかった。
それと、なにかーーーーーーーーーー
声が聞こえた気がーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やってしまった......」
俺はお店の階段の下に横たわっていた。俺の下には濡れたタオルを巻いているライルさんがいて、その彼女の胸を俺はーーーーーー
なぜこんなことが起きたのか。それは2時間に遡る。
とある用があり、俺は風呂場にいた。
「よし、これが頼まれていた洗剤か。これを新しいのに変えればいいんだな」
用事を終えた俺はグリスさんに報告するために1階に向かった。
階段を下りようとしたときーーーーーー事件は起きた。
俺は階段を踏み外しそのまま階段を転げ落ちたのだ。
だがそこまで痛くなかった。その理由はなんとなく想像がついた。
最初に言っておく。ライルさんは悪くない。悪いのは俺だ。階段を転げ落ち、ライルさんの胸を揉んでしまった。そしてさらに追い打ちをかけるようにその現場をティムさんやサキさん、グリスさんに見られて、今に至る。
「おい.....ユウマ.....お前なにしてる」
「ユウマちゃんったら大胆ね♡」
「そういうことは部屋でやってください」
今までライルさんとラッキースケベ的な展開にはなったがそれはライルさんの裸を見てしまったりとそういうことが多かった。だが今回はライルさんの胸を揉んでしまうという初めてのパターンだ。
レイン様ーーーー椎名悠真、異世界生活半年も経たずに死にます。
それにしても......女性の胸というのはこんなに柔らかいのか.....よくアニメなどでマシュマロみたいとか言っていたのを俺は信じていなかったが、今日から信じることにした。
「っ!?!?........ユ、ユウマさんなんかもうしりません!!!」
ライルさんは涙を流しながら事故現場をあとにした。
いつもならライルさんに殴られて俺がめっちゃ謝って終わるのにーーーーーー今日は殴られてもないのに今までで1番辛く感じた。
「あーやっちまったな」
「はい......すみません、ちょっと1人になってきます」俺はそう言って自分の部屋に戻った。
「レイン様。見てましたよね?」
「はい。バッチリと...」
「俺はこれからどうすればいいですかね?」
「それはとりあえずライルさんに謝るしかないですよ」
「それはわかってます。でも今回はただ謝るだけではダメだと思うんです」
そう、今回はいつもと違う。いくら事故とはいえ1人の女の子を泣かせてしまったのだ。
「そうですか。椎名さんがそこまでの覚悟があるならなら、いよいよ恋・愛・ス・キ・ル・の出番ですね」
いつにも増してレイン様は真剣な表情で話し出した。