3 ホットドッグ、町に出る
「なぁ、ホットドッグにはマスタード付けないのか?」
「付けないよ。辛いの苦手だもん」
小さく頬を膨らませてシュカは言う。
第三王子は袋に包装されて、バッグの中にいた。頭を出して外の様子を眺める。
昼時で賑わう繁華街を抜けると王城に近づく。特に、今日は建国記念日のため人通りは多い。
シュカは市場で東方の香辛料を物色して、緑色の粉を買う。自家製ケチャップを作るのに必要だと言う。
「そろそろ始まるね。君はこれを見たかったんでしょ」
ラッパのファンファーレが鳴り響く。正装の歩兵、騎馬隊が進み出ると大きな歓声が上がった。最後に黒いマント羽織った一団が手を振る。口笛を鳴らす人、手を叩く人で歓声に満ちる。
シュカは大きく手を振る。
「魔法軍だね。カッコいい」
「そうだな」
俺は魔法軍の一団を管轄していた。軍の中でもトップレベルの彼らは心強い。知り合いを何人か見つけるが、今の俺には眩しすぎた。
「王家のお出ましだね」
シュカは俺の向きを変えて上を見やすくする。
王城の屋上から、国王、王妃、三人の王子が出てきた。
「王子は皆才能があってこれからが楽しみだよね。第一王子フレッドは社交性があって、外交はもちろん国王の臣下からの信頼が厚いし。第二王子クランツは参謀としての期待が高く魔法軍の管轄も兼任していて、第三王子マリウス本好きで独自に言語学の研究をしていて……」
「第三王子マリウスだと! しかも第二王子クランツが魔法軍の管轄を兼任している?」
「そうです。王子の兄弟は三人じゃないですか」
俺は第三王子だった。王子の兄弟は四人だった。
まさか、俺は最初から存在しなかったことにされているのではないか。三人の王子を見せつけられると自分が必要とされていないようで悔しくなる。
どうやら魔女の呪いは強いらしい。人々の記憶の操作までしてある。そりゃそうだよな。一国の王子がいなくなったとなったら大騒ぎになるよな。
「帰るぞシュカ」
「急にどうしたんですか。本番はこれからですよ」
「どうせ、くだらない国王のスピーチだろう。聞くだけムダだ」
バッグの中で、後ろに寝転んだ。最近気づいた。バッグの中は揺りかごのようで快適だ。
シュカは続けて俺が何かを言うのを待っていたようだったが、諦めて小さく伸びをした。
「もったいない気もするけど、行きましょうか。人の流れで混む前に」
シュカは小さく言って、人の流れに逆らうようにその場から去った。
*****
「あいつの気配しねえか?」
「サイラス。俺は何にも感じないけど」
魔法軍の中で手を振りながら、サイラスは視線を走らせる。少女が人の間を縫うように、背中を向けて歩いている。
「これからが本番なのに帰っちゃうんだね」
「参加は自由だろ。……違和感は気のせいだったようだ」
サイラスは一つ息をついて、営業スマイルに戻る。
「サイラス兄さん、口ひきつっていますぜ」
「ニコル。いい加減仕事に集中しろ」
「しゃーせん」