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6 ホットドッグ、おつかいに行く

 シュカと俺はお師匠様のおつかいで王城に魔法鉱物を届けにやってきた。着いた先はホットドッグに変化する前の見慣れた光景。魔法軍の訓練施設だった。

 魔法剣の訓練を横目に見ながら、休憩室に通される。そこには第三王子時代の仲間――ニコルとサイラスがいた。


「あれ、建国記念日の式典、途中で帰っちゃった子じゃん」

「え? まあそうですけど……」


 ニコルに話し掛けられて、シュカは驚きを隠せない。


「ミランダ様のお弟子さん困っているじゃないか。こいつが失礼した。目だけは良い奴で」

「目だけって失礼な」


 ニコルとサイラスは実戦だけでなく、普段の掛け合いも息が合っている。

 サイラスに促されて、シュカは魔法鉱物を取り出して、使用方法の説明を始めた。ニコルは「魔法を無効化できるって、応用範囲が広いんじゃないか」と盛り上がっている。


 俺はシュカのバッグの中にいたが、冷たい視線を感じていた。シュカの話に反応するのはニコルだけで、隣に座るサイラスは腕を組んでいるだけで言葉を発していない。

 恐る恐るバッグから目元を出すと、サイラスの睨む目と合ってしまった。慌てて目を引っ込めるとバッグからボフッという音が上がる。

 沈黙の音が流れた。シュカは「バッグに変なものが入っていたようで……」とバッグの形を整える。


(ねえ……なんか睨まれていない?)

(さあ……)


 シュカは小声で俺に話しかけた。俺は背中に大量の汗をかいている、たぶん。

 サイラスがブーツの音を立てて近づいてきた。


「先程から美味しそうな匂いを漂わせているが、万が一危険物の可能性がある。中身を出してもらおうか」


 そうか、美味しそうな匂いは隠しきれなかったのか。

 拒否権はなかった。シュカが俺を取り出し、「こちらです」とサイラスに見せる。俺は直立不動で下される判定を待つ。

 サイラスは俺を受け取ってから二、三秒沈黙する。


「……ホットドッグ王子が、ホットドッグになってしまった!」


 魔女の呪いで俺の名前が呼べないようだ。しかし、俺をホットドッグ王子と呼んでくれるのならまだ救いがある。王子の一人だと覚えてくれているからだ。


「ホットドッグ王子の存在はサイラスと俺以外、皆忘れてしまったようだよ。名前も呼べなくなっているみたいだしね」とニコルは話を付け加える。


「なぜ、魔女の呪いがお二人には効かなかったのでしょうか」


 シュカは疑問を口にする。第三王子の存在をニコルとサイラスだけが覚えていた。東の魔女ミランダでさえ効いてしまう強い呪いであるにもかかわらず。


「ホットドッグ王子がいなくなったあの日、俺とニコルはミランダ様から、この魔法鉱物のサンプルを預かっていた。魔法鉱物に触れることで、魔女の呪いを一部無効化できたのではないだろうか」


 サイラスは思い出して、一つ頷いた。


「ということは、お二人以外にはホットドッグ王子がいたと覚えている人はいないということですね」

「そうだと思うよ、ミランダ様のお弟子さん。ホットドッグ王子と言ったら、皆から奇妙な顔をされてしまったからね」


 ニコルが苦笑した。そりゃホットドッグ王子と聞いたら微妙な反応をするだろうな。




*****



 青年は水晶に映像を映し出した。南の魔女――ルコラは映像が進むごとに眉間の皺を刻んでいく。


「……と、こんな感じです」

「こんな映像出せと誰が言った? ホットドッグ王子が順調に仲間を増やしているだけではないか」

「この映像を出せと言ったのはルコラ様ではありませんか」


 弟子である青年は小さくボソッと言う。ルコラは睨みを利かせる。


「くそう。これでは、ホットドッグ王子が食べられそうになっている危機一髪の瞬間、助けに入って『ルコラ様、惚れ直しました』と言わせる計画が台無しではないか」

「ホットドック王子を連れてくるようにけしかけた男達も返り討ちされてしまいましたしね」

「……ホットドッグのくせにケチャップ出せたり、レタス飛ばせたりできるのはおかしいだろう」

「自分で呪いをかけておいて何を言っているのですか」


 青年はルコラの歪んだ性格に慣れてしまったようで、ハイハイと軽く流している。

 ルコラは「もういいわ」と言い、仕事机に戻る。ルコラの仕事は魔法石に念を込めて、お守りの作成をしている。お守りの効能は高く、王国からも戦闘祈願の注文が入る。


 ルコラの真剣な横顔を見て、青年は「ホットドッグ王子が絡まなければいい方なのですけどね」と悲しげに呟く。ホットドッグ王子が十七才になるまでは我慢していたらしいが、誕生日が過ぎたところで感情の抑えが利かなくなってしまったようだ。


「僕、いいこと考えました」


 青年の声に、作業に没頭していたルコラは「なんだ」と顔を上げる。


「僕がホットドッグ王子に変身して王城に戻ります。長旅からの帰還とすればいいでしょう。そして言うのです。東の魔女ミランダ、美味しいホットドッグをお持ちのようだ。献上するように、と」

「確かにお前の変身技術は並外れたものだが……」

「第三王子の存在を隠したルコラ様の技術と僕の変身技術があれば大丈夫ですよ。――ですが、かなりの方に迷惑をかけています。ホットドッグ王子に、王族に、東の魔女ミランダ様に、民衆に。これで終わりにしましょう」


 ルコラは弟子の負担が大きいことに悩んでいたようだったが、渋々首を縦に振った。

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