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バードとオレア

 王宮から駆け付けたバードを待ち構えていたイーグルは、アイリスのとの結婚について早速申し出ることにした。バードは最初冗談を言っているとしか受け取らず、何度か遣り取りをして二人の本気を確認した時、案の定眩暈を起こして倒れそうになった。隣にいたオレアが咄嗟に支えて事なきを得たが、やはりその唐突な申し出を受け入れることは出来なかった。




 孫ほどの年の差の縁談。

 白い結婚。

 そして―――相手は仮ではあるが元婚約者の祖父だと言う。


 世間からペイトン家が何と言われるか分からない。しかしそれについてはバードにとってはあまり重要なことでは無かった。


 傷つき疲れ果てたアイリスが、その結婚のために何と言われるか。言われの無い疑いを持たれるかもしれない。

 そしてイーグル自身と彼が背負うヘイズ家も、その名誉を傷つけられるかもしれない。それはフォーンの不祥事の比ではない筈だ。ひょっとしてフォーンの裏切りでは無く、アイリスが先に裏切ったのかもしれないと噂されるかもしれない……全くあり得ないことだが。




 頷かないバードをこれ以上追い詰める事はせず、アイリスに何事かを囁きイーグルは「また来る」と言って結局その日はペイトン家を立ち去った。エントランスで並んでイーグルを見送った後、バードは毒気を抜かれたような声で呟いた。


「アイリス……本気か」

「はい」


 その声の確かさに、バードは思わず娘をマジマジと見つめ返す。痩せてこけた頬、艶を失くした髪―――しかし瞳はキラキラと輝きを取り戻していた。そんな事は本当にしばらくぶりだったのだ。そう、ペイトン家に同じヘイズ家のイーグルの息子であるディアが来訪し、婚約を無かった事にすると告げて以来のことだった。


「しかし……しかしだな。その、白い結婚などと例え公言しても、きっと世間はそうは受け取らないだろう?イーグル様の言うように好いた相手が出来た時に離婚すると言っても……その、そう上手くは行くまい?」


 アイリスはスッと視線を落として呟いた。


「私は……離婚なんて考えていません。好きな相手なんて、この先一生出来ませんから」

「アイリス……最初の恋が全てだと思ってしまう気持ちは分かる。若い内は皆そう思うものなんだ。けれど―――」

「それは―――お父様がそうだったから?」




 パチン。




「バード!」




 オレアの責める声に、思わず手を出してしまったバードが驚いたように自分の手を見つめて固まってしまう。打たれた頬を微かに朱くして、叩かれたアイリスの方がまるで加害者になったかのように顔を歪めた。

 これまでアイリスはオレアとの再婚を応援しこそすれ、責めるような言葉を口にした事は無かった。更にアイリスが面と向かってバードに反抗したのも先日縁談を断ったのが初めてのことだった。そして表には出さないものの、アイリスを溺愛していたバードが娘に手を上げたのも、これが初めてのことだったのだ。




「オレア……ごめんなさい……」

「アイリス!……大丈夫、分かっているから」




 オレアは素早くアイリスを抱きしめる。アイリスはオレアに許しを請うように縋った。項垂れるバードに強い視線を送り、オレアはアイリスの背を宥めるように撫でた。その日久し振りに早く帰宅したというのに、バードは一人寝をを余儀なくされてしまった。オレアはアイリスの自室で一緒にベッドに入り、一晩中女同士で何事かを語り合ったのだった。







 朝方漸く眠りに就いたアイリスをベッドに残し、オレアはゆっくり眠れずに夜を過ごした夫の元を訪れた。オレアの口添えに渋々バードは頷いた。


「ディアがなんと言うか分からん。それに王宮の許可が出ないかもしれないし……」


 と諦め悪く呟くバードにオレアはもっともらしく頷いた。


「貴方のおっしゃる通りです。けれども縁談としては申し分ないお話でしょう?私達だけでも、アイリスの気持ちを尊重してあげませんか?あんなに明るいアイリスは久しぶりですもの」

「うむ……」




 しかしそうは行っても、二人とも何となく分かってはいたのだ。イーグル=ヘイズが成し遂げようと決めたことを、阻める者などこの国には存在しないのだと言うことを。

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