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訪問

 ペイトン家に辿り着いたイーグルを迎えたのは、サラリとした赤髪を纏めたアイリスの義母であるオレアだった。


「イーグル=ヘイズ卿、わざわざご足労いただき有難うございます」


 元文官のオレアは英雄のお出ましに恐縮した様子で頭を下げた。しかし義理の娘であるアイリスを心配してか顔色は悪く、なのに瞳は期待に輝いていた。アイリスがとてもイーグルに懐いており、全幅の信頼を置いていたことを彼女はよく知っていたのだ。


 イーグルは手を上げてそれ以上の挨拶を制し「アイリスに会いたい」と簡潔に告げる。するとオレアはコクリと頷いた。


 ディアは王宮のバードとペイトン家双方に先触れを出していた。イーグルの来訪意志を知ったバードは、オレアに彼を迎えるよう許可を与えていた。バードはディアと入れ替わりで王宮に入った所だった為、イーグルの来訪に対応する為直ぐに取って返す事がかなわなかったのだ。しかしバードの有能な部下であったオレアは蒼ざめた顔色をしつつも、当主である夫の意を受けて冷静に英雄を案内した。


「食事を取っていないそうだな」

「はい、今日で丸二日になります。水は少し飲んでいるようなんですが……」


 それから手洗い場には隙を見て出入りしているらしい。顔を合わせた者もいたが、アイリスは頑として食事を拒んでいる。いつも誰に対しても人懐こく笑顔を絶やす事のない彼女が、無言無表情を通すとそれだけで威圧感を与えるようで、使用人達は何も言えなくなってしまうそうだ。

 バードとは冷戦状態を続けており、その一方でアイリスは徹底的にオレアを避けていた。おそらくオレアの懇願に弱い自分を知っているからだろう、と彼女は分析している。オレアはこのままアイリスが無理を通すなら、更に彼女が目に入れても良いほど可愛がっている異母弟のレオを前面に出しても良いとも算段している所だった。これまで幼い彼の精神面を考慮して、バードとアイリスの争いから隔離していたのだ。


 だからもう限界に近付きつつある今、イーグルが来てくれたのは渡りに船のことだったのだ。




「アイリス」




 アイリスの私室のドアをノックして、オレアは声を掛けた。返事はない。


「イーグル様がいらっしゃったわ」


 カタッと微かな音が聞こえた。しかし返事は聞こえない。


「アイリス、開けて頂戴」


 アイリスが掛けた内鍵は、外側からマスターキーで開ける事が出来る。ただし内側に椅子やテーブルを置いて、簡単に開かないように工夫しているようだ。ドアの向こうの僅かな動揺を捕らえたオレアとイーグルは目を見交わした。イーグルは頷いて一歩前へ出る。




「アイリス、開けなさい」

「……」




 暑い扉の向こうに気配を感じた。アイリスが息を詰めてこちらの様子を窺っている、それをイーグルの研ぎ澄まされた感覚が拾った。


「話がしたい。ここを開けなさい。お前が開けなければ―――実力行使で開けるまでだ。修理費を俺に払わせたいのか?」

「―――」


 イーグルの威圧の効果がはっきりと表れた。やがてガタガタと扉の内側で物を動かすような音がして……十センチほど、扉が細く開く。しかしアイリスの姿はそこには見えない。扉の後ろに隠れるようにしているのだろう。イーグルは眉根を寄せたまま、オレアを振り返った。オレアは頷いて掌で入室を促す。


「どうぞ。少しだけ……扉を開けたままにして置いていただけないでしょうか?こちらに控えさせていただきますので」


 孫のような年の差、いや孫そのものと言って良いほどの関係とは言え、親族以外の男と成人一歩手前の女性と二人切りにするのは躊躇われるのだろう。イーグルは了承の頷きを返し、アイリスの私室のドアに手を掛けたのだった。

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