第1話 不運な少年
俺の名前は椎名悠真。ごくごく普通の高校生だ。
この春、高校生になったばかりの俺の中学校時代はただただ普通だった。
普通の成績、普通の運動神経で普通の学校生活を送っていた。俺はあまり人付き合いが苦手な方なので友達もあまりいなかったし、もちろん彼女なんていなかった。
だが、俺も男だ。彼女ぐらい欲しい。だから俺は、高校は知り合いが全然いない高校を選び、その高校に合格するために俺は全力で勉強をした。普段の俺ならめんどくさがってなげだしていただろう。
だが今回は違う......俺には目的があるからだ。俺の目的はただ一つ......
彼女をつくること!!!!!
俺が進学した高校は全校生徒の7割が女子、3割が男子の学校だ。流石に高校生にもなれば彼女が出来ると思っていた。だが、現実はそんなに甘くない......
俺は彼女をつくるできるどころか、まともに友達すらつくっていなかった。
そして、そのまま夏休みが始まってしまった......
一つ言い忘れたことがあった。
最初に俺は、ごくごく普通の高校生だと言ったがそれは大きな間違いだ。
今の俺の状況を表すいい単語がある。
そう。俺は――――不運だ......
俺には運がない。運とは、その人の意思や努力ではどうしようもない巡り合わせを指す言葉だ。その運が俺にはない。
空き缶を踏んで転んだり、信号にいつも引っかかったり、自転車が必要なタイミングでいつもタイヤがパンクしていたり、溝に自転車のタイヤが引っかかり転んだり、ジャンケンに至っては後出しや相手が何を出すか事前に知らないと勝ったことがない。鳥のフンが当たることなんてしょっちゅうだ。
俺の運命が大きく変わったあの日もまた、俺は不運だった。
それは夏休みに入って間もないことだった。俺は母さんに用事を頼まれ、仕方なく近所のデパートに来ていた。頼まれたものを買って帰ろうとしたとき、俺の目にある人物が映った。
それは、同じクラスの菅原悠來さんだ。俺は今、この菅原さんに恋をしている。
俺の片思いだが......
俺が最初にクラスに馴染めないでいるときに菅原さんは積極的に話しかけてきてくれたり、優しく接してくれたりしてくれた。俺はそんな彼女の優しさに惚れた。
こんな暑い日に菅原さんに会えるなんて俺はなんて幸運なんだ!!
と思ったが......この日、俺の人生史上最も不幸な一日になることを、この時の俺はまだ予想もしていなかった......
俺は勇気を振り絞って菅原さんに声をかけてみることにした。
「あ、あの......菅原さん。こんなとこで会うなんて偶然だね」
「あっ、椎名君!?偶然だね。元気だった?」
「うん、元気だったよ」
俺は菅原さんとたわいもない会話をした。俺はこの時、この日が俺の人生の中で一番運がいい日だと思った。俺はこんな時間が永遠に続けばいいなと思っていた。
だがその時――――
とてつもない揺れと轟音があたりに響いた。俺や菅原さん、そしてこのデパートにいた全ての人が、驚き、助けを求めていた。20秒間くらいだろうか、その大きな揺れと轟音は続いた。揺れや轟音が収まったと思ったら次は上の階で大きな爆発が起こった。
その時、爆発の音に混じって、何か別の音が聞こえた。
そしてその何かは次第に大きくなり俺の耳にまでしっかり聞こえてきた。
「ようやく見つけたぞ......器」
「う、器??」
俺は、一体何を言っているのかさっぱりわからなかった。
そして俺達はそのままデパートの爆発に巻き込まれ、がれきの下敷きになってしまった......
俺は必死に菅原さんを守った。この身に代えても守ると誓った。なぜならそれは俺が大好きな人だから......
菅原さんをかばったせいで、がれきが体に当たり、俺の体はもうボロボロだった。意識が朦朧とする中、やつは俺たちの前に現れた。
「よぉ、器」
そこに現れたのは、明らかに現代の服装ではない見た目の黒いフードが付いた服を着て、顔の右側に大きなやけどの跡があり、そして片手には大きな鎌を持った男だった。
「あなたは一体何者なの?」
すると、男は一言......
「お前に話すことはない。黙れ......」
だが、菅原さんはもう一度言った。
「私は黙らない!!!もう一度聞くわ。あなたは一体何者なの?そしてなんで椎名君を器って呼んでるの?」
すると男は態度を急変させ、大声で言った。
「あっ??いちいちうるさいんだよ女ぁぁ!!!!俺はそこの器にしか用がないんだよ!!!」
そう言うと男は右手に持った鎌を大きく振り回し、菅原さんの頭部を切り落とした。その瞬間返り血が俺や男にべっとりとこびりついた。血の生臭い匂いと生暖かい感触が手の中に広がった。
「......うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
その日、俺が愛した人は無残な姿で力尽きた......
俺は菅原さんを殺したこの男に、今まで生きてきて感じたことのない”殺意”を自分でも感じた。
そして、俺は生まれて初めて人を殺したいと思った。
「くそっ、くそっ......殺してやる、殺してやる、殺してやる!!!」
「その体でか??笑わせるなよ!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!!!!」
俺は菅原さんを失った悲しみでどうにかなりそうだった。
「うるさいから黙ってろよ器!!!」
そう言うと男は右手に持った鎌で俺の右腕を切り飛ばした。菅原さんの血と俺の血が混ざり合い、さらに異様な匂いを放っていた。
「ぐはっ.......」
俺は、痛みを耐えるので必死だった。
「お前は俺にとって邪魔なんだよ器......大人しく死んでくれ」
「そ、その器って一体なんだ。なんで俺を狙った......」
「仕方ないな......じゃあ死ぬ前に一つ教えてやるよ。お前はとある伝説の神器に選ばれた。その神器があると、後々俺の計画に支障がでるんだよ。だから俺はお前を狙った......恨むならその神器を恨みな」
俺は恨んだ。
そのとある伝説の神器にーーーーーーーー
俺は恨んだ。
自分の不幸にーーーーーーーー
「あばよ......器」
そうして男は大きな鎌を構え、一気に俺目掛けて振り下ろした......
そこで俺の意識は途絶え、椎名悠真の不運な十六年の人生は幕を閉じた。